【プロマネ】プロジェクトで活かす4つのリーダーシップスタイル
プロジェクトマネージャに必要とされるスキルセットの一つとして、「リーダーシップ」があります。以前ご紹介したアダプティブリーダーシップが、個人の資質にフォーカスをした理論でしたが、今回はリーダーとメンバーとの関係性を中心に考察を進めようと思います。
PMIタレント・トライアングル
まずプロジェクトマネージャにとってのリーダーシップについておさらいをします。PMI(Project Management Institute)では、プロジェクトマネージャに必要な資質として、「プロジェクトマネジメントの技術」のほかに、「戦略的及びビジネスマネジメント」と「リーダーシップ」についてあげています。
テクニカル・プロジェクトマネジメントのスキルはプログラムマネジメントおよびプロジェクトマネジメントの中核であるが、ますます複雑化し競争が激化する今日の世界市場では、それだけでは十分ではないことをPMI調査は示している。組織は、リーダーシップおよびビジネス・インテリジェンスにおいて、さらなるスキルを求めている(出典: PMBOK Guide 第6版)
PMIタレント・トライアングル(PMBOK Guide 第6版から)
プロジェクトを解像度を上げていくと、全て人間がやっているタスクに行きつきます。そのため、人間が何を考え、どう行動するかも、プロジェクトマネジメントを考えるうえで重要視するべき要素になります。
経営学者のドラッカーは「リーダーの定義は、フォロワーが居る人である」と言いました。少し単純化しすぎなきらいがありますが、世界一のメンターと言われるジョン・マクスウェルの定義「リーダーシップは影響力である」と組み合わせてとらえると、少し真意に近づきそうです。
解釈すると、メンバー間の相互作用で影響を与える側の人がリーダーであり、その影響の行使をリーダーシップと捉えればよいのかと思います。
リーダーシップは、経営や軍事などの分野で研究が進められています。その理論と、プロジェクトでの実践を関連付けながら、リーダーシップのスタイルを紹介していきたいと思います。
抑えておくべき4つのリーダシップスタイル
プロジェクトの中でのリーダーシップのあり方は、今日に至っても完全には確立されていません。不確実性が高く、変化をする環境であることに加え、リーダーとメンバーの関係性によって、同じリーダーシップスタイルが毎回効果的に働くとは限らないからです。
そうした中でも、プロジェクトマネージャが理解するべき、リーダーシップのスタイルがいくつかあります。ここでは4つご紹介いたします。
1. トランザクショナル・リーダーシップ(取引型)
2. トランスフォーメーショナル・リーダーシップ(変革志向型)
3. サーバント・リーダーシップ(サポート型)
4. シェアード・リーダーシップ
私も現在に至るまで、様々なタイプのリーダーシップに触れてきました。また試行錯誤しながら、自分のリーダーシップのスタイルも形成してきています。その現場経験も踏まえながら、それぞれのスタイルについて説明をしていきます。
1. トランザクショナル・リーダーシップ
トランザクショナル・リーダーシップとトランスフォーメーショナル・リーダーシップは、バーナード・バス氏(アメリカの学者 1925 - 2007)によって提示された概念です。
このうち、トランザクショナル・リーダーシップとは、心理的な取引・交換をもとにメンバーとの接点を持つスタイルです。簡単に言えば、成果には報酬を与え、失敗にはペナルティを与える手法です。
ここで重要なのは、その評価が公正で、報酬が正当であり、それを与えられる側のメンバーが納得し満足することです。また、メンバーが成果をあげている限り「任せる」ことも重要で、それがリーダーとメンバーの間の信頼感・義務感の醸成につながります。
このリーダーシップスタイルは、一般的に意識されている方も多いと思いますが、実際に効果的に行われていることは少ないです。
今まで社会人として経験してきた中で、メンバーが自発的に組織を去る場合に、一番多いのが評価に対する不満です。組織からの期待が明確にされていない中で、客観的な評価軸もなく、リーダーの主観で評価を受け、不満を募らせるケースは、実はかなり多くあります。
