[見本付き]実践的な論文の書き方 -設計からしっかり3工程で-
論文を書き上げるのは大変な作業です。大切なことは、細かく書き始める前に「構造の設計」と「骨格の組み立て」を済ませておくことです。この記事では、論文の骨格である【アウトライン】を設計して組み上げて、ある程度の文量のある論文を作り上げるまでの工程について解説します。
※この記事は著者のブログ「駆け出し研究者のための研究技術入門」の過去記事のリライト版です
論文を書く3段階の工程
論文を実際に書いていく手順は、建築物を建てていく手順をイメージするとよく理解できます。建物が組み上げられていく前に、どんな工事が行われているかを見たことはありますか?おそらく、何もない敷地の一角に部屋を1つ組んで内装まで仕上げてから、その横にまた別の部屋を組み始めて…といったやり方ではなかったはずです。きっと、部屋の仕切りの位置に合わせてコンクリートで基礎を作り(基礎工事)、それから柱や板で全体の骨格を大まかに組んでから(全体骨格固め)、各部屋毎に細かい仕上げをする(仕上げ工事)というものだったはずです。そして基礎工事が始まる前には、最終的な完成形を見据えた入念な設計が行われているはずですよね。
論文でも、「設計と基礎工事」の後に「全体骨格固め」を実施してから、「仕上げ工事」をするという3段階の工程を踏んで作成を進めるべきなのです。「さあ論文を書くぞ~」と思ったときに、いきなり原稿の一部の文章を書き始めようとして、一向に筆が進まないという経験があるかもしれません。これは、事前設計も無しにその場で考えながら大きな家を建てていこうとするのと同じ大変難しいやり方ですので、書けないのは当然です。
下の図を見てください。3段階の工程と、工程ごとの攻略ポイントと方法のまとめです。工程①が「設計と基礎工事」、工程②が「全体骨格固め」、工程③が「仕上げ工事」です。以降、各工程について詳しく解説していきます。
工程①設計と基礎工事
この最初の工程は、「ある程度研究が進んで結果が得られた!さあ論文を書き始めよう」という際に最初に取り組むべきものです。まだ論文の原稿用紙に向かう必要はありません。細かい文言をどうするかは、二の次三の次の工程です。ここでは、どんな内容をどう組み合わせると全体の話がうまくまとまりそうか、という大枠の検討作業を行います。
手持ち情報を搔き集める
まず必要なのは、これまでに考えてきたこと、調べてきたこと、あるいはやってきたことのメモや資料をかき集めることです。「あまり進められなかったと思っていたけど、実はこんなに色々やってきたんだなあ」と感慨に浸りながら、まずはこれまでの蓄積を取り扱いのしやすいところにかき集めましょう。たとえば、【○○論文用データ】というフォルダを作成してそこに写真やメモ、設定資料や関連論文、データファイルや作成した図表、過去の発表資料や原稿資料を集め、それぞれにどんな内容が記載されているかが一目でわかるような名前にするのもよいですね。あるいは、すべて印刷して一つのファイルにまとめ、見出しとなる付箋を貼っていくのもよいでしょう。
そうしたら、それらに一通り目を通し直し、どんな情報が手元にあるのかを再確認します。覚えられないようなら、箇条書きで情報のリストとその情報の場所(ファイル名や付箋の見出し名)を書き連ねていきましょう。せっかく良い情報を得ていても、それを忘れてしまっていると活かしようもないためです。
穴埋め方式で全体を設計
手持ちの情報の確認を終えたら、論文を構成する話の要素にどんな話を載せていけるかを穴埋め方式で検討しましょう。論文を構成する話の要素というのは、研究課題の主題(主役となる対象や概念)、主題の理想や現状、達成すべき課題や問題、解決のアイデアと方法、得た結果と見出した知見、得られた結論といったものです。これらは研究テーマに依らず論文に掲載すべき要素ですので,このそれぞれの要素にどんな情報を埋められるかを、これまでの取り組みを踏まえて整理していきます。
