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広告が効かない時代に、PR視点からのオウンドメディアを改めて考えてみた
「PR視点」をそもそもどこに定義を置くのか、という話があります。
まずはそこを整理したいと思うのですが、本来のパブリック・リレーションズの意味となる「社会との関係性を結ぶ」という視点からオウンドメディアを語れないだろうか、というのが今回のnote の趣旨です。
そのためにはPRの歴史を知るところから始めないといけないなと感じて検索して調べていたところ、PR Table さんのこちらの連載が目に留まりました。
執筆者は、合同会社ほとりびの大島 悠さんです。Vol.1-6 の長文コンテンツ、中身も濃く読み応えがありました。
そうした中でふと、オウンドメディアは次の2つの視点から語るとうまく整理ができそうだと感じました。
1.企業活動主体の経済的営み
2.企業活動主体の政治的営み
PRの歴史をたどると、そもそもとしては政治的なものを発祥とし、紆余曲折ある中で、企業の中のPRパーソンが自社利益に貢献するための一環としてPRという手法が行われているのだなと感じました。
この場合(経済的な営み)のオウンドメディアは、SEO対策のされたリード獲得のための自社メディアという位置づけになるのかもしれません。
もしくは、『るるぶ&more.』さんのようなインフルエンサーを絡めたSNS発信力を強化したタイプのオウンドメディアです。
ただここで改めてふと思ったのが、インフルエンサーってそもそも、経済的な営みのためだけに存在している方々なのかな? ということです。
インフルエンサーとオウンドメディア
わかりやすくいうと、PR案件をお仕事として受けたいからSNSのフォロワーやエンゲージメントの質を高めているのかな? ということです。
おそらく答えは「NO.」で、インフルエンサーになるためには、コンセプト型で発信するタイプであれ、アジャイル型で発信するタイプであれ、自身の価値観や価値基準に基づいたコトを発信し、フォロワーとコミュニケーションを少なからず取っているのではと推測できるからです。
(中には商業的に、価値観に反していても発信できる人がいるかもしれませんが…)
そう考えた時に、PR視点から見るオウンドメディアは、価値観に基づく本質的な発信をしているインフルエンサーがつくるにふさわしいものなのではないか、という仮説が生まれました。
実際の事例でいうと、塩谷舞さんが運営する『milieu(ミリュー)』がそれに該当すると考えています。
塩谷さんはTwitter のインフルエンサーですが、自身でオウンドメディアも立ち上げています。個人の立ち上げたブログではなく、取材や外部からの寄稿記事を交えたオウンドメディアとしての設計になっています。
インフルエンサーが主体的に運営するオウンドメディアの事例をあまり知らないのですが、こういった発展が進んでくると経済的な営みから政治的な営みの方へと、若干の進歩が起きるように感じました。
基本的にはインフルエンサーというのは、ひとつのわかりやすいカテゴリの中で自分のチャンネルを持つイメージだと考えています。
メイク/お酒/英語/旅/ファッション/暮らし
というように、自分を表現する明確なタグを持っているのがインフルエンサーの特徴だと思います。そしてその多くは、自分の価値観や感性というフィルターを通すことでフォロワーからの支持や共感を集めています。
この取り組みを立て展開させていけばより影響力のあるインフルエンサーになると思いますし、多くの人がそのような取り組みをしていると思うのですが、これを横展開させていくと今度は「PR視点」での広がりが生まれるように感じています。
YouTuber がチャンネル登録数を増やすために同ジャンルのYouTuber とコラボ企画を打ち立てることがあると思うのですが、そこで行われるような、例えば「美容系」の人が「美容系」と組むのではなく、根っこにある価値観でコラボをしていくイメージです。
根っこ…と表現しましたが、もっと広い視野で、と表現しても良いかもしれません。
塩谷舞さん自身は「主流としてのサブカル」をコンセプトに『milieu(ミリュー)』を立ち上げていますが、この「サブカル」という捉え方がやや広い視点でのモノの見方になっていると思うのです。
「メイク」の抽象度を上げると「美容」、さらに上げると「美しさ」になるように、インフルエンサーが具象レベルに落とし込むことが成功パターンになるのとは反対に、オウンドメディアは少し抽象度が高いイメージです。
サイボウズ式さんは「新しい価値を生み出すチームのための、コラボレーションとITの情報サイト」をコンセプトにしていますし、コクヨのWORKSIGHTさんは、働く環境のリデザインを中心に「働くしくみと空間をつくるマガジン」とコンセプトを打ち出しています。
多くの人を巻き込むメディアだからこそ、やや抽象度の高いコンセプト設定が求められると思うのです。
オウンドメディアはそもそも必要か?
