新規事業の"アイデア"の考え方 〜「マツコ会議」の裏で話したこと・考えたこと(後編)
こんにちは。ピンキーです。
先日、日本テレビの『マツコ会議』の「副業で稼ぐ会社員集う交流会に潜入!夢の年収1000万…副業のススメ?~」という会に出演させていただきました。
マツコさんに面白がっていただけたようで「まだ掘り下げたいこと」として後追いのVTRにも取り上げていただきました。
本稿では、後追いVTRにおいて、編集でカットされた話も含め、その裏側で考えていることなどを記します。
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1日で、新規事業は「企画」できない
本来「新規事業企画」のファシリテーターやディスカッションパートナーのお仕事をいただく場合、短くても2〜3ヶ月、通常は5〜6ヶ月ほどお時間をいただいています。
「事業企画」にどこまで含めて考えるかはクライアント次第ではあるのですが、基本的には価値創造プロセスにおける「価値発見」〜「価値表現」まで(IdeationからSolution/Product Fitまで)を「事業企画」と定義しています。
そこでは「顧客」に対するライトアンケートからデプスインタビューまでを含みます。
顧客実証を経ていない事業企画は「妄想」であり、実現性が全く証明できないものになります。決裁者に投資判断をしていただくためにも「顧客開発」は事業企画のプロセスとして必須です。
なので、短くても2〜3ヶ月、通常は5〜6ヶ月ほどかかるのです。
しかし今回は正味4時間程度。なので、アイディエーション(アイデア出し)に絞って、ワークショップを実施しました。
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新規事業アイデア出しの5つのポイント
残念ながら、バッサリとカットされてしまったのですが、新規事業のアイデア出しとして5つのポイントについて説明させていただきました。
1. Deep Issue / 解くべき課題設定
まずアイデア出しの一番最初に行うのは「解くべき課題設定」です。「問い」そのものを定義します。
アイデアを考えるのに、真っ白なキャンバスにいきなり描き始めるのはなかなかに難儀です。何もない中で「考える」ことほど難しいことはありません。
なので、解くべき課題を設定するというのは、真っ白なキャンバスに何を描くかというテーマを設定すること、つまり最初の制約を設定することとイコールです。
人間というのは不思議なもので、制約があるほうがクリエイティビティが冴えます。最初に真っ白なキャンバスに最初の一筆を「解くべき課題」という形で打ち込むことによって、制約を軸に発想を広げていきます。
また、課題設定から始めたほうがいい理由があります。
▼「画期的なアイデア」から始めるな
サラリーマン新規事業担当者によくありがちなのが、社長や経営陣に「画期的なアイデアを持ってこい」という指示を受けるもの。これは不可能だ、という認識に立つべきです。
スタートアップの成功確率は7%、ユニコーン確率は0.3%と言われています。新規事業の成功確率もそう大差ありません。新規事業として成立するほどの画期的なアイデアをもし思いついたのだとしたら、それはリスクをとってでもスタートアップすべきです。
また、そもそも「画期的なアイデア」とは、過去の延長線上にないために合理的にロジックで判断することはできません。未だ見ぬ未来の扉を開くには、非合理に合理性があるのです。
つまり「画期的なアイデアを持ってこい」という指示を出した社長や経営陣が判断することができないのです。誰もが今現時点では評価することはできないのです。
▼「ソリューション」から始めるな
「ソリューション」から始めると、それをどう実現し、どう形にするかにばかり集中してしまう傾向があります。
そうすると、顧客ニーズの確認を軽視してしまい、実在しない顧客に思い込みを持ってしまい、どうしても顧客ニーズを満たさないプロダクトやサービスが出来上がってしまいます。
ソリューションはロジカルに評価がしやすいために、その議論に終始してしまう傾向が見られますが、ソリューションそのものは価値をうまないことに注意しなければなりません。
ソリューションは誰でも真似ができてしまうものであり、顧客に対しても機能的価値しか伝えられることができないのです。つまりマーケティングメッセージにおいても差別化がなされません。
つまり、ソリューションドリブンで作られたプロダクトは、すぐにコモディティ化し、レッドオーシャンに突入し、価格競争に巻き込まれる羽目になります。
▼「マーケット」から始めるな
サラリーマン新規事業担当者は、マーケットが盛り上がってるから参入しろ、という指示も社長や経営陣から受けがちです。
しかし、社長や経営陣が「マーケットがある」と認識した時点で、それはすでに波が起こっているわけであって、そこから準備を整え、プロダクトを開発し、参入した頃には、どレッドオーシャンに突入することになります。
圧倒的な価格競争力とプロモーションコストを投下して、マーケットリーダーのポジションを取りきれば、もちろん勝つことは可能です。
しかしよっぽどの経営判断がなされた場合以外は、そこまでの資本投下をすることなどできないわけで、レッドオーシャンの中でただただ疲弊して苦しんで死んでいくだけになります。
▼「テクノロジー」から始めるな
技術シーズでは、顧客ニーズが満たされるとは限りません。
ありがちなのパターンが2つ。