実際にこのトランザクショナル・リーダーシップのスタイルを用いて運用する場合には、組織の中でのメンバーの期待値を明確にし、できるだけ客観的で定量的に評価できる指標を設ける必要があります。
そして、きちんとメンバーのパフォーマンスを見て、適宜、称賛し改善点を指摘します。メンバーが、きちんと見てもらっている実感を持つことも重要です。
最後に評価のタイミングでは、明確なロジックで評価を行います。人事の相対評価に対する難しさはありますが、そこで被評価者に対して差をつけられないのは、評価者の評価に対する自信のなさの現れでもあります。
2. トランスフォーメーショナル・リーダーシップ
続いてトランスフォーメーショナル・リーダーシップですが、これはビジョンと啓蒙を重視するスタイルです。
達成するべき姿(Vision)を描き、そのために何をするべきなのか(Mission)を明確にし、メンバーに道筋を示したうえで、バイタリティを持って引っ張っていきます。
トランスフォーメーショナル・リーダーシップはカリスマ型リーダーシップとも類似点が多いですが、一つ違うのはメンバーの自立性です。トランスフォーメーショナル・リーダーシップのスタイルでは、メンバーの盲目的な従属ではなく、より自立性をもって行動することを求めます。
その自立性を持たせるために、メンバーが新しい視点で考えることを促し、自分の組織の中での役割や、指示として受けたタスクの意義を考えさせます。そして、コーチング・教育を業務を通じて行うなかで、メンバーと個別に向き合い、その成長を重視します。
このリーダーシップスタイルが機能している状況では、メンバーは組織のビジョンを自分に取り込み、リーダーのビジョンにそって行動するようになります。リーダーはメンバーのそうした自発的な行動を、承認し褒めることが重要です。
トランザクショナル・リーダーシップとトランスフォーメーショナル・リーダーシップは矛盾する概念ではなく、優れたリーダーを示す類型を考慮した場合には補完関係にあります。
ですがプロジェクトマネージャとして、より意識するべきスタイルはトランスフォーメーショナル・リーダーシップです。
プロジェクトは定常業務と比較して不確実性が高く、状況が変化するため、状況に応じた個人の判断が重要になります。状況が変化するとトランザクショナル(取引関係)での期待値は変化します。一方で、自立性を重視し、ビジョンに沿った行動を促すトランスフォーメーショナルなリーダーシップは、そうした場面でも機能します。
プロジェクトの中でプロフェッショナルサービスとして自分が意識してやっていることは、プロジェクトの意義・目的をメンバーに腹落ちさせることです。
私のアプローチは、社会情勢や経済、マーケットの状況から、まずクライアント企業の現状分析を優先します。次に、実行するプロジェクトの意義、目的をプロジェクトチャーターに丁寧に盛り込みます。
プロジェクトの意義や目的は、ROIだけにフォーカスしません。企業の経営目標や、社会的意義から落としていきます。そして目的を達成するための手段として、プロジェクト実行を解釈していきます。
そしてメンバーのプロフェッショナルとしての在り方とともに自分の解釈を伝え、常に具体的なタスクではなくアプローチを示すようにしています。
これは尊敬する上司・先輩の類型を見て見様見真似で確立してきたことでもあります。同時に、自分一人では全部みられないという原体験(以下Noteご参照ください)から、配下に自分と同じように考え、行動する人が必要という考えに至り、知識として体系化するまえにスタイルとして形作ってきたものでもあります。
3. サーバント・リーダーシップ
サーバント・リーダーシップは、提唱されたのは1970年代ですが、プロジェクトマネジメントの分野で、2000年以降、再度注目を集めています。
このスタイルは学者でありコンサルタントでもある、ロバート・グリーンリーフ(1904 - 1990)が提示したものです。ここでは、グループの中でリーダーはメンバーに奉仕する存在として定義されています。いわく、リーダーはメンバーのニーズを満たし、メンバーの成長を手助けします。