「PR視点」から見たオウンドメディアの在り方、というのが今回の記事で伝えたいテーマですので、改めて話を戻したいと思います。
PRはかつて、プロパガンダ的な使われ方をする一方的な政治メッセージでした。それがアイビー・リー(Ivy Lee, 1865-1934)によって現代にも通じるパブリック・リレーションズの理論や手法へと進化します。
多くの企業が不祥事をいかに隠すかにフォーカスを当てていた時代に、企業の透明性や正確性を基本方針としたクライシス・マネジメントのほか、CSR活動やエンプロイー・リレーションズなど多岐の取り組みをアイビー・リーは行ったとされています。
さて、ではこのような発信をオウンドメディアが担うべきかというとまたそれは別の話で、自社のコーポレートサイトでの公式発信である意味十分かなと感じるところはあります。
コーポレートサイトの中で自社のことを発信するのは、オウンドメディアではなく、ブログの役割だからです。
だからといって顧客や潜在見込み客、生活者との接点をつくるのはオウンドメディアの担当かというと、それもまた言い切れるものではありません。
動画メディアであれば「YouTube」がありますし、写真メディアなら「Instagram」、短いテキストメディアなら「Twitter」、長文で伝えたければブログがあれば十分。
音声メディアも日本市場ではまだまだPodcast の浸透率は低いままですが、「Voicy」や「stand.fm」などの登場によって、そちらも担当範囲が決まってきそうな気配です。
そしてそれらは、各メディアをインフルエンサーや企業の公式SNSアカウントが担えば良い話で、ここでもオウンドメディアは登場しません。
もちろん、Google プラットフォームの中で優位に立つ「SEO」という視点からいけば役割はありますが、それもどちらかといえば商業的な、経済的営みの方の話になるので、今日ここでお伝えしているオウンドメディアの定義からは少し外れてしまいます。
SEO対策を否定しているのではなく、SEOのためにわざわざ施策を打つという、ユーザーではなく検索エンジンに対しての向き合い方への偏重を否定しているイメージです。
ここは今日の本題とは異なるので、興味のある方はこちらの記事を参照していただければと思います。
果たして、メディアとしてのオウンドメディアは、今後その必要価値を持つのでしょうか。さらに考察を進めます。
MEDIA GUIDE 制作レベルが要求される?
『C Channel』や『MERY』、『北欧、暮らしの道具店』など、メディアカンパニーとして成功している企業はメディアガイドをリリースし、その中でPVの数やフォロワー数、ユーザーの属性などを公開しています。
確かにこのレベルにまで到達すれば、もうすでにオウンドメディアとしての認知が進んでおり、メディア事業としても収益採算性が合う状態ですので、これが理想といえば理想だと思います。
ですが多くの、特にWebに対して苦手意識を持つ中小企業などでは、このレベルを指標を要求すると、既存事業での収益性に悪影響が出てしまいます。
結果、中途半端な取り組みになってしまうばかりか、オウンドメディア廃止の流れに至ってしまうことも容易に想像できます。
つまり多くの中小企業にとって、オウンドメディアはMEDIA GUIDE を制作する水準にまで到達させることをゴールにしてはいけないということになります。
そうなると、ますますこれからの「オウンドメディア」の立ち位置は危ういものとなってきます。
何か答えとなる糸口はないかと考えを巡らせたところ、映画などの長編コンテンツにヒントがあるような気がしてきたのです。
これからの長尺コンテンツの役割
ファン顧客の深度を、より深いものにするための取り組みとして「北欧、暮らしの道具店」では、YouTubeやIGTV の活用だけでなく、映画のリリースにまで着手しました。
2019年の秋にリリースされたユニクロの雑誌『LifeWear magazine』なども役割は同じかもしれません。
長尺コンテンツは、ファンだからこそより深く知りたいという心理に対して効果的に働く印象があります。
雑誌などで好きな芸能人が表紙を飾っているからついつい手にとってしまうという現象があったりもしますが、そういった経由のさせ方で認知させたものは、少し本質からは外れる気がしています。
