コロナ禍でのアメリカ生活㉖「パンデミックは今後必ず起こる現実。今こそUBI(Universal Basic Income)のようなセーフティネットが必要」
パンデミック云々に関わらず、富める者はいつでもさらに富む
以下の表はパンデミックがスタートした3/18から6/17までの米国のビリオネラー達の資産推移であるが、ロックダウンで休業や失業にあえぐ中小企業、若年就労者、低所得者層の経済的な苦しみとは無縁に、大幅に資産を増やしている。米国の643人のビリオネラーの資産合計は、3/18時点で2.9兆ドルであったが、6/17には3.5兆ドルと20%増加した。また、4,550万人のアメリカ人が失業保険申請をしている間に、新たに29人がビリオネラーに仲間入りしている。
Jack Dorseyも参加し始めたUBIの実現のための実験
Twitter & SquareのCEOのJack Dorseyは、4月個人資産の28%に当たる10億ドル(Square株を売却して充当)を、コロナ禍の被害対策の慈善基金「Start Small Foundation」を立ち上げて寄付すると発表した。彼のフォーカスは、少女たちの健康と教育、更にUBI(Universal Basic Income)であるとし、寄付用途をGoogle docのスプレッドシートに上げて、一般の人達が閲覧できるように共有するという情報の透明性を訴求した。
以下の表は、米国のビリオネラーの個人資産の寄付額の順位であるが、Dorseyは個人としてはダントツのトップの金額10億ドルを寄付している。
Dorseyは、今回その基金から300万ドルを、カリフォルニア州Stocktonの市長のMichael Tubbs(29歳)が結成した「Mayors For A Guaranteed Income(MGI)」と呼ばれる、全米16都市の市長達の連合に投入すると発表した。この連合は、市民に無条件で定期的に現金を給付する「UBI(Universal Basic Income)」の実験の一環として始められる。
Forbesの記事によると、Squareの株価は4月以降に165%増となり、Start Small Foundationに提供された株式の価値は22億6000万ドルまで膨らんでいる(7/9現在)。Dorseyは、ケニアとウガンダでUBIのテストを実施中のNPOのGiveDirectlyにも1120万ドルを寄付している。
DorseyやYangが推進するUBIとは何か?
UBIの詳細に関しては、5/26に書いた私のブログを参考にしてもらいたい。
UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。
このUBIの理念は、私も応援した民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangの選挙キャンペーンの中心メッセージでもある。Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。
Dorseyは5月のAndrewのポッドキャストに出演し、UBIの有効性を訴えている。「最低限の収入が保証されることで、人々は心の平静を保ち、新しい世界に向かうための学習を進めてゆける」と彼は言う。DorseyがGiveDirectlyに寄付した資金は、パンデミックによる打撃を受けた低所得家庭への現金給付にあてられた。また彼は、Andrewが設立した低所得者家庭を救済する基金のHumanity Forwardにも500万ドルを寄付している。
UBIの効用は?
効用に関しては、以下の5つのポイントがあり、私が書いたブログに詳細を記してあるので、時間がある時に読んでもらえたらと思う。敢えて、もう1つ重要な点を付け加えるとすると、通常低所得者層は、給与から給与と経済的に綱渡り状態で暮らしている。そんな彼らにとってUBIは、「どんな時でも定額の給付金が入り、それによって心に余裕が生まれて、困難に陥った時にそれを乗り越えようとポジティブな心構えが生まれる」という効用も大きいと思う。
1) 貧困の消滅、2) 広がる富の格差の中で社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート、3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化などで男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる、4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる、5)AIや自動化による雇用喪失によって失業した低賃金労働者へのサポート
UBIの財源はどうするのか?
前述のStockton市長のTubbsは、財源に関して様々な解決策を上げており、「Dorseyのような富裕層の税率を引き上げるのも一つの手段だし、2017年のTrump政権による減税策を廃止すれば、年収12万5000ドル以下の全ての米国世帯に500ドルを給付できるだろう。さらには、膨らみすぎた防衛予算を引き下げることでも資金確保には可能だ」と言う。彼は「人々や社会にセーフティネットをもたらす新たな政策が求められて今、重要なことは、まず政治的決断を下し、物事を前に進めていくことだ」と指摘する。彼は今回のUBIのテストプログラムを成功に導き、現金給付の試みが、連邦政府レベルに広がることを望んでいる。
財源の1つの方法として富裕層の税率の引き上げが言及されているが、これに関しては1つ朗報がある。7/13、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するようにと署名した公開書簡が公表された。世界の富豪でつくる団体「Millionaires for Humanity」には、ディズニーの一族であるAbigail and Tim Disneyなどを含む、富裕層、起業家、投資家らが参加し、富裕層に増税し、富の格差の是正などに充てるべきだと訴えている。
まずは決断が必要
UBIはそう簡単に実施できないと多くの人は言うが、パンデミック対応として期限付きで、カナダ、イギリス、スペインは既にUBIを実施した。パンデミックの渦中で、時代はgroundswellともいうべき急速な変革を求めて動き始めている。これを具体化するための試みは、色んな所でなされている。
富裕層も応援する時代である。前進するためにアタマを絞って工夫すれば、良いアイディアは必ず出てくる。まずは決断である。
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