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【服部奨学生研究発表】 地球環境と私たち

〜学びのセーフティネット作り~ 【導入記事】

服部国際奨学財団では、奨学生による研究発表の場を設けています。先日公開した毛利きずくさんに続き、今回は、もうひとりの発表者である竹下琴里さんに執筆していただいた発表導入記事を公開します。ちなみに、竹下さんには、以前「オンライン哲学講座」に関する記事も執筆してもらいました。こちらもぜひ合わせて読んでいただけたら幸いです。



はじめに : 自己紹介・活動紹介

静岡大学大学院教育学研究科修士2年の竹下琴里(第15期奨学生)です。愛知県(名古屋市)に生まれ、社会人経験を経て、静岡大学大学院に進学し、2023年春期から奨学生として採用いただきました。これまで半年間の服部奨学生としての活動について紹介します。

5月 服部奨学金授与式

名古屋マリオットアソシアホテルで開催された服部奨学金授賞式。新たな出会いと活動への期待に胸が高まりつつ、大学に入学したときのような新鮮な気持ちで参加しました。それまで財団のslack(メッセージングアプリ)などを通じて交流を深めてきた新奨学生のみなさんとも対面で交流することができ、お互いの研究テーマを聞くなどして、今後の研究活動に向けても気持ちがとても引き締まったのを覚えています。

6月 オンライン哲学対話イベントへ参加!

私の専門である教育学の分野でも注目が高まっている「哲学対話」。イベント参加に向けて所属する研究室の藤井基貴先生(静岡大学)から哲学対話について教えていただきました。参加後は東京大学の梶谷真司先生をはじめ、哲学対話に関連する論文や専門書を読む機会が増えました。大学院での教育実習でも実践してみたいと考えるようになりました。

7月~ 服部奨学生が有志で立ち上げたイベント企画班に参加!

奨学生の仲間と「ビブリオバトル」を企画・運営しています。「ビブリオバトル」とは本の紹介を競い合うプレゼン大会のことで、企画に参加することを通して、自分が読む機会もなかった本に出会うことができましたし、新たな分野にも関心が広がりました。哲学対話やビブリオバトルの様子は、noteに掲載されているので、ぜひご覧いただければと思います。

半年間で多くの服部奨学生の方と交流を深める中で、国内外を問わずチャレンジする奨学生の姿に勇気をいただくとともに、自らを省みて気おくれしてしまうときもありました。その過程を通して、自分の強みを知ることや自分の専門性と向き合うことができたように思います。また、これまで知らなかった分野にも仲間の助けをえて、興味関心が広がっています。こうしたなかで自分自身も新たに何かに挑戦したいという思いが強くなり、11月25日に開催される「服部奨学財団15周年記念式典」の研究発表者に応募し、登壇する機会をいただきました。
当日は私が静岡大学で取り組んでいる防災教育の活動について紹介させていただき、みなさんから新たなアイデアやご意見をいただければと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

テーマ : 「地球環境と私たち」

 今回のテーマである「地球環境と私たち」。みなさんはこの言葉から何を想像しますか?地球環境は多くの恵みを私たちに与えてくれますが、ときに自然災害をはじめ私たちに試練をもたらすこともあります。私たち人類は地球環境とそのつど対話し、文化を育み、継承して、今日の社会を築くにいたっています。わたしがそのことを最初に体感したのは2000年9月11日のことでした。その日、名古屋は未明から雨が降り出し、夜から翌日の朝にかけて豪雨となりました。「東海豪雨*」として今も語り次がれています。私は実家のある名古屋市の野並で東海豪雨による被災経験をしました。雨は降りやまず、自宅は最終的に二階まで浸水し、その間わたしがしていたことは雨が止むのをただ室内で祈ることだけでした。