確かにオウンドメディアのコンセプトと合致する芸能人やインフルエンサー、マイクロインフルエンサーを起用することでそのタグの力を借り認知を広げることはできますが、その影響力がオウンドメディア側に主体がなければ半永久に繰り返される広告出稿のような状態です。
オウンドメディアは、広告出稿「してもらう側」になるのがメディアの役割として正しいとすれば、ここに要点を置くべきではないと思うのです。
そうではなく、ファンをより深くファン化させるという文脈で「オウンドメディア」を運営することで、そうすることでしか得られない価値が出てくるのではと考えています。
つまり、企業が同志を巻き込むためのメディア活用、深いつながりを持ったアンバサダーとの共同活動です。
オウンドメディアは巻き込み型に本質
YouTube は動画、Instagram は写真だとすると、オウンドメディアの手段は「長文記事」だと私は考えています。
この活字離れをしている現代において、長文を活用したメディアはこれからどんな役割を担っていくのか。
長文を読むぐらいであれば10分ぐらいの動画を見た方が圧倒的にラクという声は若い世代ほど多かったりしますし、最近ではInstagram のキャプションも長文にすることでファンの深度に貢献していたりします。
そこに対して、動画や写真を埋め込むことはできるものの、主体は文字であるオウンドメディアはどう活用すればよいのでしょうか。
ひとつには、
「動画を見る人が好きな人もいれば、文字で読むのが好きな人もいる」
という属性でわけるという考え方です。少なくとも、何かを深く学ぼうと思った場合には動画よりもテキストが有効な場合があります。
動画はテレビと同じでエンタメを追求すればするほど「受動的なメディア」となっていきます。つまり視聴者に対して「考えること」を要求しません。
一方でテキストは「考えるを促進させるメディア」です。そのため学びを深めたいと考える人にとっては、文字のほうが好都合だったりします。
そしてもうひとつは、購買ファネルやコミュニケーションファネルの後半に「オウンドメディア」を持ってくるという考え方です。
通常、マーケティング上のオウンドメディアの役割というのは、潜在顧客層に対して認知を広げるための手段です。
「kintone(キントーン)」は知らないけれど『サイボウズ式』は知っているよとか、「Payme」は知らないけれど、ペイミーくんのアイコンは知ってるというような状態をつくりあげる役割です。
そういう意味では、求人目的に対して行う「オウンドメディアリクルーティング」はこれからの活用として的を得ているかもしれません。
これが採用ではなく、ブランディングになった場合に、目的を認知に置くのではなくファンの深化に使うという発想です。
これについてはモテクリエイターであり起業家、YouTuber のゆうこすが著書『共感SNS』の中で、階層ごとのSNSの使い分けをしているという話に大きなヒントがあります。
彼女の本ではライトユーザーから順番に、
「YouTube → Twitter → Instagram → ブログ or LIVE配信」
と情報レベルを変えて届けていると書かれています。
YouTube とTwitter は関連動画のアルゴニズムとリツイート機能の特性から「新規層」に対して、Instagram はハッシュタグなどで特定ターゲットに対して、そして濃いファンの方々にはブログというように使い分けています。
そしてそこで思ったのは、ゆうこすがつくる「オウンドメディア」はきっと面白そうだな、ということです。ゆうこすがつくる「雑誌」は面白そうだな、に置き換えてもらうと彼女に興味がある人からすればなんとなく伝わるかなと思います。
世界観の共有、というイメージでしょうか。
ゆうこすの本(≒ブログ)は面白かったけれど、ゆうこすが編集長を務めてつくった雑誌(≒オウンドメディア)も読んでみたい、というニュアンスです。
雑誌、というキーワードで連想していくとわかりやすいと思うのですが、本に比べて圧倒的に巻き込んでいる人数がちがいます。
そこにこれからのオウンドメディアの「価値」がある気がしています。
動画 VS オウンドメディア
今回のnote の中ほどに『北欧、暮らしの道具店』の映画化の話をしましたが、長尺コンテンツの王様は、映画やドキュメンタリー作品のようなものに軍配が上がるかもしれません。
