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短編小説

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#茨城県

短編小説「上曽峠」

短編小説「上曽峠」

「あげそじゃない、うわそ、だ」

と、彼は言った。

私は恥じ入った。それまでずっと
あげそとうげ、と誤読していたからである。

「…この峠はな、冬になると雪が積もり
しばしば、事故が起きた。
ゆえにこの峠の近くの住民たちは、
ずっとこのトンネルができるのを
待ち焦がれている」

彼は、独り言のように言った。
私は、その赤ら顔を見ながら、

「ではようやく、峠を登らずに
東西に行き来ができますね。

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短編小説『大洗と千の港』

短編小説『大洗と千の港』

私の名は、水輝。
大洗の在住である。

おおあらい、と言えば茨城県。
県都水戸の東にある、海の街。
ここが、私の舞台だ。

私の役目は、人をもてなすこと。

海鮮には、自信があった。
何しろ目の前には太平洋なのだ。
海の幸は、採り放題である。

しかし中には、肉を所望する人もいる。
そんな時、私は一つも慌てずに、
「常陸の牛肉はいかがでしょう?」と
そっと鉄板ごと差し出すことにしている。
たいてい

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短編小説「上曽峠」

短編小説「上曽峠」

「あげそじゃない、うわそ、だ」

と、彼は言った。

私は恥じ入った。それまでずっと
あげそとうげ、と誤読していたからである。

「…この峠はな、冬になると雪が積もり
しばしば、事故が起きた。
ゆえにこの峠の近くの住民たちは、
ずっとこのトンネルができるのを
待ち焦がれている」

彼は、独り言のように言った。
私は、その赤ら顔を見ながら、

「ではようやく、峠を登らずに
東西に行き来ができますね。

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