塚田浩幸/Hiroyuki Tsukada

いつ博士論文出せるかなあ。。。とりあえず近世アメリカ史(先住民関係)の既存の研究文献の…

塚田浩幸/Hiroyuki Tsukada

いつ博士論文出せるかなあ。。。とりあえず近世アメリカ史(先住民関係)の既存の研究文献の信用できない状態をみて勉強のための読書ノートをつくり始めました。対面や論文で言うのは野暮だが、何も指摘しないのも学術に真摯でないと思い。なお、記事は語句レベルの修正・改善はする場合があります。

最近の記事

ルース・ベネディクト『レイシズム』後の人種と人種主義

人種は存在するが、人種主義(人種差別主義)は迷信・信仰である。人種とは、遺伝する形質に基づく分類法の一種であり、一方、人種主義とは、そのグループ間に優劣があるとする考え方である。人種は科学の一領域だが、人種主義は科学に反するものである。 ――以上は1940年代のルース・ベネディクトの見解である[1]。確かに、多様なものについて、いくつかのグループを設定し、そこに入れ分けるのは、人間の真っ当な知的営みである。多様なものをその多様なまま全体を把握するということは非常に多大なエネ

    • 『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(5)多義語の誤謬、コロニアリズム万歳ー1646年条約と1677年条約の比較ー

      森によれば、1646年条約(1644~46年の戦争の和平条約)では、パウハタン王国の首長ネコトワンスのイングランド王への臣従、連合諸国家の貢納支払い、武装放棄、領土割譲、イングランド国王総督がパウハタン王の後継者の指名をする規定などが定められ、パウハタンの国家としての自立性を大きくはく奪する関係が成立した(47頁)。一方、1677年条約(ベーコンの反乱後のミドルプランテーション条約)では本国政府の方針で、先住民の領土への植民者の進入禁止など、1646年条約を上回る保護を与えた

      • 『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(4)チェリー・ピッキング

        この2つの箇所において、靴の贈与がなぜそのような意味を持っていたと森が解釈できるのかは前の記事に書いた協調原理の問題の追加の案件で先住民文化の観点からの(類推の)説明が不足している。また、スミスの捕囚は1608年ではなく1607年12月に始まったのは日付の細かい誤りである。これらは同種のミスがすでにでてきているのでもう放置することにして、今回考えたいのはマントの意味についてである。上のように2つの(研究者に)「考えられている」ことを並べてみると、マントと助命の先行研究の見解に

        • 『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(3)協調原理

          森の論考を読まずにこのノートだけを読んでいる読者は、上のように切り抜かれても何のことだかよくわからないかもしれない。しかし、森の論考を読んでも同じであるので私を責めないでほしい。なぜ少年の贈与(そもそも贈与という言葉が的確かも問わねばならないが)が相手を対等な主権者とみなしたことを意味すると(研究者が)解釈できるのか、その論理は提示されていない。一次史料で明記されていることではないと思うので(少なくとも私はそのような史料があることを知らない)、当時のヨーロッパの慣習からの類推

        ルース・ベネディクト『レイシズム』後の人種と人種主義

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(2)アナクロニズムー近世における主権の問題ー

          前の記事では、全体的な研究動向ならびに個別の先行研究に対する森の理解度、つまり、本質論ではなく状況論や段階論の必要性を訴えていたことの妥当性を検討した。その結論としては、先行研究ですでになされているので「訴え」を起こす必要はないが、状況や段階を把握していくこと自体は同意できるものであった。今回は本論に進み、森が初期アメリカの各地域・各時期の状況や段階を的確に把握しているかを問題とする(ひとまずヴァージニアのセクションを集中的に見たいので、各地域・各時代といえどもこの記事は17

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(2)アナクロニズムー近世における主権の問題ー

          オススメ大学英語教科書(2)Winning Presentations: Eight Types of Successful Presentation(成美堂、2018年)

          授業でプレゼンテーションをしようと言っても、仮にテーマは決まっていたとしても、それをどうまとめればよいのか、つまり、原稿をどう組み立てればよいのかという段階でつまずいてしまったりする。しかし、この教科書を使えば、そのような悩みにさいなまれることはない。報告型(informative presentations)として4つ、列挙型、分類型、プロセス型、調査型、さらに説得型・提案型(persuasive presentations)として4つ、説得型、問題解決型、原因結果型、比較

          オススメ大学英語教科書(2)Winning Presentations: Eight Types of Successful Presentation(成美堂、2018年)

          オススメ大学英語教科書(1)Let's Find a Solution!(南雲堂、2023年)

          スマホ依存、学食の混雑、感染症、ユニバーサルデザイン、生活のストレス、ブラックバイト、高齢者ドライバー、プラスチックごみ、観光公害、eスポーツ、睡眠、人工知能。この教科書の長所の1つは、このテーマのチョイスにある。どれをとっても学生にとって身近な問題で、かつ、それほど難しすぎず、解決策を考えやすいものになっている。ユニバーサルデザインなどは導入的な学びにもなり、身の回りの社会に目を移せば、様々な気づきと発見で思考と知識を深められる。 そしてこの教科書の長所の2つ目として、英

          オススメ大学英語教科書(1)Let's Find a Solution!(南雲堂、2023年)

          ナチスのしたことに良い面はあったー小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店、2023年)

