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成り上がりとたたき上げ ~秀吉、博文、角栄~

日本史には「名門」つまり綿々と続く立派な
家柄の人たちが数多く出てきますよね!

例えば「藤原氏」。例えば「徳川氏」
その一族に生まれて順調に育てば、
苦労せずに活躍の場が与えられる…。

その一方、全くの徒手空拳から
「成り上がって」天下を握った人物もいる。
代表的な人物は、次の三人です。

◆豊臣秀吉
◆伊藤博文
◆田中角栄

豊臣秀吉は尾張(愛知県)の庶民の出。
それが織田家に仕えることで頭角を現して、
天下人になり、関白、引退して太閤になる。

伊藤博文は長州(山口県)の庶民の出。
それが明治維新などの流れで
政府の要職につき、初代の総理大臣に…。

田中角栄も越後(新潟県)の庶民の出。
学歴もない。しかしビジネスで力を蓄えて、
戦後には衆議院議員に当選!
ついには総理大臣、「今太閤」とも呼ばれる。

本記事ではこの三人の
「成り上がりとたたき上げ」を見ていきます。

…そもそも「成り上がり」とは
どんな由来の言葉か?

将棋において、相手の陣地に駒が進むと
「成って強くなる」ルールがあります。
例えば弱い「歩」の駒が「と金」になって
金将と同じ強さになるんです。
これを「成金」と言います。金です。

ここから「成り上がり者」という
言葉が生まれていく…。
低い身分、下っ端、取るに足らない人。
そんな弱者が、強者へと変貌すること。

ただこの言葉には、やっかみ、あざけり、
そんなニュアンスも込められています。
「あいつは成り上がり者だから…」と言う時、
「元は弱者だったのに、強くなって
気に食わない、調子に乗ってやがるぜ」

そんな意味が混じってくる。

似た言葉には「たたき上げ」があります。
これにはネガティブなニュアンスはない。
むしろ、賞賛する言葉。

苦労を重ねて、下積みを経て、偉くなった。
「苦労人」を指す言葉ですよね。
「たたき」とは「三和土」とも書く。
土間を作る際には何度も叩いて堅くする。
苦労に苦労を重ね、実力をつけた、
その人の努力を賞賛している…。

「成り上がり」と「たたき上げ」は
どちらも「下の人が上につく」意味です。
いわば「下剋上」。

豊臣秀吉、伊藤博文、田中角栄。
いずれも下積みを重ねた「苦労人」でした。
その意味では「たたき上げ」と言っていい。
しかし、いざ頭角を現して偉くなると
「成り上がりだ」とバッシングにも遭う…。

まず、秀吉から行きましょう。
1537年生まれ、1598年に亡くなる。

素性は本当にわからない。
秀吉自身は関白になる際に
「実は私は母親が宮仕えをした後で生まれた」と
天皇の落胤である、とほのめかしていますが、
まあ、作り話でしょう。

彼が「成りあがった」鍵は、
何といっても「織田信長」です。
まさに型破り、一世の風雲児!

信長が「完全実力主義」「家柄無視」で
秀吉の異才を見出して登用したからこそ、
どんどん出世できた。
パワハラ気味の信長の期待に応えて、
織田家の軍団長にまで出世、
信長死後は明智光秀や柴田勝家を滅ぼし、
「信長の後継者」の座を得る。

秀吉は、信長に仕える前の若い頃、
行商人だった、という説もあります。
時は戦国。
貿易や商業が盛んになっていた頃なので、
うまく「時代の波に乗った」ところもある。

次に伊藤博文です。
1841年生まれ、1909年に亡くなる。

農民の子として生まれた。
父親が長州藩の足軽の伊藤家に入ったので
一応「下級武士」になります。

彼が出世した鍵は「松下村塾」ですね!
有名な吉田松陰の私塾。
この塾では身分は関係ない。誰でも学べた。
農民だろうが高級武士だろうが、です。
現に伊藤博文の「兄貴分」の
高杉晋作は200石取りの偉い武士の家の出。