この整理のためには,下の図のようなワークシートが便利です.論文の構成要素を埋めていく際の要チェック項目や、項目間の関連を俯瞰的に捉えながら整理していくことができます。これは著者が2018年に作成したもので、最新版は拙著『卒論・修論研究の攻略本(森北出版)』で紹介していますので、そちらもご活用ください。
下の図は、緑字で桃太郎の鬼退治研究を例にした作成例です。手持ちの情報を踏まえてこのような穴埋め方式で情報を書きこみ、手持ちの情報に抜けがないかどうか、あるいはどの要素をどの情報にすると全体の構造がわかりやすく整理できるかをあれこれ検討します。手持ちの情報が同じでも、構造の作り方には色々ありえます。どんな構造にするかで、論文としての書きやすさや説得力は大きく変わりますので、この段階でしっかりと設計をしておくことが大切です。
このワークシートの中に、チェック項目を満たすような短い文面を記載できない限り、論文の原稿はおろか、草稿すら書き始めるのは危険です。時間をかけて書き進めても、きれいにまとまらずにまたほとんど最初から書き直し、という破目に陥る可能性が高いからです。
このワークシートを埋めるのは簡単ではありません。一部が書けたと思っても、他の箇所と整合性がとれなくなったり、この枠内に収まりきらない文量になったりするはずです。収まらないからといって枠を広げようとしてはいけません。この枠内に収めるために、もっと端的な表現がないかを探すことにこそ、このワークシートを使う意味があるのです。ある程度書けたり、あるいはどうしてもうまく書けない部分が出てくれば、先輩や教員にみてもらうとよいでしょう。もっと端的で効果的な表現を教えてもらえるかもしれません。
工程②全体骨格固め
工程①でワークシートが埋まったら、いよいよ論文の骨格であるアウトライン草案の作成に入りましょう。
見出しを書き出す
差し当たっては、まずは骨格のラフスケッチとして節と項の見出しをざっと書いていきましょう。下の図が、桃太郎の鬼退治のワークシートをみて作成したアウトラインです。節の見出しを書くのは簡単です。他の論文でも使われている「序論」「方法」「結果」などの節名をそのまま書けば十分です。研究室の先輩の卒業論文や修士論文、あるいはジャーナルに掲載された研究室の論文や、先生にお手本として紹介された論文の節の見出しを参考にしてざざっと書いていきましょう。
他方、節にぶら下がる項の見出しを書くのには少しコツがいります。上の例を見てもらうとわかりますが、項の見出しは、その項の役割を記述したものにするとよいです(問題①に対応する方法①の説明、など)。アウトラインの話題の構造を見える化して、扱う話題に漏れがでないようにするためです。上の例で、問題に①~③の番号を振り、その番号を使いながら方法、結果、議論の項に見出しを付けて対応が分かるようにしていることに注目してください。
著者は移動中などの隙間時間で草案を作成するため、スマートフォンに入れたEvernoteなどのメモアプリで作成していますが、Wordでも、紙のノートでも、何でも構いません。このような箇条書きで構成を検討する作業に特化したアウトラインエディタ(アウトライナー)と呼ばれるものもいくつかあるようですので、それらも使ってみるとよいでしょう。
アウトラインを作る
見出しが揃ったら、次はまたワークシートを見ながら具体的な内容を埋め込んでいきます。基本的にはワークシートに書かれたものの転載で構いませんが,簡潔に埋められるところは埋めていくとよいでしょう。仕上げの段階で推敲をかけますので、洗練した文章である必要はありません。書きながら思いついたことも含めて、メモ書き程度でよいのでとにかく埋めていきましょう。余計だったらあとで消せばよいです。
下の図が、ワークシートの内容+αを埋め込んだ草案です。これをざっと読むだけで、論文のあらすじが掴めるものができることがわかると思います。これが論文のアウトラインであり、話の展開の全体骨格です。一つ一つの骨は細く、飾りつけもありませんが、ワークシートがしっかりと書けていれば、論理的にしっかりとした話として成立させることができます。
工程③仕上げ工事
