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パリっとした皮に「餡」が入る「もなか」!
もなかは『最中』と書きます。

さいちゅう。もなか。…さいちゅう?
◆最中:さいちゅう、進行している状態。
◆最中:もなか、和菓子の一種。

…結びつかない。なのに文字は一緒…?

本記事では「最中」と「餡」について
書いてみます。

結論から、ずばり申し上げます。
和菓子の「もなか」は、
何かが進行している状態の「さいちゅう」
という言葉が由来。

◆池の面に照る月なみを数ふれば
今宵ぞ秋のもなかなりける

この和歌が由来、という説が有力です。
秋の最中、さいちゅう。
『拾遺和歌集』の和歌。
源順(みなもとのしたごう)という貴族が
詠んだものだ、と言われています。

源順さんは、見事な月を見て、
「ああ、今夜の月は秋の真っ最中だ…」
ストレートに詠んだわけですけれども、

その和歌を知っていた公家さんたちが、
宮中で行われた月見の宴において、
「白くて丸い餅菓子」が出た時に
この和歌で詠まれた
「秋の真っ最中のお月様」に見立て、

◆「もなかの月」

と、この餅菓子のことを読んだ。
…というのが由来だそうです。

〇「丸い餅菓子」
=満月、秋の「最中」の月=もなかの月


じきに「丸くない」もなかが流通し始めた時、
「秋の月じゃないじゃん!」ということで
秋を省き、単に「もなか」と呼び始めた。

ちなみに、お月様にちなんだお菓子には
「月餅」(げっぺい)もあります。
これはお月見の時に食べる習慣がある。

◆月餅=基本、丸いまま
◆最中=月で丸かったが、四角も出てきた

では、平安時代には「餅菓子」だったのに、
なんで今はパリっとした皮のお菓子なのか?

現在のお菓子の「もなか」の源流は、
江戸時代中期、吉原のお煎餅屋さんの
「最中の月」というお菓子。

これはもち米粉に水を入れてこねて蒸して、
薄く伸ばして丸い形に切ったものを焼き、
仕上げに砂糖をまぶしたお菓子でした。
「丸い煎餅」にも似た「干菓子」。

しかし次第にこの「煎餅型の最中の月」に、
「餡」を挟んで売り出したものが出てきた。

餡のサンドイッチです。

ただ、サンドイッチはうまく食べないと
餡がはみ出て、手も汚れてしまう…。
どっちみち餡を入れるなら、
「はみ出ない」ほうが食べやすくない?
持ち運びにも贈答用にも便利だし…。

そこで生まれたのが
「餡を皮の『中』に入れた菓子」
これが、明治時代以降に定着していく。

…つまり、もなかの本体は餡ではない。
皮のほうだった。煎餅のほうなんです。
それを「餡サンド」にした。
じきに「餡がイン」になり、今の最中に!

平安時代に名前の由来を持つ「最中」。
本当は「月」の「餅」だったのが
江戸時代に「煎餅」になり、
次第に餡とセットになり、中に入り、
明治時代に「もなか」になった…。

これが、もなかのキャリア。

秋の丸い月という由来に囚われすぎず、
ポータブルなスタイルが抜き出され、
アレンジされ、様々なもなかが
各地で百花繚乱の如く生み出されていった。

この「キャリア大航海時代」において
各地で自分なりにキャリアの花を咲かせる
現代人に通じるものがありますね。


では次に、その最中の中に入っている、
「餡」(あん)についても考えましょう。

「あん、餡とは何か?」

…あんぱんに入っているのは、餡。
肉まんや餃子の中身も、餡。
あんころ餅の外側も、
あんかけ焼きそばの上も、餡。
範囲が広すぎる。

漢字から、調べていきます。

へんは「食へん」なので食べ物。
つくりは「人が落とし穴に落ちたさま」
表しているつくり。
このつくり、「カン」と読む。
転じて「エン」とか「アン」とも読む。

例えば「陥落」の『陥』。カン。
「閻魔」の『閻』。エン。
「火焔」の『焔』。エン。
ちょっと形は違いますが元は同じ。
陥落は、落とし穴的なものに落ちる。
閻魔様には、地獄に落ちたら出会えます。
火焔は奥で燃えている火、後に炎そのもの。

「はあ、なるほど。それでなぜ
『あん』は『餡』なの?」

つまりは「表面」「外」ではなく、
中身、穴の奥、そういう「中」にある
食べるもののこと
を表しています。
例えば、まんじゅうの餡は、
包み込まれて、外からは見えない。

これが、すなわち「餡」。

「でも、あんころ餅やおはぎは外ですよ?
あんかけ焼きそばの餡、中身じゃない」

はい、ここには、元々の意味が
「拡大解釈」されていった、という
日本独特のアレンジの歴史が隠されている。

そもそも「餡」(カン)とは、
甘いもの限定、ではなかった。
ただの「詰め物」という意味。

漢字は時代により読み方が変わります。
漢音では「カン」、それが時代が下り、
唐音や宋音では「アン」と読まれた。

経済が発達した室町時代~江戸時代、
日本で様々な「餡」が開発されます。
そのうち、饅頭や餃子の「中身」が
「アン」だ、という認識が広がる。
小豆に砂糖を加えて作ったものが
特に「餡」と呼ばれるようになる。


江戸時代は、比較的、平和な時代です。
お菓子を楽しむ余裕も生まれてきた。
そこでいわゆる「和菓子」が各地で
アレンジされ、生まれていきます。
技法、種類、演出も枝分かれしていく。

例えば、時代劇で
よく出てくる「茶店のお団子」。

これは団子の「外」に
餡が塗られたりもしています。
そう、中じゃなくても良くなった。
本来の「中身」の意味から、逸脱していく。

…となれば、糊のような状態の、
とろとろのも全部「餡」で良くない?
そんなノリで「くずあん」「くずだまり」、
くず粉や片栗粉に味を付けて
とろみのあるものにしたものまですべて
餡、あん、と呼ぶようになった…。

まさに変幻自在の解釈!

いったんまとめます。

◆元々は「中身」だけを指す
◆和菓子の発展、豆と砂糖の甘い「餡」に
◆外に出ても「餡」のまま
◆とろみがついていても「餡」になった

自在なアレンジを経てきたのが
現在の「餡」なのです。
カラーも味も、様々。

…キャリアに似ている。

人のキャリアにも、カラーがあり味がある。
普段は心の奥底、中にあって、見えない。
しかし、ぱくりと食べると出てくる。
ただ現代では、中に秘めたままだと、
誰にも見つけてもらえないかもしれない。
「落とし穴」にはまる危険性もある…。

プロティアン・キャリア。
変幻自在のキャリア。

これを「プロティ餡・キャリア」と考えれば、
「キャリアの餡」を自在に調理して、
外にも見せていく時代なのかもしれません。

「あん『こ』」のように、
子どもの時からのキャリア教育も大事…。

最後にまとめましょう。

本記事では「最中」と「餡」を
キャリアに絡めて書いてみました。

…読者の皆様の「キャリアの餡」は、
どんなカラーですか? どんな味?
どんな皮に包みますか? 外に出しますか?
最中風にパリっと? 薄皮まんじゅう?

いま真っただ中、最中の自分のキャリアを、
いかに外に、世の中に見せていきますか?

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