もう一つの鍵は「英国留学」でした。
1863年、20代で藩命により密航する。
世界情勢を知り「開国論者」になる。

藩内では高杉晋作のクーデターが成功、
藩政改革にも参加できるようになります。
維新後には英国留学の経験が買われ、
明治新政府で外国事務掛に。
岩倉使節団の副使にもなる。

さらに、新政府の実力者、
大久保利通の片腕になったのも大きい。
大久保が暗殺された後、
「内務卿」となって政府の中心になる。
1885年には初代内閣総理大臣に就任。
「新時代の総理は英語ができないとだめだ」
という理由が大きかったとか…。

最後に田中角栄です。
1918年に生まれ、1993年に亡くなる。

新潟県の農村生まれです。
しかし父親が鯉の養魚業、乳牛の酪農業に
失敗、貧乏暮らしを余儀なくされます。

1934年、16歳の頃に東京に上京。
土建会社、井上工業の東京支店で
住み込みで働きながら、土木科で学びます。
1937年、共栄建築事務所を設立。

ここで出世の鍵となる出会いがあった。
理化学研究所の大物、大河内正敏!
彼とエレベーターで偶然に乗り合わせる。

理研コンツェルンの仕事を受けて、
どんどんビジネスを拡大します。
1943年に「田中土建工業」を設立!
戦後、この会社の顧問だった
代議士の大麻唯男に献金したことを契機に、
政界入りを志す。1947年に初当選。

彼の政界入り後の出世の鍵は、
吉田茂の門下生、池田勇人、佐藤栄作、
彼らとともに活動した
ことです。

1960年代に池田・佐藤の政権ができると、
大蔵大臣や幹事長の要職を歴任します。
佐藤退任後に総裁選に名乗りを上げて、
1972年、総理大臣に就任…。

三人の足跡を駆け足で見てきました。
読者の皆様は、彼らの「成り上がり」に
共通するものを感じましたか?

まずは「キーパーソン」の下で
下積みをして実力をつけたこと
ですよね。

◆秀吉:織田信長
◆博文:高杉晋作、大久保利通
◆角栄:池田勇人、佐藤栄作

「時代を変えた」実力者揃い!
天下を狙う人の下で働いたからこそ、
天下を狙える力をつけられた。

次に「時代の変わり目の流れ」に乗ったこと。

◆秀吉:室町~戦国の商業貿易発展
◆博文:幕末~明治の開国・近代化
◆角栄:戦前~戦後の土建業・復興

『時代の申し子』という面がある。
だからこそ「お金」も集まったのでは?
家柄や身分を打ち破り、大事業を行うには
大量の資金が必要です。

最後にまとめましょう。

本記事では、三人の「成り上がり」を見て、
その共通点を考えてみました。

凄い人物と付き合い、自ら成長すること。
見る目がある人がいる場に飛び込むこと。
時代を読み、成長業界に詳しくなること。


『たたき上げ』となり、人の世にまみれ、
苦労を土台にした揺るがない実力を
身につけることで、ちょっとやそっとでは
へこたれないパワーを身につけられます。

ただ、もっと大事なことは、

現状を自らの力で変える「向上心」を持ち、
敵を減らして仲間を増やす「巻き込む力」
あるようにも思えるのです。あと「お金」

読者の皆様は、いかがでしょう?
どう考えましたか?

※大和田秀樹さんの漫画『角栄に花束を』もぜひ↓

◆豊臣秀吉、伊藤博文、田中角栄に
ついてはこちらの記事もぜひ。

※『秀吉のマネジメント』↓

※『大隈重信、早稲田と伊藤』↓

※『角栄と三人の師』↓

※伊藤博文と田中角栄などについて
また違った切り口から書いた記事はこちら↓
『3賛七描史(日本の政治)
~30年ずつ区切って、賛否両論ある人物
七人を描写する歴史~』

※古代の名門、物部氏、蘇我氏、藤原氏に
ついてはこちらの記事をぜひ。
『物部氏の謎と日本初の公開図書館』↓

※「位階」から
日本史を見てみた記事もぜひどうぞ。
『位MAX ~「冠位十二階」から現在へ~』↓

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