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「つぶあん派か、こしあん派か?」と言われれば、
私はどちらかと言えばつぶあん派ですが、

こしあんにはこしあんの良さがある、と
思ってしまうような浮動票。
つぶあん原理主義、というわけではない。

粒を残すか、こして滑らかにするか、の
違いですので、スタイルはそれぞれと思うのです。
しかしここで、立ち止まって考えてみます。

「あん、餡とは、何だろう?」

…あんぱんに入っているのは、餡ですよね。
肉まんや餃子の中身も、餡。
あんころ餅の外側も餡ですし、
あんかけ焼きそばの上に乗っているのも、餡。

範囲が広すぎませんか?
「餡子、あんこ」という言葉もあります。
「こ」って何でしょう?

本記事では、このような
「餡(あん)」のお話を書いてみます。

まずは漢字から調べていきましょう。
漢字は「表意文字」
漢字を探れば、意味が浮かび上がってくる。

へんは「食へん」なので、食べ物です。
つくりは? 見慣れない形の字。
…実はこのつくり、元々は
「人が落とし穴に落ちたさま」
表しているそうなんです。

「うーん、確かにおまんじゅうとか
美味しいですからね…!
一つだけ、と思っても、いつのまにか
三つくらい無くなっている。
まさに食の落とし穴、ダイエットの敵!」

…という意味では、ない。
それはただの食いしん坊。
このつくり、「カン」と読みます。
転じて「エン」とか「アン」とも読む。

例えば「陥落」の『陥』。カン。
「閻魔」の『閻』。エン。
「火焔」の『焔』。エン。
ちょっと形は違いますが、元は同じ。

陥落はそのまま、落とし穴的なものに落ちる。
閻魔様には、地獄に落ちたら出会えますよね。
火焔は、奥で燃えている火、後に炎そのもの。
『鬼滅の刃』の煉獄さんも心の炎を燃やしている。

「陥れる(おとしいれる)」の漢字は
「はしご」の意味のへんに「落とし穴」

貴重な食べ物などを入れた高床式の
倉庫のはしごの前に落とし穴を作り
泥棒から守った、つまり泥棒を「おとしいれる」
という意味から来た漢字、だそうです。

「ははあ、なるほど。それでなぜ
『あん』は『餡』なんでしょうか?」

つまりは、表面ではなく、
中身、穴の奥、そういう「中」にある
食べるものを表している
んです。
あんまんでも肉まんでもピザまんでも
中身は外からは見えない。
包み込まれて、外からは見えない。

これが、すなわち「餡」です。

「…なんか納得できないんですけど。
あんころ餅は? おはぎは? 外ですよね?
あんかけ焼きそばだって、中じゃないし」

はい、これには、元々の意味が
どんどん「拡大解釈」されていった
という
日本でのアレンジの歴史が隠されています。

それを、ここから紐解きましょう。

そもそも「餡」(カン)とは、
米や小麦粉でできた皮の饅頭の中などに
つめられた食材全般
を指していました。
甘いもの限定、というわけではない。

日本にはこの漢字、聖徳太子の頃に
入ってきた、と言われています。
この当時には、本来のように
ただの「詰め物」の意味だったんですね。

漢字は、時代によって読み方が変わります。
漢音では「カン」。しかし時代が下り、
唐音や宋音では「アン」と読まれました。
ちなみに、現代中国では
「シエン」と呼ばれ、全然違います。

経済が発達した室町時代~江戸時代、
日本でも様々な「餡」が開発されていきます。
ここで、例えば饅頭や餃子の中身などが
「アン」だ、という認識が広がっていく。

江戸時代には小豆に砂糖を加えて作ったものが
特に「餡」と呼ばれるようになっていきます。

江戸時代は、比較的、平和な時代。
日常生活でお菓子を楽しむ余裕も生まれてきた。

いわゆる「和菓子」が全国各地で
アレンジされ、生まれていきました。
「餡」=和菓子の甘いあれ、となったのも、
甘いものがいかに人々の心を
とらえたか、という証左でしょう。

なお「あんこ」と呼ばれるようになったのは、
明治時代のあたりから
だそうです。
現在の中国でも「餡」(シエン)のことを
口語で「餡子」(シエンズ)と言います。
「水滸伝」の時代、宋の時代からあった呼び名。
それが何らかの影響で入ってきた
とも考えられます。

(単純に「あん」より「あんこ」のほうが
呼び名が可愛いから広まったのかもしれません。
「子ども」が好きな菓子に使われたのもあり…。
他の「餡」と区別するためかも…)

それで、ですね。

「餡」=和菓子の甘いあれ、となった時、
様々な技法が生まれていきます。

時代劇でよく出てくる「茶店のお団子」
ドラマ『水戸黄門』で八兵衛が食べるやつ。
(ネタが古くてすみません)。
団子の「外」に餡が塗られている。
「上」にも、乗っていたりします。
そう、中じゃなくても良くなったんですよ。
あくまで「和菓子の甘いあれ」ですから。

となれば、糊のような状態になっている、
とろとろのものも全部「餡」で良くない?
そんなノリで「くずあん」「くずだまり」、
くず粉や片栗粉に砂糖や酒、味醂や醤油などを
加えて、とろみのあるものにしたものまで
餡、あん、と呼ぶようになっていった。
まさに変幻自在!

ちなみに中国では、あんかけのあんは
「くさかんむりに欠」という字を書いて
「チエン」と読みます。
全然違います。別物です。

あんかけのあんを「餡」と書くのは
日本独自の拡大解釈から、なのです。

ごちゃっと書いて、とろみが出てきましたね。
最後に、まとめていきましょう。
「餡」とは、何か? その流れは?

◆元々は「中」にある食材だけを指していた
◆和菓子の発展で、豆と砂糖の甘いあれが「餡」に
◆外に出ても「餡」になった
◆とろみがついていても「餡」になった
◆明治時代頃からは「あんこ」とも呼ばれた

というように、日本独自の自在なアレンジが
相当に入っているのが「餡」
なのです。

カラーも色々、ですよね。
小豆は赤みが入った黒ですが、
白いんげん豆などを使えば白あん。
うぐいす餡やずんだ餅は、緑色のあん。
サツマイモや栗を使えば、黄色です。

味わいも食感も、色々。
餃子の餡やあんかけ焼きそばの餡は
甘くない。むしろ、辛い。

…私はここに「人のキャリア」
重ね合わせてしまうのです。

人のキャリアにはカラーがある。味もある。
普段は心の奥底、中にあり、見えない。
しかし、ぱくりと食べると、出てきます。

ただ現代では、中に秘めたままだと、
誰にも見つけてもらえない、かもしれない。
「落とし穴」にはまってしまう危険性もある…。

プロティアン・キャリア。
変幻自在のキャリア。これを
「プロティ餡・キャリア」と考えれば、

「キャリアの餡」を自在に調理し、
あんころ餅やあんかけ焼きそばのように
外に見せていく時代なのかもしれません。

「あんこ」のように、子どもの時からの
「キャリア教育」も大事。

…さて、読者の皆様の「キャリアの餡」は、
どんなカラーですか? どんな味ですか?
粒のまま? こしますか?
どうアレンジして、どう世の中に出しますか?

※餡つながりで「もなか」も、良かったらご賞味あれ。


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