1つは、顧客ニーズを圧倒的に技術がうわまわってしまい、ローテクで顧客ニーズどストライクのプロダクトに負けてしまうこと。
もう1つは、技術がコモディティ化してしまい、技術の強さのみで勝負をしていたサービスがことごとく価格競争に巻き込まれ、その中で圧倒的にUXで価値を差別化したプロダクトに負けてしまうこと。
何れにしても、テクノロジードリブンで始める技術者は、UXを無視しがちであり、テクノロジーを軸にピボットするとどうしてもUXが矮小化する傾向が強く出ます。
▼「課題設定」から始めよ
課題設定の定義は、ビジョンの定義に紐付きます。ビジョンは、未来を妄想するものであり、過去からの延長線上にはない「絵」が描けます。
そのジャンプアップした未来を軸に考えれば、普通ではない「画期的なアイデア」を引き出しますし、実現するための「ソリューション」「テクノロジー」を探すことができます。そして「マーケット」は課題とともにすでに定義されています。
課題設定を起点にすれば、まるでドミノ倒しのように事業企画が積み上がっていくのです。
2. Inspiration / 雷に打たれるような閃き
「課題」を設定したら、ひたすらに情報をインプットしましょう。
・専門的な知識を持っているエキスパートにインタビューする
・書籍や論文を読み漁る
・マーケットの定義をしている行政府のレポートを読み漁る
・マーケットリサーチデータを読み漁る
・その課題にチャレンジしている国内外のスタートアップの情報を調べる
・成功しているビジネスモデルを抽象化した情報として理解する
・その課題を実際に抱えているユーザーや企業の担当者にヒアリングにいく
などなど。
インプットとディスカッションを繰り返しながら「雷に打たれる瞬間」を待ちます。
人間の脳は、思った以上に情報の処理能力があります。情報量が一定量を越えた時に「直感」と「直観」がインスピレーションを引き出します。
そこで雷に打たれるような「閃き」と「衝動」に突き動かされたとき、それは取り組むべきアイデアだと定義すべきです。
そこには論理的な根拠などいりません。雷に打たれたかどうか、「これだ」と思えたかどうかだけで良いのです。なぜならここでつくっているのは「アイデア」ですから。
3. Passion / 情熱
雷に打たれた「閃き(=コンセプトアイデア)」に、突き動かされる強い「衝動」を感じたなら、それを情熱を感じるビジョンに昇華させましょう。
なんとなくのファッションで始めると、なんとなくで終わります。
勢いのテンションで始めると、冷めたらやめます。
それらはハードシングスにぶちあたった時に、できない理由を探し、言い訳をするのです。
雷に打たれるような「閃き」と「衝動」に突き動かされ、「課題」から過去からの延長線上にはない「ビジョン」が描けたなら、それは「ミッション」そのものになります。
そして「ミッション」は、「パッション=情熱」を燃やす燃料となります。
パッションはハードシングスにぶちあたった時に、どうやってその壁を乗り越えるか探す原動力になるのです。
パッションは「意志」を包含します。
人間の「意志」は、何よりも強いのです。
意志とは、物事を成し遂げようとする積極的な志であり、そのために生存に関する論理的な判断までも無力化される非常に強い行動動機なのです。
4. Customer Development / 顧客開発
その上で「顧客の実在」を確認する必要があります。顧客の実在が確認できていないアイデアは無価値です。
一昔前に「ペルソナ」という言葉がブームになりましたが、ペルソナは「細かく顧客を設定する」ということだけが一人歩きし、妄想だけで項目を細かく埋める「作業」をしてしまうことが多くなりました。
実在しない顧客など設定しても仕方ありません。それよりも、たった一人の実在する顧客を確認し、そのユーザから共感を得ることの方が重要です。
一昔前のペルソナを設定すればよかったという考えは、いわば「大量生産・大量消費の時代」の名残です。
最低限の生活のために必要なモノが揃っていなかった時代には、平均値や中央値の人物を設定すれば、それは多くの人にとっての「共同幻想」を定義することができました。
その上でマスプロモーションをすれば、多くの人の消費を喚起することができたのです。
しかし、現代は「自己実現・自己表現の時代」です。
モノが溢れている令和時代は、最低限のライフスタイルを実現するモノは一通り廉価に手に入れることができるようになりました。
その結果、人々は自己実現・自己表現のために消費を行うようになったのです。
それは「モノを買う」ことが重要なのではなく、自分の価値観や人生というストーリーをどう彩るかを重要視しています。
「映え」もその一環なのです。
その時、マーケティングという仕事において重要なのはリサーチで「顧客発見」することだけではありません。
仮説を設定した上で、仮説にマッチした「顧客発見」し、インタビューやリサーチを通じてその存在を「顧客実証」します。
実在がわかれば、その顧客がいるマイクロコミュニティを「顧客開拓」し、エヴァンジェリストカスタマーの「組織構築」を行います。
顧客発見→顧客実証→顧客開拓→組織構築の4つのステップすべてが「顧客開発」なのです。
5. Story Telling / ストーリーで語る
そして、1〜4のすべてをストーリーで語ることが重要です。
顧客でも仲間でも社外のパートナーであっても喚起すべき感情は「共感」です。そしてそれによってうまれる「共鳴」です。共鳴がレバレッジをかけ、イノベーションが世界を変えます。
