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【教訓・名言】多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない(カエサル)

塩野七生さんの著書「ローマ人の物語」でユリウス・カエサルの言葉として紹介している言葉があります。

「人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない

原文を直訳すると「人間は望むことを喜んで信じる」ということだそうですが、コンサルタントとして仕事をしていると、こういうことはよくあると感じます。

事実と現実の違い

私たちの仕事であればファクト(事実)を抑えることは誰でも意識していると思いますが、ファクトに対しての解釈は多様です。そして、各々の解釈を通して認識したものを、私たちは現実と呼んでいます。

つまり現実とは、一つのファクトを、どの視点で、どの切り口で、どう見るかによって変わってくるということです。だからこそ、物事を多面的、重層的にみる力が必要になり、そのために教養が必要になります。

ここでの教養は、ノウハウと比較して考えると分かりやすいのではないかと思います。

コンサルティングという仕事においては、何かを行うための直接的なやり方、答えを知ること、つまりノウハウは、じつはそれほど重要ではありません。今日のビジネス環境は複雑であり、多くの場面で市場は短い期間に変化を繰り返します。昨日有効だった手段が、今日も有効とは限りません。

それよりは、ファクトを目の前にしたときに、例えば過去の歴史を知ること、文化を知ること、社会を知ること、あるいは哲学、宗教を知ることで、様々な切り口からの解釈が可能になります。

逆に言えば、この解釈の多様性を手に入れることが、社会人になってからも教養を学ぶ意義であると考えています。つまり、教養とは思考の枠組み、フレームワークと言えます。

そこから更なる解釈の深掘りとして、思考プロセスの中でフレームワークを組合せ、ロジカルに物事を整理していきます。

あるソリューションをクライアントに提示するときに、それが唯一の正解ではないことは往々にしてあります。その中でも優秀なコンサルタントは、説得力と揺るがぬ確信をもって提案しますが、それはこの思考の枠組みと、それをもとにした思考のプロセスがあってこそです。

楽観することと、成功を確信することは違う

教養を知り、ファクトに対する解釈の多様性を理解することで、出来事をどう捉えることができるのかについて下地ができます。ただし、人はその中でも出来るだけポジティブな側面を捉えがちで、これが行き過ぎている人を楽観主義者と言っています。

ここで、もう一つ紹介したい話があります。それは「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」(ジム・コリンズ著)で紹介されている、「ストックデールの逆説」です。

ジェームズ・ストックデール(1923 - 2005)はアメリカ海軍の軍人としてベトナム戦争に従軍した、ベトナム戦争の英雄とされる人物です。彼は、8年間の捕虜生活で、20回以上の拷問を受け、捕虜の権利を認められず、いつ出られるかわからない状況を生き抜きました。

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著者がベトナムでのストックデールの苦難を知り、どのように先の見えない苦境に対処したのか聞いた際の、ストックデールの答えが以下の通りでした。

「わたしは結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後にはかならず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事にし、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると」

そして、著者が続けて捕虜生活に耐えられなかった人がどういう人かを聞いた際にはこう答えました。

「楽観主義者だ。そう、クリスマスまでには出られると考える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると、復活祭までには出られると考える。そして復活祭が近づき、終わる。つぎは感謝祭、そしてつぎはまたクリスマス。失望が重なっていく」

そして、最後に、こうむすびます。

「これはきわめて重要な教訓だ。最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がおかれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない

そして著者は偉大な企業はストックデールと似ており、そうではない企業は楽観主義者に似ているとつなげていました。

現場でこの格言は意識してきた

この「ローマ人の物語」と「ビジョナリーカンパニー2」は、ほぼ同じ時期に、アメリカで駐在員として生活をしていた時に読みました。当時、リーダーとして預かっていた部署では、売上とおなじくらいの赤字があり、1年以内の黒字化が厳命されていました。

楽観主義に立って言えば「会社にとってはアメリカ拠点は戦略的に大事だから、なんだかんだ、来年も赤字でも許されるだろう」とか、「どこかのタイミングで、日本からプロジェクトを紹介してもらえるだろう」とか、そういう人もいましたし、またそう考えることもできたかもしれません。

ただ、この本を読んで、本の該当箇所をコピーして蛍光ペンでなぞったものを自分でのデスクに貼り付け、当時アメリカ駐在をしていたセールスの方と、本気で黒字化を達成しようと足元の地道な努力を続けました。

多くの人の力添えによって達成したことですが、預かった部署は一年で単月の黒字化を達成していました。そこでは偶然や幸運もあったかもしれませんが、それを引き寄せ、また結果につなげたのも、日々の足元の活動であったと感じています。

また、日本に帰国してからの話としては、グローバルプロジェクトで先が見えないときに、プロジェクトメンバーにストックデールの話を紹介しました。なお、そのプロジェクトについて言及しているのは、以下のNoteになります。

全体から見ると小さいことでも、一つ一つできること、できたことを積み重ねていくことが確信に繋がります。一方で、最終的な目標に対しての現在位置について、正確に理解し、決して楽観しないことも重要です。

現実が時に不合理で不条理なのも事実ですが、一方で、確信をもって歩み続けることで、大きな目標を達成している企業や人が存在することも確かなことです。

この認識を持ち、一歩一歩しっかり歩みを続け、それを日本という同じ船に乗っている人が、一人でもおおくやり続けることが、いろんなところで起きている苦境や問題を解決する前提になるのではないかと思います。

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