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中華料理/中国料理ではおなじみ!
「ユーリンチー」という料理があります。
油淋鶏、と漢字で書く、
さて、読者の皆様はユーリンチーと聞いて、
どんな料理を思い浮かべますか?

「…衣をつけて揚げた鶏肉で、
一口大に切ってあって、
ネギ風味の甘酸っぱいタレが
かかった食べ物、でしょうか?
揚げ鶏の香味だれ、と言ってもいいですね」

ええ、私もほぼ同じです。
先日、下の画像の油淋鶏を食べました。
とてもジューシーで美味しかった!

…ただですね、この現代日本の油淋鶏を
本場の中国の方が見ると、
ちょっと驚く、と言うのです。

「こ、これは日本独特の料理ですね…」

本記事では油淋鶏の謎に迫っていきます。

まず、ジャパニーズ中華、とでも言うべき
アレンジされた料理を思い浮かべましょう。

例えば、ラーメン!
麺料理としての発祥は中国ですが、
かなり日本で独自に発達していますよね。

例えば、餃子!
皮に肉だねなどが入って
パリっと油で焼いたりするイメージ。
しかし、本場の中国では
焼き餃子よりも水餃子や揚げ餃子が多い。
皮が炭水化物なのでご飯と一緒には食べない。
日本でサンドイッチをおかずに
ご飯を食べることをしないのと同じ。

例えば、中華丼、麻婆豆腐、天津飯…。
日本風にアレンジされた料理は
枚挙にいとまがありません。

そもそも大陸由来で入ってきたものを
日本風にアレンジするのは
古来から行われてきたことです。
私がいま書いている文章も、
『漢字』と『かな文字』を使って
書いていますけれども、
ひらがなやカタカナも漢字のアレンジ。

油淋鶏も、それに似ているのです。
漢字から紐解いていきましょう。

油淋鶏、油・淋・鶏。
「淋」という漢字には
「注ぐ」という意味があります。
つまり、油を注ぎながら(かけながら)
調理する鶏、という意味です。

元々は「鶏一羽を丸ごと油をかけながら
熱を加えて調理する料理」

衣はついていない。切り分けていない。
鶏の皮がパリパリになるまで回しかける。

…このような鶏一羽を丸ごと、衣を付けずに
切り分けずに調理したものが
油淋鶏だと思っている人が、
現在の日本の町中華などで
「油淋鶏定食」を頼んだとすると、
仰天するのではないでしょうか?

「いや、これは『鶏肉の香味だれ』や
『鶏の唐揚げネギダレ風味』であって、
『油淋鶏』ではない」
と。

では、私たちがイメージする
油淋鶏は、どこから来たのか?

似たような料理が、台湾にあると言います。
その名も『椒麻鶏』(ジャオ・マー・ジー)!
鶏の唐揚げに花椒・黒酢・酒・醤油風味の
香りが高いタレをかけて、
唐辛子やニンニクなどを振りかけたもの。
…いわゆる「油淋鶏」に似ていませんか?

ただ、この椒麻鶏も、
台湾独自のものではない、と言います。
『雲南椒麻鶏』とも言われる。

雲南。うんなん。

中国の南端に「雲南省」があります。
四川省のさらに南。省都は昆明市。
東南アジアにかなり近い場所です。
ビルマ/ミャンマーやタイにも近いところ。

調べてみましたところ、雲南椒麻鶏は、
この中国の雲南省から東南アジアを経て
台湾に持ち込まれた料理のようなんですね。

第二次世界大戦後、中国では
「第二次国共内戦」が起こります。
その結果、中華人民共和国が生まれて、
国民党の一派は台湾に逃れる。

その過程で、雲南省の国民党の軍人と家族が
ミャンマーやタイの北部に移住する。
同時に椒麻鶏という料理を持ち込む…。

ところが1966年、中国で「文化大革命」が起き、
それがビルマ/ミャンマーにも飛び火する。
このために、1967年「排華事件」が起こる。
多くの華僑が殺害され、逮捕される。
中華系の学校が封鎖される…。

移住してきた国民党出身者たちは、
「このままビルマ/ミャンマーに残ると
子どもにとっても良くないだろう」
そう考えて、台湾に移住した。

こうして台湾にやってきた彼らは、
東南アジア風の料理を台湾にもたらした。
このうちの一つが『雲南椒麻鶏』と
呼ばれるものだそうです。

一方、日本ではどうだったのか?

1969年の『きょうの料理』では
鶏一羽を丸ごと調理する方法が
油淋鶏として紹介されていた。
つまり、元々の「油淋鶏」方式ですね。
今のユーリンチーでは、ない。

ところが、2005年の同番組では、
あらかじめ切って揚げた唐揚げに
タレをかけたものが
油淋鶏として紹介されている。
いわゆる「雲南椒麻鶏」方式です。

つまり、調理法が簡便化されて
アレンジされているのに、
名前だけは「油淋鶏」という
元々の名前が残ったという状態…。

さらに考えれば、日本には
「からあげ」がありました。
空揚げ、唐揚げ、とも書く。

こちらは江戸時代にはすでに
揚げ料理として存在しましたが、
1932年に三笠会館というお店で
中国の鳥の揚げ物をヒントにして
「若鶏の唐揚」として登場させた。
これが外食メニューとしての初登場。

(諸説あって、大分県宇佐市では
戦後にできた「からあげ専門店」を
発祥としています)

戦後の高度経済成長期には
アメリカから「フライドチキン」も
普及していきました。
今でも「鶏の唐揚げ」は大人気。

…そう考えますと、
切り分けた鶏を揚げて、味をつけることが
日本の料理現場では当たり前になっていった、
と考えられます。

考えてみれば、日本においては
魚介類を除いて食材を生きた姿のまま
丸ごと提供するような料理は少ない。
死生観、無意識の宗教上の禁忌、
そういったものもあるのかもしれない。

そんなこんなで、鶏一羽丸ごと
だったはずの油淋鶏は、
いつしか「雲南椒麻鶏」「若鶏の唐揚」と
混在して、アレンジされ、名付けられて
今の形になったのではないか?

最後にまとめます。

本記事では油淋鶏の謎に迫ってみました。
大陸発祥、東南アジア経由の
別の料理も踏まえて今の形になった。

このようなケースは、人間の
キャリアにも当てはまることがあります。

例えば『〇〇という企業に勤めていた』という
経歴が『独り歩き』して、
『元◯◯』というイメージでのみ、
その人のことを捉えてしまう。
何かで味付けされたアレンジイメージ、
二次情報だけで、その人のことを理解しがち。

誰かのキャリアをつかむ、知ることは
本来は時間がかかる、手間がかかる、
鶏一羽を丸ごと揚げるような作業、が
必要なはずです。しかし、
その手間を簡便化して、
あらかじめ切り分けられたものが
用意され、ささっといただいている…。

良い/悪い、ではありません。

私の自分に「キャッチフレーズ」をつけて
すぐイメージしてもらえるようにしています。
スピード勝負の現代社会では必須、でもある。
町中華でも、いちいち一羽丸ごとは
揚げていられない。

ただ、その簡便さに慣れてしまうと、
その人丸ごと、その後ろにある背景を
疎かにしてしまうこともある…。


手軽に、シャクシャクいただく。
じっくり、時間をかけて味わう。

両方が必要だな、と思った次第です。
皆様は、どう思われますか?

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