工程②で草案が書きあがりましたので、論文指導担当の先生などに「論文のアウトライン(草案)を書いて見せて欲しい」と言われていた場合には、上記のものをできるだけ早く作成して見せにいけばよいでしょう。その内容に対してOKがでて、「じゃあこれをもとにもっと完成度の高い原稿を書いてみましょうね」と言われたら、いよいよWordやLatexのような原稿エディタに向かい始めましょう。
原稿を準備する
もしこの時点で投稿先が決まっているようなら、そこの原稿の文字フォントや余白サイズの規定に沿った論文フォーマットを入手しておきましょう。この論文のフォーマットに従って、工程②で作成したアウトラインの節や項の見出しと文面を書き写していきましょう。「論文がここまでできた」という実感がわいて、仕上げていくモチベーションも高まってくるはずです。
ここの工程でもっとも重要なのは、パラグラフライティングです。パラグラフライティングについては下の記事で解説していますので、是非読んで活用してください。コツは、アウトラインを見ながら、まずは各項ごとにパラグラフの数を決め、各パラグラフのトピックセンテンスの文だけを書いていくことです。つまり、まずは一段落一文だけの論文を書いていく、ということです。この作業によって、「要約版のミニ論文」ができあがります。
要約版のミニ論文とは、メモ書き程度であったアウトライン草案を原稿の投稿先の規定(論文フォーマット)に合わせた原稿に書き起こしたものです。アウトライン草案から文の量はそれほど増えませんが、この書き起こしによって、アウトラインの話をどれだけ膨らませれば既定ページ数範囲に収まる原稿が出来上がるかを見積もることができます。つまり、要約版論文を作成することによって、「序論を長く書き過ぎて他の部分が十分に書けなくなった…」という悲惨なバランス崩壊や「あとどれだけ書けば終われそうかが全く見えない…」という先行き不安を避けられるのです。
ミニ論文を作る
下の図は、上の記事で作成したアウトライン草案から書き起こした要約版ミニ論文のサンプルです。アウトライン草案と見比べてみてください。文の量はほとんど増えていません。また、この段階でもまだ草稿であり、文の順序の入れ替えや内容の追加・削除がありえるので、一文一文の緻密な推敲はまだ必要ありません。
ミニ論文作成のコツ
題目(Title)
論文のタイトルが暫定でも決まっている場合はそれを書けばよいでしょう。決まっていない場合は、サンプルのようにテーマを荒っぽく書いたものでも大丈夫です。バージョン番号も日付と対応させて記載(1月3日に作成したものであればver0103など)しておくと後々便利です。こちらの記事も参考にできるはずです。
概要(Abstract)
アウトライン草案が書けていれば、アブストラクトも書くことができます。アブストラクトの書き方は下の記事を参考にしてください。この記事ではアブストラクトの書き方を4ステップに分けて解説してます。草稿段階では、推敲をかける前のステップまでやっておけば十分です。
節と項の見出し
節の見出しは、「序論」「方法」「結果」「議論」「結論」「謝辞」など、投稿規定に合わせたものにしておきましょう。投稿先によって見出しの規定は違います。例えば「序論」でなく、「緒言」あるいは「はじめに」と書くように定められている場合もあります。
アウトライン草案において項の見出しは抽象的(例:問題①に対応する方法①の紹介)なものに留めていましたので、このミニ論文書き起こしの段階で具体化することが必要です。論文原稿における項の見出しは、その見出しを見るだけで具体的な内容がわかり、かつ直前の節のどの項目と対応しているかが推測できるようなものであるのが望ましいです。つまり、方法の見出しには序論で用いた用語を、結果の見出しには方法で用いた用語を、議論の見出しには結果で用いた用語をできるだけ使うのがよいということです。例えば、方法の2-1では「動物登用」と書いており、結果の3-1ではそれを受けて「登用に成功した動物」という見出しにしています。このようにすれば、結果の3-1には方法2-1を実施した結果が書いてあるということが容易に推測できます。
項目内での文の置き方