そのためにストーリーで語るのです。誰かと接するとき、その時間はまるで点で接しているかのように勘違いしがちですが、人は誰しも人生というストーリーで生きています。
だから、ロジックやデータだけでは人は動かないのです。感情を揺さぶられるストーリーでこそ、人は動くのです。
ドラマや映画もあらすじを聞いても感動はしないでしょう。頭から最後までのストーリーを感情で受け止めるからこそ感動して涙を流すのです。
顧客にエヴァンジェリストカスタマーになってもらいたいなら、誰かを仲間に引き入れたいなら、そして、役員や取締役に投資をしてもらいたいなら、ストーリーテリングによって感情を動かしましょう。
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「マンダラート」でアイデアを捻り出す
新規事業でアイデア出しをする5つのメソッドを説明しましたが、とはいえ短期間に無理矢理にでもアイデアを捻り出さなければなりませんので、アイデアソンプログラムでよく利用する「マンダラート」というメソッドを利用し、アイデア出しをしました。
9 × 9=81マスが書かれたシートを利用します。
まず、真ん中に自分の名前を書きます。その周りの8マスに自分の好きなものや興味があるものを書き出します。
さらにそれを、周りの9マスの真ん中に転記し、そこから連想した言葉を書き出します。
時間は5分程度ですべてを埋めていきます。ポイントは考えることなく、無理矢理にでもキーワードを出して「埋める」ことです。
マンダラートは、自分の興味のあるキーワードから連想したキーワードで、それを組み合わせたり、掛け合わせたりをすることで、自分の興味のある事業アイデアを創り出すという発想法になります。
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ディスカッションでアイデアを発散する
あとは、ただただディスカッションを繰り返します。
アイデアはデスクで悶々と考えて出るものではありません。高いテンションでやいのやいのやっている方がいいアイデアが出てきます。
なんなら少しお酒が入ってるぐらいのテンションがちょうどよく発散できます。
また、重要なのは「ガヤ」です。「それいいですね!」「面白い!」など言いながら大きな声で笑っている人がいると、雰囲気が盛り上がります。
同時に、出てきたアイデアを否定しないことも重要です。アイデアは拡散することが重要で、否定は萎縮をうみます。否定するくらいなら、上乗せでアイデアを出すようにしましょう。
盛り上がったポジティブな雰囲気がいいアイディアを拡散していくためには必要なので、ファシリテーターはこの雰囲気をつくること、雰囲気を維持することに注力します。
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アイディアを収束させる
アイデアを収束させるのは「ビビビッ」とくる雷に打たれるような「閃き」です。
今回は海外のスタートアップの事例をもとにアイデアの収束に至りました。
このときやはり大事なのは「これをどうしてもやりたい」という情熱が持てるかどうかです。
さすがに4時間程度の議論では、アイデアも深まらず若干浅いものとなってしまいましたが、その情熱に辿り着くまで延々と議論をし続けることが重要です。
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プレゼンで情熱を伝える
事業アイデアのプレゼンは、ロジックでは語れません。
ロジックというのは過去の延長線上のものを語るには有効です。しかし、新規事業というのは過去の延長線上にはない、未来の「当たり前」を作ることが本筋です。
また、過去の延長線上にあるものを新規事業としてしまうと、それはすでにレッドオーシャンと化しているか、もしくはすでに波が8割ぐらいまで来ていてこのあとレッドオーシャンになることが目に見えているかのいずれかです。
もちろんレッドオーシャンになっている領域を取りに行くという新規事業もあります。圧倒的な価格競争力と大々的なプロモーションによって、後発ながらシェアを獲りに行くことはできます。しかしそれには莫大な投資が必要となり、流石にアイデアベースでそれをプレゼンによって勝ち取るのは無理があります。
なのでアイデアのプレゼンにおいて大事なのは「情熱」と、共感をうむ「ストーリー」のみです。まずはそれにどれだけ面白がってもらえるかどうかで判断してもらいましょう。
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アイデアの良し悪しと投資判断は別物
というわけで、今回はアイディエーション(アイデア出し)を一緒にさせていただきました。
もちろん、アイデアが面白いかどうかの判断と、これを事業として進めて良いかの判断は全く別物です。アイデアが事業になるかどうかはアイデアの時点ではわかりません。
事業として成り立つかどうかは、ビジネスモデルを検討したのち、それぞれのKPIが理論ではなく実際に成立するかどうかを実証し、その実証の積み重ねによって確からしい事業計画を引いてから判断するものです。
何れにしても、まるで宣伝かのように動画をまとめていただけて感謝多謝です。今回は楽しい時間をありがとうございました。
アイデア出しのワークショップやディスカッションのご要望があれば、ぜひお気軽にご相談くださいませ!
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