このスタイルが注目されているのは、スクラムでのプロジェクトマネジメントとして、サーバントリーダーの考え方が用いられているためです。
スクラムではプロジェクトマネージャは存在しませんが、その代わりにスクラムマスターがいます。スクラムマスターはスクラムチームを機能させるため、進捗阻害要因となる障害を取り除くファシリテーターとしての責任を持ちます。
そして、チームがスクラムフレームワークで合意されたプロセスに従っていることを確認し、主要なセッションをファシリテートしチームの改善を促します。
スクラムマスターの主な役割は以下の通りです。
・プロダクトオーナーがバックログを管理することをサポート
・ステークホルダーの意見を取り入れながら、プロダクト開発完了までのプロセスをサポート
・スクラムの原則に従い、チームをコーチング
・チームの自己組織化を促進
・内外問わず、スクラムチームの進捗阻害要因となる障害を取り除く
・チームの定例イベントの開催をファシリテート
・アジャイル、スクラムの原則についてステークホルダーを教育
・領域や組織を超えた協調についてコーチング
スクラムマスターがプロジェクトマネージャと異なる大きな点は、人事管理上の責任を持たない点です。スクラムチームはそれぞれ権限を与えられ、自己組織化を期待されるため、スクラムマスターの"指示"は限定的になります。
言い換えると、スクラムマスターが存在する意義は、スクラムチームにスクラムに集中してもらうことです。
4. シェアード・リーダーシップ
最後に紹介するのが、シェアード・リーダーシップです。これはグループの中で特定の人物がリーダーシップをとるのではなく、複数の人物、もしくは全員がリーダーシップをとるという考え方です。
経営学などの分野での研究としては比較的新しい理論、スタイルになりますが、概念自体は共和制ローマの時代に遡れるという学者もいます。
シェアード・リーダーシップが最近注目されてきている理由の一つは、企業がプロセス改善よりも、イノベーションを重視するようになってきているからだと考えています。コンサルティングのプロジェクト自体も、プロジェクトの目的が「改善」ではなく「創造」に繋がるテーマが増えてきています。
知の創造にはメンバー同士の意見交換("ワイガヤ")が重要で、その意見交換を促すには組織への帰属意識、当事者意識が動機づけになります。プロジェクトにおいてもメンバーという立場では、コミットする範囲が限られますが、自分のプロジェクトだと意識することでコミットメントの幅が広がり、プロジェクトテーマに対しての当事者意識が生まれます。
そして、そのシェアード・リーダーシップの中で、各メンバーがとるべきリーダーシップとしては、トランスフォーメーショナル・リーダーシップを執ったときに一番パフォーマンスがでると言われています。
組織を変革しよう、社会を変えようという意識をもったもの同士の対話によって、イノベーションが生まれるということです。明治維新や高度経済成長期の日本の姿も、実はその風景の一部かもしれません。
優れたリーダーの類型
プロジェクトマネジメントを行う際に、効果的なリーダーシップスタイルとして4つのスタイルを紹介してきました。本文中で何度か触れていますが、これらのスタイルは相互に矛盾しあうものではありません。
一番中心に置くべきはトランスフォーメーショナル・リーダーシップで、そこに対してシェアード・リーダーシップとの組合せや、トランザクショナル・リーダーシップとの補完、サーバント・リーダーシップとの使い分けを行っていくことで、ほとんどの状況には対応できると考えます。
こうしたリーダーシップを発揮するために、一番最初に必要なことは、自分のリーダーとしての内省です。自分自身と向き合い、自分の考えを振り返り、自分がだれで、何をしたいのかとことん考えることです。自分に問いかけ、目指していることが明確になったら、周囲に発信しましょう。
先に紹介したアダプティブリーダーシップと合わせて、この内省力と発信力が、リーダーシップの一番ベースとなる部分の資質だと思います。
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