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【DX】ビッグデータと企業の変革について

「ビッグデータ」という単語が2010年代、IT業界のトレンドとして席巻していました。定期的に出ては消えていくバズワードの一つとしてみる向きもあり、今日ではビジネスの会話で話題に上ることも減ってきたように感じます。

しかしビッグデータが指していた概念は、世間の興味とは別に、重要性はさらに増してきています。まずは、ビッグデータとは何か、一般的な定義で分かりづらいところ、あいまいなところは、私自身の解釈も交えながら説明していきます。

ビッグデータとは何か?

ビッグデータはテクノロジーやハードウェアの加速度的な進化により、従来のデータ管理の常識では扱えうかうことができなかったサイズのデータが扱えるようになり、使われるようになってきた言葉です。

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また、サイズだけではなく、データの種類についても、その概念的に、構造化データ、半構造化データ、非構造化データを包含して扱います。

企業にとってビッグデータ登場以前のデータは、人間が意味のある塊に識別をし、構造化してはじめて資産として活用することができました。それが今日では、当時"生データ"とよく言われていた、そのままの状態では価値があるとは信じられていなかったデータが価値を持つようにもなってきています。

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非構造化データを管理することができる大量ストレージの実用化と、演算処理速度の向上も条件の一つですが、加えて、そうしたデータを活用できるようになったテクノロジーの進展もあります。

例えば、データマイニングの手法の一つとしてテキストマイニングがあります。これはSNSやWebサイト上のコメントなどのフリーテキストを、自然言語処理で人間にとって意味がある塊ごとに抽出する処理です。

代表的なものはGoogleなどのロボット検索で、WWW(インターネット)上にあるWebサイトの膨大な量のテキスト情報から、検索に用いる索引(インデックス)を作成しています。企業が業務で利用する場面では、アンケート集計やコールセンターでの音声データをテキスト化したものにマイニングをかけることで、製品・サービスに対する課題やニーズを分析する形で実用化されています。

その他の非構造化データ活用を可能にしているテクノロジーで身近なものとしては、スマートスピーカーやAIアシスタントで用いられている音声認識や、自動運転などで実用化されている画像認識などがあります。

自然言語処理もそうですが、音声認識、画像認識の背後には機械学習(マシンラーニング)、深層学習(ディープラーニング)の進展と実用化があります。

ビッグデータとクラウドコンピューティング

ビッグデータを成り立たせているのは、非構造化データを含めて管理することができる大量ストレージの実用化と、演算能力の向上、そして機械学習、深層学習の進展ですが、これらに加えて重要なビルディングブロック(構成要素)の一つであるのはクラウドコンピューティングです。

スマートフォンを多くの方がお使いだと思いますが、iPhoneであれば「Hey Siri」、Androidであれば「Ok google」と呼びかけるとアシスタント機能が立ち上がると思います。

こうした機能は、オフラインの時には完全には機能していないはずです。それはクラウドへの常時接続を前提として、音声データなど非構造化データを含めてのビッグデータへのアクセスと、クラウドコンピューティング上での演算により実現しているからです。

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データの価値を生む精度

見過ごされがちではありますが、ビッグデータに価値を持たせる最後のピースは、そのデータ精度です。ここではデータ精度の差がビジネスに与えうるインパクトについて、GoogleとAppleの地図データの事例をもとに考察していきます。

GAFAといわれる巨大テック企業の中でも、データをコアコンピテンシー(競争力の源泉)としているのはFacebookとGoogleです。どちらも収益の大半を広告に依存していますが、その背景には収集された大量のデータと、それを利用するテクノロジーの価値を広告主が認めていることにあります。

さて、地図データの話ですが、2007年に初代のiPhoneが発売され、当初iOSに搭載(バンドル)されていた地図アプリはGoogleマップを利用していました。それが2012年にiOS6が公開され、Apple独自の地図情報を用いるものに切り替わったのですが、位置情報や名称など「データの精度」が悪く、大きな混乱を生みました。

CEOのティム・クックが「改善するまで競合アプリをダウンロードして使うよう」ユーザに勧めたことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

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2021年現在ではGoogleとAppleの地図情報がどちらが優れているとは言いづらいと思いますが、当時はAppleがGoogleよりは少なくとも地図アプリの世界では「データの質」に気を配れていなかったのは間違いないといえるでしょう。