項目内には、アウトライン草案の文を配置していきます。ポイントは、基本的にはアウトライン草稿の1文で1段落を作るということです。これらの1文1文が、完成原稿での各段落の先頭文(要約文・トピックセンテンス)になります。1文で1段落を作るというのには抵抗があるかもしれませんが、これがパラグラフライティングの実践的方法です。パラグラフライティングの本質は、各段落の先頭文だけを抜き出しても全体の話の概要(アウトライン)が把握できるようにすることです。したがって、作成したアウトラインの文章は、それら一つ一つが各段落の先頭文に相当するのです。以下の記事を読んでいただくとこの感覚が掴めてくると思います。
各文への注釈
上のサンプル原稿をもう一度見てください。アウトライン草稿から抜き出して配置した文の最後に、カッコ書きで注釈をつけています。例えば、「(乱暴さを伝える具体例)」とか「(これを課題とした理由の説明)」といったものです。これらは,その文の説得力を高めるためにはどんな補足説明があれば効果的かを考えた結果のメモです。
サンプル原稿を使って解説します。例えば、「鬼とは~であり、乱暴で破壊的である」というのが序論一段落目のトピックセンテンスです。この段落の二文目以降には、このトピックセンテンスを分かりやすく、納得できるものにするために必要最低限の補助文を付け足していきます。どのような補助文が必要かを考えるには、「この内容を知らない人、あるいはこの内容を信じていない人」にこの内容を説得しようとする場面を想像するとよいでしょう。この例では、「鬼とはいかに乱暴で破壊的かを信じてもらうために,乱暴さを伝える具体例をあげよう」と考えましたので、カッコ書きで、(乱暴さを伝える具体例)と注釈をつけておきました。
この注釈は、要約版原稿から仕上げ原稿を作成していくための指針になります。骨格であるアウトラインにどのような肉をつけていくかの方針です。仕上げ原稿を書き始める前に、先生か先輩に見てもらって、他に付け足すべき補足説明の指針がないかのアドバイスをもらうとよいでしょう。
ミニ論文の活用の仕方
項と段落の数の把握と調整
ミニ論文を見れば、各節や項に含まれる段落の数を把握することができます。論文の構造の基本ルールとして、1つの節は複数の項で、1つの項は複数の段落で構成する、というものがありますので、1つの節に1つの項しかなかったり、1つの項に1つの段落しかない場合には構成を見直すべきだと判断できます。アウトラインを読み直して、話題の流れが伝わるようにする上で付け足すべき話題が抜けていないかどうかを確認してみましょう。
肉付け可能な文量の把握
ミニ論文は、各トピックセンテンスに対してどのくらいの肉付けの余地が残されているかも教えてくれます。例えば、上のサンプル原稿の場合、図を除いて現状1.5ページです。ここで、投稿先の原稿の規定枚数が6ページだった場合は、図と参考文献リストと、肉付け用の補助文で合計4.5ページまでしか使えないという計算です。図と参考文献リストで0.7ページ使うと考えれば、補助文に使えるのは3.8ページです。現状各段落は2行くらい使っていて1.5ページなので、「各段落4〜5行程度の肉付けをしていけばバランスよく規定ページ数に収まりそうだな」と見積もることができます。この見積もりができれば、一部を書き過ぎで他が書けなくなるという事態を避け、必要な情報がバランスよく記載された完成度の高い論文を仕上げることができます。
まとめ
アウトライン草案からミニ論文までを作成する工程を解説しました.このステップを踏むことで、バランスよく補足内容を追加していく方針を得ることができます。ミニ論文を共著者や指導者に確認してもらい、了承を得たら、次はいよいよ原稿の仕上げです。作文や作図をして、推敲をかけていきます。仕上げ原稿はまた作成でき次第この記事に追記しようと思います。
推敲についてはこの記事をご参照ください。
この記事のような、「研究を進めるうえで必要なのになかなか教わる機会がない」研究基礎技術を体系的にやさしく解説した書籍が『卒論・修論研究の攻略本(石原尚・森北出版)』です。是非ご一読ください。
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