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【台湾建築雑観】なぜ、台湾の住宅には2つのバス・トイレが必要なのか?

この記事のシリーズの初めの方に、「台湾人が日本のマンションを見て考えること」という文章を書きました。そのなかで、トイレを2つ欲しいのだが、そういう案件は大きなもの以外はなく、増設もままならないと説明しました。翻って考えると、台湾ではマンションの部屋に2つのバス・トイレがあるのは普通のことです。そのことをもう少し掘り下げて考えてみます。

2つのバス・トイレ

台湾のマンションでは、2LDKの大きさ、室内面積60m2くらいになると、バス・トイレが2セットあるのは普通のことです。通常、主寝室に専用のバス・トイレを置き、それ以外に子供用、客用のバス・トイレを設けます。
この、専用のバス・トイレを有している部屋を台湾では"套房"と呼びます。套は"套餐"セットメニューという言葉があるように、一揃い揃っている部屋という意味ですね。日本で言うワンルームマンションも、台湾では套房と呼ばれます。

コロナの際に、台湾ではこの套房のある家であれば自宅隔離が可能でした。バス・トイレを共有しなければ、自宅隔離でも家庭内感染は防げると考えられたからです。
日本ではこの条件は難しいと思いました。二階建ての家か、面積のとても大きな家でなければ、トイレが二つあると言うことはあまり考えられません。トイレが二つあったとしてもお風呂が二つあることはまずありません。
なので、この問題では日本の場合、厳密に考えるとホテルでの隔離を要請すべきだったのでしょうが、それも現実的ではなく、結果としては自宅隔離を許容していました。それがために家庭内感染が拡がっていたのだろうと、台湾から見るとそんな風に感じていました。

ダイニングの横に共用のバス・トイレが、
主寝室に専用のバス・トイレがあります。

台湾で現地のディベロッパーや販売会社と打ち合わせをすると、面積が大きいときにはこの様な計画をしても問題ありませんが、面積が小さくなってくると、日本人的な感覚では、こんなにトイレの面積をとるよりも、バスとトイレを分離式にして複数の人間が使えるようにする方が合理的だと考えると、いつも発言しています。しかし、この考え方はなかなか受け入れてもらえません。

高雄や台南ではバス・トイレが3セットの場合も

台湾でも高雄や台南では、台北の住宅よりもさらに大きな面積で計画されます。そうした場合には、2セットのバス・トイレでも不十分と考えられ、商品の競争力を増すために、3セットにするというような場合もあります。その議論をした時も、本当にそんなにたくさん必要なのか?もっと収納などのスペースに使った方が良いのではないかという意見を出しましたが、販売会社の考えでは大きな面積の商品のセールスポイントとして3つのバス・トイレというのは訴求力があるという判断で、そうなってしまいました。

この、販売会社が売りやすい方に計画がぶれやすいというのも、台湾の住宅プロジェクトの傾向です。参考に下記の記事もご覧ください。

生活習慣の違い?

会議のなかで台湾側はこう質問してきます。朝忙しいときにトイレが占拠されてしまいませんか?そういうトラブルをなくすためにトイレは2つ必要ですと。そして逆に、日本ではこういう問題はないのですか、と聞いてきます。
さて?と考えても、日本でそんなことが問題になることはあまりないでしょう。人間の生理の問題なので、条件は同じはずです。例えば2LDKの家で両親と子供二人という家庭で、トイレが一つしかないということが問題になるでしょうか?日本ではそうはならないように思います。

台湾では、一人がトイレに30分も籠って用をたすというようなことがよくあるのだそうです。そんなことが忙しい際に起こると確かに困ってしまいます。しかし、日本ではそんなことはあまり起こらないでしょう。あったとしても朝の忙しいときには、譲り合いの精神で皆が早くトイレの時間を切り上げるように思います。夜、ゆっくり時間があるような場合は、好きなだけトイレに時間をかけるかもしれません。

そんな風に思い至ると、この問題には台湾人の生活の基本的な態度が関係しているのかもしれないと考えるようになりました。日本人の教育のされ方、"他人に迷惑をかけないように"という考え方が、トイレの習慣にも表れているのかもしれません。忙しいときには、家族のみんなのことを考えて、トイレは早く済まそう。日本ではそんな風な傾向があり、台湾の様な問題はあまり起こらない。台湾と言わず、日本以外の国では自己主張をするのが生活の際の基本的な信条ですので、他人のために譲り合うという考えはあまりありません。

そして、そのようなトイレのニーズを取り入れた住宅の計画案が、だんだんと市場に受け入れられていき増えていった。その過程で、トイレを長時間占拠して構わないという生活習慣が、さらに助長されて定着してしまっているのではないか。そして、その習慣を日本でも叶えたいと考えて、トイレを増設したいという要求になるのかもしれません。
この問題を僕は今はこの様に捉えています。

これはあくまで推論と仮説ですので、台湾で生活している日本の方、ないしは台湾の方の意見を聞いてみたいところです。

追記

別のクリエイターさんの記事に、アメリカの住宅では台湾のように、バス・トイレを2セットとか2セット半とかいう記載をするそうです。そうだとしたら、台湾と同じですね。アメリカナイズされた生活習慣なのかもしれません。

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