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ソーシャル全盛期における「コミュニティの力学」の活用のススメ

久津(@Nunerm)です。

今年から金融系の仕事を始めるため、年末年始はそっち系の本を読んでいまして、その流れで「ソーシャルファイナンス革命」という本を読みました。

最近クラウドファンディングやソーシャルレンディングが流行り始めてきていますが、どういう歴史を辿って「多くの個人から資金を集める」という流れが生まれたのかを説明している本です。

この記事では特に興味深かった「グループの力学」という考え方と、それが現代では「ソーシャルの力学」に変わり、そして今後は「コミュニティの力学」も強くなるだろう、という考察を書きます。


マクロファイナンスは「グループの力学」で成り立っていた

マイクロファイナンスについてはWikipediaより。

マイクロファイナンス(Microfinance)は、貧困者向けの「小口(マイクロ)金融(ファイナンス)の総称。マイクロクレジット(小口融資)のほか、マイクロインシュアランス(小口保険)など、様々なサービスがある。

元来開発途上国における金融サービスは非常にハードルが高く、金利が高くなりがちでした。

開発途上国はインフレが起こったり紛争が起こったり政治が変わったりと外部環境の変動要素が非常に大きく、先進国に比べると借り手がより一層努力しないと貸し倒れが発生する可能性が高い状況でした。

また貸し手の立場からは、借り手がどれだけ返済能力があるのかを調べることも難しいという問題もありました。先進国であればクレジットカード利用履歴などで調査することは可能ですが、カード普及率の低い開発途上国ではそれが難しく調査コストが高くなってしまいます。

このようなリスクをヘッジするために金利が高くなってしまい、その結果返済が難しくなって貸し倒れが発生し、再びリスクをヘッジするために…という負の循環が生まれてしまいました。


そんな中、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスなどが1970年代にマイクロファイナンスの仕組みを築きました。それは「グループの力学」をうまく活用した仕組みでした。

資金を借りるためにはまず5人ほどのグループを作り、最初に借りられるのはそのうちの1人だけです。その1人がしっかり金利を含めて返済できたら2人目が借りられる。2人目が返済できたら3人目…といったように「返済しないとグループ内の他の人に迷惑がかかる」という仕組みを作りました。

これによって各個人に責任感が生まれ、返済へのモチベーションやグループ内での相互サポートのモチベーションが大きくなり、返済パフォーマンスが向上し貸し倒れリスクが下がりました。

またこの仕組みによって返済能力のない人はグループから排除する力も働きます。その人のせいで自分が借りれなくなるので。つまりグループに入っているということはそれなりに返済能力があることを示すので、返済能力の調査のコストも下がりました。


まとめると「グループの力学」は

・責任感によって個人のパフォーマンスが上がる
・グループによる相互サポートによって個人のパフォーマンスが上がる
・グループの意見が個人の信用を証明する

という力学です。


SNSが普及した現代は「ソーシャルの力学」が働いている

話は変わって現代。

現代はSNS普及による「ソーシャル」の時代です。狭くて太い繋がりだったグループ(日本で言えばムラ社会)から、広くて細い繋がりが主流になってきています。つまり不特定多数の人の期待によってパフォーマンスを上げ信用を証明するような仕組みが多く生まれています。ここではこれを「ソーシャルの力学」と呼びます。

・多くの期待によって個人のパフォーマンスが上がる
・不特定多数の片道サポートによって個人のパフォーマンスが上がる
・不特定多数の意見が個人の信用を証明する

現代のサービスはこの「ソーシャルの力学」を前提として考えられています。例えば金融で言えばクラウドファンディングがそれにあたります。またそれ以外でもインフルエンサーマーケティング(Instagramやブログ)やレビューサイト(食べログや@cosme)、シェアリングサービス(Uberやメルカリ)なども「ソーシャルの力学」を前提にしています。どれも不特定多数の人のレビューやフォローによって信用を可視化しパフォーマンスを上げてます。さらにこの流れを加速化するためにブロックチェーンによる信用スコアの構築の動きも生まれてきています。


「ソーシャルの力学」は今後も強くなっていくと思いますが、一方でもう1つの力学、「コミュニティの力学」も強まるのではないかという仮説を立てました。


ソーシャルの肥大化の一方で「コミュニティの力学」が強まっている

ここ数年、コミュニティを求める流れが強まっています。

高度経済成長期に存在した核家族コミュニティや終身雇用を前提とした企業コミュニティが無くなり、現代の我々は所属しているコミュニティを失いつつあります。自由は増えたにもかかわらず安全・安心はなくなりました。

その結果、安心して自己実現を目指せる場所を、家族や企業以外の新たなコミュニティに求める動きが顕著になってきました。

コミュニティに関しては、佐渡島さんのこの書籍を読むことをオススメします。

つまり、広くて細い繋がり(ソーシャル)の全盛期において、狭くて太い繋がり(グループ=コミュニティ)が再び求められているのです。この狭くて太い繋がりにおいては「ソーシャルの力学」は効果的に働かない可能性があります。不特定多数の期待よりも信頼できる人の期待によってパフォーマンスが上がり、不特定多数の人が良いと言うものよりも信頼できる人が良いと言うものの方を信用するためです。

となると、1970年代の「グループの力学」に近いものの方がうまく働くのではないか、と思いました。つまり「コミュニティの力学」ですね。

・安全・安心によってパフォーマンスが上がる
・コミュニティによる相互サポートによって個人のパフォーマンスが上がる
・コミュニティが個人の信用を証明する

この「コミュニティの力学」をうまく活用したサービスも増えています。例えばオンラインサロンでは同じ考え方を持つ人が集まっているため、そこでの行動は基本的に応援されます。つまり安全・安心が担保されるためパフォーマンスが上がります。またコミュニティがある程度熟成されていると「そこのコミュニティで成果を出していること」が個人の信用に繋がります。私が属している田端大学は今まさにこれを狙っています。

またSHOWROOMなどの動画配信サービスも流行ってますよね。ファンコミュニティを作る流れは確実に加速しているため、この「コミュニティの力学」は今後重要になっていくはずです。


「ソーシャルの力学」か「コミュニティの力学」か

「ソーシャルの力学」と「コミュニティの力学」は併用できる可能性も反発する可能性もあります。そのコミュニティがソーシャル(≒時代の主流)とどれくらい親和性があるのか次第で変わります。時代の傍流を目指すコミュニティの場合は「ソーシャルの力学」を嫌う傾向にあると思いますが、主流を目指すコミュニティは併用できるはずです。


今後サービス設計を考える際には、メインとなるターゲットの特性を見極めた上で「ソーシャルの力学」を活用するのか「コミュニティの力学」を活用するのか、しっかり切り分けて戦略を立てる必要がありますね。

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