YouTube でも「Vlog」が少しずつ認知を上げてきていますが、やがてそういったメディアとしての価値を持つ動画が増えてくるかもしれません。
少なくとも、『北欧、暮らしの道具店』のIGTVはそのような設計になっているような気がしています。
なので、雑誌とは違う、デジタルテキストとしての「オウンドメディア」の役割は、世界観の前提基礎づくりにあるのかもしれません。
文字には、映像世界とはまたちがう情緒の作り方があります。小説を思い返してもらえればわかりやすいと思います。
デジタルの世界は特性として「飽きる」までのスピードがとにかく早く、雑誌や小説のようにまとまった時間を確保してもらうにはかなりハードルが高い媒体になります。
それでも私は『milieu(ミリュー)』さんの記事を読みたいと思うのです。塩谷舞さんが描く世界観を、テキストという媒体を通して味わいたいと思います。
もしこれが紙媒体としての作品であればもっと読みたいと思うかもしれませんが、そこは送り手側の都合、つまり制作コストが全然ちがってくるわけです。
・テキスト情緒のつくり込み
・デジタルメディアの拡散性
・圧倒的な巻き込み力
このあたりを武器として、制作コストの低さを補助輪として、これからの「オウンドメディア」の新たな立ち位置が確立し、そこからやがて制作コストのかかる紙媒体の雑誌や映像作品の方へとメディアを広げていくのは面白いと思っています。
ここへきて低コストという表現がちょっとここまでの流れとなじめていないかもしれませんが、それでもプラットフォームに依存しない文字やデザインの表現が非言語で伝える力は計り知れないと思っています。
なので、低コストとはいえ、お金をかけるべきところは見極めていきたい。
もしここに類したネガティブ要素回避のことを加えるのであれば、
・SNSコミュニケーションが必須ではない
・過去コンテンツをストックできる
という利点は引き続きあると思います。
結論、そこには「オウンドメディア」の開発前にどれかひとつでも良いのでSNS上での世界観を共有する必要がありますし、「オウンドメディア」をリリースした先には紙媒体の雑誌や映像作品があるかもしれません。
その中継ぎとしての役割をこれからの「オウンドメディア」に持たせていく。そういった解釈になります。
そして、メディアの本質を突けば、圧倒的にほかのSNS活用に比べて巻き込む人数が多くなるわけで、そこに「PR視点」を絡めていけることが最終的に経済活動主体の経済的営みから、政治的営みへと足元を固めていけるような気がしているのです。
補足:企業ブログと今後の活用
ここまで「オウンドメディア」を中心にお話をしてきましたが、企業ブログでは一体どのようなことが期待できるでしょうか。
引き続きこちらでも、Googleプラットフォーム上での強みであるSEO対策によるリード獲得や認知獲得をあえてメリットとせず、除外した上で考えてみたいと思います。
…というのも、問題解決とファンの文脈は異なるものという視点があると思うからです。
こちらの記事に書かれていることが私も同感なので、リンクとして貼っておきます。
どちらかというとBtoC の場合にSEO対策偏重が不利というような内容です。
BtoB については課題解決に向けて情報収集を担当者が行い、その中で良さそうなものをピックアップして資料請求する、またはお問合せするという流れを考えると、BtoB に限ってはSEO対策の方がむしろ効果的です。
それであって、見込み客となりうる企業の社内に ”推し” をしてくれるキーパーソンを増やす取り組みとしてSEO外のことも良いと思うのですが、ファン化の文脈で強いのはやはりBtoC だと思います。
そういった中で企業ブログは、東進ハイスクール予備校のように、濃い中の人が顔出しで書く記事があると印象に残りやすいんじゃないかなと思います。
株式会社フロンティアコンサルティングさんのブログは、PRの最新情報や女性に響くPRの仕方など、専門家ごとにカテゴリが切られているので印象に残りやすく、会社というよりも中の人に対してファンになりやすいなと思っています。
個人的に、代表取締役の上岡さんの本はとても学びが多いので、PRをされている方にとってはかなり勉強になるコンテンツだと思ってます。
以上、番外編『企業ブログと今後の活用』でした。
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