見出し画像

【提言】高齢化率75%のまちのアーリーアダプター

私たちの会社は、訪問看護事業の他にビジネス開発部門も有しており、昨年よりIoT活用による在宅療養観察サービスのための実証実験を行っています。医療・介護・ヘルスケア領域を企業ドメインに置いている私たちは高齢者のためのサービスを開発しているため、高齢化率75%の呉市豊町は実証フィールドとしてかなり適しています。

人口は約1,500人で、一つの集落の人口は200〜500人くらいで五つの集落から構成されています。住居は谷の合間に建てられているので、まるで都会のように密集しています。田舎だと隣の家まで1㎞先などが当たり前のようにイメージされますが、島しょ部はそれと異なります。このような環境ですから、被験者を集めるのも実験も非常に効率的なのです。

高齢者向けにデジタルを活用したサービスやプロダクトを開発すると、よくデジタルデバイドの問題が挙がります。デジタルデバイドとは、インターネットやコンピューターを使える人と使えない人との間に生じる格差のことで、つまり「情報格差」のことです。当然、私もその問題を認識しており、むずかしさも理解しています。

しかしながら、昨年からの実証実験を通してはっきりしたことがあります。それは、高齢者の中にもスマホやインターネット、新しいアプリに興味がある人たちが一定数存在するということです。瀬戸内海の真ん中の高齢者ばかりの島にもアーリーアダプターはいて、彼らはいつも新しいことに興味があるのです。

私たちが出会った一人の80歳のおばあちゃんは、以前からアップルウォッチに興味があったと言っていました。理由を聞くと、自分の健康をアップルウォッチで管理したいとのことでした。しかし、購入の相談を家族にしたところ、「どうせ使いこなせないんだからやめてくれ」と言われてしまい、諦めてしまっていました。家族が本人の好奇心(=健康)を奪ってしまっていたのです。

そこで、私たちのサービスを通して使い方を教えられることを、おばあちゃんに伝えるとすぐにアップルウォッチを購入し、私たちのサービスを契約してくれました。さらに、それが口コミで他の住民に伝わり、新たなお客さんを連れてきてくれています。

スマホやインターネットなどのデジタル機器が高齢者層へ広がりにくい理由は一つここにあると考えられます。それは、「デジタル機器は高齢者には使えない」という固定観念です。一緒に暮らす家族や商品やサービスを提供する企業、ネット環境を整備する自治体や方針を決める国にもそれがあります。

たとえば、両親にスマホの使い方を教える際に何度も聞かれることで怒ってしまったことはないでしょうか。日本の企業も分厚い取扱説明書を読まないと使えない商品やサービスを未だにつくり続けています。5Gは、すでにネット環境が良好な都市部よりも田舎から整備したほうが恩恵を受ける人が増え、デジタルデバイドの問題解決につながりやすいのではと私は考えますが、それも従来通り都市部から進めています。

もちろん、この世に生まれてきてからデジタル機器に囲まれている若者と比べてしまうとデジタルへの距離感は遠く、その分の苦労はありますが、高齢者もスマホやネットを使いこなせる社会の方が、より良い社会であることは言うまでもありません。

私が尊敬する経営者で、シニア向けのパソコン・スマホ教室をやっている方がいます。そこの教室では、「同じことを100回聞かれても笑顔でお答えします!」をスローガンにし、高齢者に寄り添った丁寧なサービスを提供されています。

また、私もアップル社製品のユーザーでありますが、iPhoneやiPadなどの製品に分厚い取扱説明書は付属しません。すべて直感で使えるようになっており、高齢者でもそうでなくても使いやすい設計になっています。

5Gの整備に関しても台湾では、島しょ部から始めたとされています。その結果、都市部と田舎の格差が縮まり、コロナ禍の素早い対応は世界でも話題になりました。これはそもそもコロナ禍の前から行政のデジタル化が進んでいたことが大きく影響しています。

日本の超高齢化の問題への対処としてテクノロジーの導入が叫ばれていますが、物やサービスよりも、「デジタル機器は高齢者には使えない」という固定観念を捨て、まずその認識を改めることが大事だと私は思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?