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キャリア、という言葉はいかにも多義的で幻

それもそのはず、日本ではなじみの薄い
言葉、概念だからこそ、
「カタカナ英語」のままで使われている。
なかなか、訳しづらいのです。

本記事では、この「キャリア」を
深掘りしていきます。

例えば「キャリア論」とか、
「自分らしいキャリアを積もう!」などの
本や記事を読むと、最初のあたりに

◆「キャリアの定義」

という項目があります。それもそのはず、
いちいち定義をしておかないと
読者が思う「キャリア」と
筆者が思う「キャリア」との間に
齟齬、誤解が生じやすいから。

まず、手っ取り早く
「キャリア」のワードで検索してみます。
goo国語辞書によりますと、以下の通り。

《キャリア【career】 の解説》
①職業・技能上の経験。経歴。
②上級試験や一種試験に合格し、
採用された国家公務員。
《キャリア【carrier】 の解説》
①自転車などの荷台。
②物を運搬する器具。台車など。
③⇒担体 (たんたい) 
④保菌者。体内に病原体を保有しているが、
まだ発病していない者。感染源となりうる。
⑤「コモンキャリア(通信キャリア)」の略。
⑥⇒搬送波

…いっぱい、ありますね。
careerとcarrierという英単語があり、
これがどっちも「キャリア(キャリヤ)」と
日本語では表記されるから、ややこしい。

careerと、carrierは、全くの、別物。

careerのほうが、いわゆる
「キャリアコンサルタント」などの時に
使われるほう。
ラテン語の「車道」が語源。
「馬車の轍(わだち)」が語源です!と
よくキャリア本ではドヤ顔で書かれています。

要するに、車が通った「道」を指します。

ここから過去~現在~未来と、
時間的な連なりを表す言葉になったそうです。
(その意味では、キャリアを「積む」という
表現は、英語世界ではないそうです)

これに対して、carrierのほうは、
carry(運ぶ)にerがついた形です。
英文法的に言うと、yをiに変えてer。
「運ぶもの、運ぶ人」です。

だから荷台とか保菌者とか電波関係とか、
そういう意味になる。

これが、混同されている。ごっちゃ。

だって、同じ「キャリア」表記ですから。
そもそも英語の発音も違います。
アクセントも、違います。
あえてカタカナで書いてみると…。

◆career:カ「リ」ア、でリにアクセント
kəríɚ(米国英語), kəríə(英国英語)
◆carrier:「キャ」リア、で最初にアクセント
kˈæriɚ(米国英語), ˈkæri:ɜ:(英国英語)

ですので、いわゆる
「キャリアコンサルタント」の
キャリアの意味で使いたいときは、

「カ『リ』ア コンサルタンツッ(無声音)」

と発音しないと、
「ああ、伝染病防止の専門家さんですね!」
「どの携帯のキャリアを選べばいいか
相談に乗ってくれる方ですか?」と
とらえられても、おかしくない。

「…はいはい、わかりました。
細かいですね。細かい人はモテませんよ。
でも、ここは、日本ですから。別に、
カ『リ』ア コンサルタンツッ(無声音)なんて
オバQのドロンパみたいに
アメリカ帰り風に気取らなくてもいいんです。

国家資格でキャリアコンサルタント、
と表記されていますよね。何か問題でも?
平坦な発音でも意味が伝わればいいんです!
大事なのは、心ですからッ!」

そう思われる方も、
いらっしゃるかもしれません。

ですが、あえて提案してみたい。
「キャリア」というカタカナ英語、
運ぶ人じゃなくて、ラテン語で「轍」のほう、
career、日本語では、どう訳しますか?

「どうって…そりゃあ
仕事、経験、経歴、そう訳しますよ。
あ、今は、人生とか生き様とか、
そういう広い意味でも使われますね。
そもそも『轍』『道』ですから(ドヤ顔)。
何か問題でも?」

ええ、問題です。

相談をする側が狭義の「仕事」の意味で
キャリアという言葉を使っているのに、
相談を受ける側が広義の「道」の意味で
キャリアという言葉を使っていたら、
すれ違いじゃないですか。

大事なことなのでもう一度、繰り返しますが、
キャリア、という言葉はいかにも多義的で幻。

だからこそ、もし「キャリア相談」などを
行う場合、または受ける場合には、
徹底的に「キャリア」の意味を
事前にお互いで確認し、納得しておくべき、

だと私は思うのです。

特に、お金が発生するのなら。

…ここまで、キャリアコンサルタントを
例に挙げましたが、キャリア〇〇は、
世の中にはたくさんいらっしゃいます。

◆キャリアアドバイザー
◆キャリアカウンセラー
◆キャリアコーチ …他にも多数

それぞれを、日本語で無理やり訳してみます
(もちろん、それぞれの語も「多義的」ですが
あえて訳せば、というところです)

・コンサルタント=提案者
・アドバイザー=助言者
・カウンセラー=傾聴者
・コーチ/コーチャー=指導者

この四つに「轍」のほうの「キャリア」の
訳語を五つ列挙して、組み合わせてみます。
(国家公務員のほうは割愛します)

・仕事 ・経験 ・経歴
・人生 ・生き様

結果は、次の通り。

◆仕事提案者、仕事助言者、仕事傾聴者、仕事指導者
◆経験提案者、経験助言者、経験傾聴者、経験指導者
◆経歴提案者、経歴助言者、経歴傾聴者、経歴指導者
◆人生提案者、人生助言者、人生傾聴者、人生指導者
◆生き様提案者、生き様助言者、生き様傾聴者、生き様指導者

はい、四かける五で、
「二十通りの訳語」の完成。

さて、キャリアについて悩む人は、
どの意味で専門家に接するのか?
キャリアについて詳しい方は、
主にどの意味でクライアントに向かい合うのか?

…もちろん、「サポーター(支援)」や
「転職」「労働」「生きがい」など、
訳語を増やせば、もっとたくさんの
組み合わせになります。


その意味で言えば
「キャリア〇〇」の守備範囲、扱う範囲は
無限で、夢幻、なのです。


専門家以外の人は煙に巻かれやすい。
カタカナ英語のままであれば…。

まとめます。

キャリアというカタカナ英語は、多義的。
それにひっつく専門家も、たくさん。
だからこそ、すれ違いが生じやすい。
本記事ではそんなことを書きました。

多義的な呼び名ではなくて、
「生き様提案者」のように、

自分の得意なサービスを
明確に日本語で訳してみて、
「相談前」にお互いの相互理解を図っておく。


それが、「career」という概念を
欧米から直輸入した日本での
キャリアコンサルタントの
課題であるようにも思うのです。

誤解やすれ違いを、防ぐために…。

さて、読者の皆様は、いかがですか?
特に「キャリア」に悩む方や、
現職の「キャリア○○」の方は、
どう思われますか?

ご自身の求めるサービス、
提供するサービスは、
日本語で訳せば、どうなるでしょうか?

◆本記事のタイトルは司馬遼太郎さんの小説
『ペルシャの幻術師』から取りました。

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