Googleマップを利用するとわかると思いますが、目的地の住所なり名称なりで検索をすると、即時に結果が表示されます。地図データの膨大さを想像すると、これは凄いことだなと思います。

さらに、その地図にはストリートビュー、サテライトビューと、これも大量の非テキストデータが紐づいており、ここにスマートフォンからアクセスすることができます。

こうした膨大なボリュームのデータを、これだけ正確に管理されていることは驚異的なことで、2012年のiOS6公開に伴うAppleの混乱が、Googleのデータ精度の高さを知らしめる結果になりました。

細かい数字は公開されていませんが、Googleマップが検索に続く収益の柱になりつつあるといわれています。(Airbnb, Uberなどで利用するアプリへの課金が主な収益源のようですが、地図と連動した広告ビジネスについても慎重に検証がすすめられているようです)

ビジネスインテリジェンスでできることと、ビッグデータでできること

社会で表象化されているトレンドを研究すると、それぞれ別々に語られている概念が、実際には関連しあって一つのトレンドを形成していることに気づくことがあります。

ビッグデータという概念が喧伝される以前に、データ分析の領域で主要な概念として使われていた言葉は「ビジネスインテリジェンス」でした。ビジネスインテリジェンスはBIと略されることもありますが、今でも有効な概念です。

今から10年以上前にビジネス系の専門誌に「経営に役立つビジネスインテリジェンス」という記事を投稿したことがありました。そこで私はビジネスインテリジェンスの真髄は「KPIを中心にしたPDCAサイクル」であると述べました。KPIとはKey Performance Indicatorの略で日本語では重要指標の意味で、PDCAはPlan Do Check Actionの略です。

身近な例だと健康診断の診断表を、イメージしていただければわかりやすいのではないかと思います。血糖値やrGTPのようなものがKPIです。そして、KPIに対して正常値の基準があり、その基準に基づいて所見が下されています。また、個人ではこのKPIを改善するために、運動であったり食生活改善の計画をたて、実行し、また翌年の健康診断で確認し、あらためてその値をもとに新たな対策を考えます。

企業も同じで、健康状態が経営状況という言葉に変わります。以下、オムロンの逆ROICツリーでの例です。

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(オムロン資料を基に作成: 逆ROICツリー)

ROICはReturn On Invested Capitalの略で、日本語では投下資本利益率で、近年ではROEやROAなどの経営指標と並んで、重視する企業、投資家が増えてきています。(なお、指標そのものへの詳細説明は、ここでは避けます。)

ビッグデータの概念が出てきたことで、ビジネスインテリジェンスの概念もよりシャープにイメージすることが可能になりました。経営指標に数学的につながる密度の高いデータ(構造化データ)で、記述統計を用いるものがビジネスインテリジェンスといえそうです。

一方でそれに対してのビッグデータでは、テキストマイニングの例で見た通り、大量のデータ分析から、潜在的なニーズや、規則性の発見といったところで力を発揮します。このタイミングではKPIは要をなしていません。

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ここでビジネスインテリジェンスとビッグデータ分析の違いについて整理を試みましたが、ビジネスインテリジェンスが既存のオペレーションの磨きこみに対して有効であるのに対して、ビッグデータ分析はより探索的な分析に対して有効であることがわかります。

端的に言えばリーンスタートアップなどプロトタイプを用いての、事業そのものの探索と組み合わせて利用すべきものがビッグデータ分析です。

(探索的なアプローチについては、こちらのnoteにかきました)

つまり、破壊的イノベーションに対する対応として、両利きの経営で知の探索を企業が図る際に有効なアプローチが、リーンスタートアップなどアジャイルに影響をうけたアプローチであり、それをデータ的な観点で下支えるするのがビッグデータ分析というイメージです。

ビッグデータの概念を理解し、経営のための分析を行う

ビッグデータは当初、実体感が伴わない形で、ITベンダーのマーケティング用に使われたところがありました。しかし、データサイエンスなど含めて実践に移行してきたところで、バズワードという立場からは卒業しているように思います。

いっぽうで、きちんとビッグデータという概念を咀嚼したうえで、今の実践段階に進んでいるかというと、すこは少し疑問です。

特に企業のビジネス側にいらっしゃる立場の方にとって重要なのは、ビッグデータが誰の、何のために必要なものなのか、立ち止まって整理・理解することではないかと考えます。

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