          哲学、論理学、クリティカル・シンキング系の内容の授業の準備をしていて、ひょんなことからこの本に出会ってぱらぱらと読んでみた。私はナチスの専門家ではないのであまり首を突っ込むつもりはない。ただ、この本の著者の使用する言葉と議論の整理が巧みに思えたので、そこを糸口にこの著書の意義を確認したい。このノートのタイトルはそれに絡めて裏返して意味内容をわかりやすく表したにすぎず、ナチスを肯定的にとらえたいわけではないので誤解しないでほしい。 「物事にはつねに良い面と悪い面があるのだから

          ナチスのしたことに良い面はあったー小野寺拓也、田野大輔『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』(岩波書店、2023年)

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(1)ストローパーソン

          まず、初期アメリカ史研究の研究潮流について、森がどう理解しているかを吟味していきたい。「はじめに」(特に41-43頁)によれば、リチャード・ホワイトのミドルグラウンド論の登場以後、「諸勢力が拮抗しつつ織りなす多元的な政治空間として北米大陸全体を捉え直す」ことが進んでいるが、「問題点は、各々の研究者が特定の時代・地域の事例をもとに本質的な議論を展開している点」にあるという。そこで、現在「必要」とされているのは「状況論」や「段階論」であるとして、「先住民とイギリス人の間に「ミドル

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(1)ストローパーソン

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(0)

          それっぽいかんじで意図的にデタラメなことを言った論文は、たまに査読誌に投稿・出版されて、査読の問題を露呈させているが、私の身の回りでは、査読誌ではない共著の書籍の1つの章で、デタラメ加減でいえば負けていないものが最近出版された。何らかの戦略のもとに意図的にデタラメを書いたのでないなら、十分なインプットなど必要な研究プロセスを経ずに文章を書いていて、もはや未必の故意といっていいほどに度を超している。正直、この章が扱っている分野を専門としている者としては、このようないい加減な文章

          『改革が作ったアメリカ』森丈夫の章のファクトチェック(0)

          Exaggeration and Ambiguity in Karin Wulf's #VastEarlyAmerica

          Karin Wulf has proposed the keyword #VastEarlyAmerica to confirm and further promote the spatial turn in early American history. Her article is also known in Japan through Shuichi Wanibuchi’s Japanese essay “The Post-Republican Paradigm of

          Exaggeration and Ambiguity in Karin Wulf's #VastEarlyAmerica

          カリン・ウルフ#VastEarlyAmericaの誇張と曖昧さ

          初期アメリカ史研究における空間論的転回の歩みを示すものとして、そしてその転回をさらに推進・定着させていくためのキーワードとして、カリン・ウルフが#VastEarlyAmerica「広大な初期アメリカ」というキーワードを提唱したのは、日本でも鰐淵秀一の動向論文「ポスト共和主義パラダイム期のアメリカ革命史研究」を通して周知されている。おおまかな理解として、英領13植民地という伝統的な狭い射程ではなく、大陸的・大西洋的観点を取り入れ、広い空間設定をするという点で異論はない。しかし、

          カリン・ウルフ#VastEarlyAmericaの誇張と曖昧さ

          場所の性格と帰属意識の強弱の可変性

          批評:森丈夫「重層的地域としての大西洋:イギリス領北米植民地における「地域の特性」の変容過程」『七隈史学』8号(2007年)、242-229(1-14)頁。 最終更新日:2023年9月5日

          場所の性格と帰属意識の強弱の可変性

          読書ノートを公開する理由

          なぜ既存の文献に対する批評ノートを公開するのか。なぜこのような損な役回りを率先して引き受けるのか。日本における初期アメリカ史研究の現状をかんがみて、事実として存在する数十年の遅れをどうにか取り戻そうとしたとき、最短ルートがこの方法ではないかと思われた。いうまでもなく、気付いていない課題は、偶然を除き、解消されない。既存の研究のどこに問題があるのか、認識してそれを具体的に検証することにより、その問題を確実に、そして、効率よく解決していくことが可能になる。この批評が、僭越ながらそ

          読書ノートを公開する理由

          アメリカ先住民史のリジェクト―佐藤円の2つのポカホンタス論考―

          批評: 佐藤円「史料が語るポカホンタス」『大妻比較文化:大妻女子大学比較文化学部紀要』16巻(2015年)、72-99頁。 佐藤円「ポカホンタスによるスミスの助命論争:再考」『史苑』(立教大学)76巻1号(2015年12月)、81-94頁。 主な批評の内容: 先住民論的転回の否認/助命論争への参戦/実証強度の数値化/新たな研究方法の解答公開を求む

          アメリカ先住民史のリジェクト―佐藤円の2つのポカホンタス論考―

          アナロジーとテレオロジーの落とし穴—『近代アメリカの公共圏と市民』森丈夫論文—

          批評:森丈夫「植民地フロンティアの変容と「公民」の創出:ヴァジニア植民地の入植地構想」遠藤泰生編『近代アメリカの公共圏と市民:デモクラシーの政治文化史』(東京大学出版会、2017年)、第4章。 主な批評の内容:新奇性と主張の整理/対先住民関係転換の論理的前提/遠視による先住民の抹消 最終更新日:2023年8月14日

          アナロジーとテレオロジーの落とし穴—『近代アメリカの公共圏と市民』森丈夫論文—