自宅周辺の様子
左:12日には住居2階部分の約2mまで水が達した。右:13日には水が引いたものの、道路にドラム缶やゴミが散乱していた。

*東海豪雨:2000年9月11日から12日に東海地方を襲った豪雨災害。名古屋市内の37%が浸水し、伊勢湾台風に次ぐ浸水被害となった。

あのときの無力感と何も出来なかった、また事前に何もしていなかったことへの反省が現在の教育・研究活動の原点となっています。

 防災の分野でよく言われることは地球環境の「現象」と「災害」とを区別することです。例えば、東日本大震災というのは、東北地方太平洋沖地震によって起きた災害です。つまり、「地震」という現象があったとしても、何も被害がなければそれは「災害」とは呼ばないのです。そのための準備が防災や減災の取組となります。日本は四つのプレートに囲まれた島国であり、古くから地震や火山噴火による自然災害に見舞われてきました。先人たちはこれらの災害を経験し、知恵や教訓を得てきました。また、近年では気候変動に伴う大規模な豪雨災害も毎年のように各地で発災しています。このような自然災害に対して、耐震補強や治水ダムをつくるなどのハードウェアの整備も進められています。その一方で、私達がどのように思考・判断して、地球環境と向き合い、備え、対応するのかというソフトウェアに関する整備についてはまだまだ課題が多くあります。その分野を担っている一つが私の専門とする防災教育です。

研究活動 : 防災教育の新しいアプローチ

 「防災教育」と聞いて、みなさんはどのようなイメージがあるでしょうか?私の経験では防災教育といえば避難訓練でした。静岡県では避難訓練がとても盛んで、学校によっては毎月避難訓練を実施しているところも数多くあります。しかしながら、避難訓練の回数を増やすだけでは、防災力は高まっていきません。というのも先生やリーダーの指示にしたがっているだけでは、「指示待ち」状態にすぎず、主体的な防災行動を身につけることができないためです。あわせて、むやみに不安や恐怖をあおっても効果は期待できません。教育の世界では「教鞭」というように歴史的に体罰を通して、つまり不安や恐怖を利用して、子供を矯正することが行われてきました。そうしたアプローチは防災教育について効果的といえるでしょうか。むしろ、子供の行動を萎縮させ、「指示待ち」にしてしまうリスクがあるのではないでしょうか。また、自然を過度に恐れることは人類と地球環境との共生を難しくしてしまうかもしれません。
 こうした反省から東日本大震災以降、日本ではさまざまな防災教育についての取組が広がっています。その一つが、私が所属している研究室で教材開発を進めている「脅さない防災」です。11月25日の発表ではその具体的な方法や成果についてもお示ししたいと思います。また、防災行動には「主体性」が欠かせません。児童生徒が主体的に防災行動をとるようにするには他にどのようなアプローチを組み合わせる必要があるでしょうか。この部分が当日の発表の核心となると思います。以下にその様子を撮影した写真を掲載しておきますので、活動の様子を想像していただけると嬉しいです。
 また、防災には「答えがない」とよく言われます。つまり正解というものがなく、私達はその都度その都度、最善解、最適解、納得解を考えなければなりません。そこには専門家による説明だけでなく、家族間、市民同士での対話が必要になるのです。実は防災の分野でも近年は「哲学対話」の手法が注目を集めています。発表の後には是非わたしに会場でお声かけください。一緒に防災について対話を始めましょう。

防災教育ワークショップの様子

おわりに : 感謝にかえて

 私は社会人経験を経て、仕事をしながら大学生活を始めました。高校を卒業したときは経済的な事情もあって大学に行くことをあきらめていたのですが、静岡大学の夜間主コースを知り、学びを再スタート、継続させることができました。大学では念願であった教員免許を取得し、さらに専門性を磨きたいと静岡大学の教職大学院に進学しました。初年度は学業と仕事の両立で精一杯でしたが、2年目より服部国際奨学財団のご支援のおかげで、経済的にも精神的にもゆとりを持つことができ、大学院での研究に専念できています。もしご支援が無ければ、学業の継続は困難であったと思います。
また、服部国際奨学財団に採用いただけたことで、奨学生としての活動や研究発表の機会もいただきました。大学を超えた人との出会いや、かけがえのない学びをいただいています。当日は感謝の思いを胸に登壇し、皆さんの前で私のこれまでの教育・研究活動の成果を発表できたらと思います。当日はよろしくお願いいたします。


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