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世界を変えた箱、その名も「自動車」

18世紀に生まれた自動車は、
19世紀にガソリンの内燃機関を備えて、
20世紀にはどんどん世界で普及していき、
21世紀の今では「普通」に使われています。

マイカーの所有の有無にかかわらず
「自動車なしの社会」が考えられないほど、
世界に欠かせない箱になっている。


…ただですね、このような
世界を変えていくような
大きなイノベーションが起きる時には、
必ずその過程で「摩擦」「抵抗」
「試行錯誤」が生まれてしまう
ものです。

ほら、ケータイが世に出始めた時、
「四六時中、電話に縛られるような
生活はやるもんじゃないぜ!」と
頑なにケータイを持たない人は
周りにいませんでしたか?

テレワークが世に普及し始めた時、
「やはり対面じゃないとだめだ、
安心できないよね!」と
出社を強要、固執したり、
頑なにリモートを拒否したりする人は
周りにいませんでしたか?

さらに歴史を紐解いてみますと、

「機械」が工場に導入される時は
機械を打ち壊す「ラッダイト運動」と
いう運動が起きていますし、
「電気」が普及していく際には
「電柱」の設置を拒否するような運動が
起きたりもしています。

(それまで鎖国だった幕末日本に来た
欧米人も、国内で「攘夷」の名の下に
刀で斬り殺された人もいました)

現在では、機械も電気も海外からの人も
普通に社会に溶け込んでいますので
どうしても忘れられがちなのですが、

イノベーションが大衆に溶け込み
「普通」になっていくまでには、
さまざまな摩擦が生まれるもの。

現在の「常識」では耳を疑うような
決まりや運動が起きたりするもの…。

本記事ではそんな事象の一つ、
イギリスの「Red Flag act」について
書いてみたい、と思います。

この法律は、簡単に言えば、
「自動車に対する交通規制法」です。
1865年、19世紀のイギリスで生まれた。
日本で言えば、幕末真っただ中。
新選組の「池田屋事件」の翌年、
長州では高杉晋作が挙兵した頃。

どんな法律か、と言いますと、

『自動車は、郊外では、時速4マイル
(6.4km/h)以下で走りなさい。
市街では、時速2マイル
(3.2km/h)を速度制限とします。
自動車が走る前方では
赤い旗を持った者が先導して、
危険物の接近を知らせなさい』

という法律です。

…時速制限はともかく、
「人を雇って赤い旗で先導させろ」?!
今の自動車では、想像もつきません。
そもそも、人は車に追い抜かれます。
でも追い抜いちゃいけない…。
当時のイギリスでは
これが大真面目に行われていた。

建前は「市民を事故から守るため」。
これはわからないでもない。
ただし、この法律ができた裏側には
馬車業界の圧力があったと言われています。

自動車が普及する前、
乗り物として活躍していた「馬車」。
しかし、乗合自動車、つまりバスが
発展して普及すると、乗客を取られていく。
馬車の馭者たちが失業していく…。

馬車業界の関係者は、業界を守るべく
議会に圧力をかけ、この法律を作らせた。
つまり、自動車というイノベーションを
遅らせる、嫌がらせのような法律…。

(そもそも馬車だって通行人が
馬に蹴られたりして危ないと思うのですが)

…事実、この法律があることで
イギリスの自動車産業の進展は停滞します。
スピードが遅くなりました。
こんな規制をかける法律などが無い
アメリカやドイツの自動車メーカーが
技術革新を重ねて、躍進していく。

ついには20世紀、
世界のパワーバランスが変わります。
先発のイギリスを追い越して、
アメリカやドイツが「先導」していく。

市民や馬車業界を守るRed Flag actは、
結果的に、自動車技術の発達や
国自体を衰えさせてしまった。
目先にこだわり、大局を見失った悪例…。

「実に、愚かですねえ」

…そう思いましたか?

ただ、歴史は繰り返す、とも言います。
これと似たようなことが、現在にも
起こっているのではないでしょうか?

私も、つい目先の安さにこだわって
複数のスーパーのチラシを比較し、
1円でも安いところで買っておきながら、
いつの間にかコンビニで高いスイーツを
買ってしまったりしています。本末転倒。
大局的に考える、というのは
なかなか難しいもの。

人間、誰しも「常識」に囚われがちです。
過去はわかるが、未来はわかりにくい。

今では失笑されそうなRed Flag actも
当時は大真面目で議会で議論されていた。

「自動車の速度はゆっくりで大丈夫!」
「赤い旗で先導すればみんな気付くよ」
「馬車と同じくらいの乗り物だろう?」
「庶民が車を持つなど考えられない!」

それが、当時の常識だった。
自動車の秘めたパワー、世界を変える力、
そういったものは見て見ぬ振りをされた。

いま流行の「AI」などはどうでしょうか?

「自分で検索したほうが速いし…」
「結局、何に使えるかわからん…」
「人間の仕事が奪われるのでは?」
「赤い旗で危険を事前に促そう!」

そんな漠然とした恐怖がありませんか?
それはRed Flag actと共通するのでは?

もちろん、自動車の普及が多くの
(馬車の馭者などの)失業者と
交通事故の犠牲者を生み出した
ように、
AIも使い方を誤れば多くの失業者と
犠牲者を生み出す、かもしれません。

しかしながら、世界の流れ的には
自動車がどんどん普及していったように
AIもどんどん発達し、普及するでしょう。
おそらく50年後には、
今では考えられないほど
世界が変わっていると思います。

50年前、1973年頃には
みんな電車の中で新聞を読んで
仕事をしながら煙草を吸っていました。
50年後の2023年頃には
みんな電車の中ではスマホを見ており、
喫煙者は隔離されている…。

Red Flag act。
この多大なる機会の損失を生んでしまった
法律の教訓を活かすべきだ
、と思います。

最後に、まとめます。

本記事では「Red Flag act」という
19世紀のイギリスの法律を紹介しました。

ただ、ルールを作るのも人ならば、
ルールを壊すのも、また人です。
チャールズ・スチュアート・ロールズ、
というイギリスの貴族は、わざと
ロンドン市内で制限速度を無視した
ハイスピード走行を繰り返し、捕まって、
裁判の中でこの法律の撤廃を訴えました。

彼は、自動車が持つポテンシャルを
的確に見抜いていたのでしょう。

彼の運動もあって、
この法律は1896年に廃止されます。
彼は、ロイスという人と組んで、
新たな自動車製造会社を設立しました。

ロールス・ロイスの誕生です。

自動車の運転には、
アクセルとブレーキの両方が必要。
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でもブレーキだけだと、動かない。

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