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【ポストiOS14時代】ウィジェットとAppライブラリはアプリマーケティングをどう変えるか?

■ はじめに
こんにちは!Repro Growth Marketerの稲田宙人(@HirotoInada)です!

iOS14がリリースされてから約2週間が経過しました。iOS14では様々な機能が追加されましたが、エンドユーザーの間で特に活用され既に話題になっている機能として、強化されたウィジェット機能があります。

今回は、ウィジェット機能とAppライブラリの実際の活用状況と、それが各アプリデベロッパーにどのような影響を及ぼすかを考察します

1. 機能概要

まずは、簡単にウィジェット機能とAppライブラリの機能を簡単に説明します。

■ ウィジェット機能の強化
今までもウィジェット機能に対応していたアプリは以下の画面から、ウィジェットを追加することができました。ウィジェット化することで、アプリを開かなくても特定の機能を使用することができたのです。

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iOS14ではこのウィジェット機能が強化され、ホーム画面にもウィジェットを配置し、自由にホーム画面をカスタマイズすることができるようになりました。

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Source:9to5Mac

■ Appライブラリ の登場
iOS14で登場した Appライブラリ 機能は、ホーム画面とは別に生成される画面になっており、この画面では自動的にアプリが利用用途や頻度に合わせてフォルダ分けされるようになっています。

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旧来、インストールされているアプリは全てホーム画面に配置されていましたが、iOS14以降はホーム画面には配置せず、Appライブラリのみにアプリを格納することもできるようになっています。

2. ユーザーの実際の利用状況

■ ホーム画面カスタマイズアプリの利用統計
今回の新OSリリースは、9月15日にリリース日が発表され、9月17日にリリースされたこともあり、多くのデベロッパーが純正のウィジェット機能を用意できていない状況です。

一方で、ユーザーは新しく登場した本機能を活用して早速思い思いのホーム画面にカスタマイズを楽しんでいるようです。


各デベロッパー純正のウィジェットが十分に提供されていない中で、急速にDL数・利用ユーザー数を増やしているのが、「Widgetsmith」のようなウィジェット・ホーム画面のカスタマイズ機能を提供するサードパーティアプリです。

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Source:SensorTower

上の図は、9月17日のiOS14リリース日からのホーム画面カスタマイズアプリのDL数の推移ですが、20日のDL数は17日比で約26倍と大きく伸長しているのが分かります。
収益もたった1週間で100万ドルを超えており、新しいアプリカテゴリが構築されたと言っても過言ではないでしょう。

iOS 14リリース後の7日間でトップ20のホーム画面カスタマイズアプリのダウンロードは1370万回に達し、App Storeでの世界の消費者支出は100万ドル(約1億500万円)を超えた。Widgetsmith、Color Widgets、Photo Widgetがトップ3のアプリで、7日間で合計1260万回超インストールされた。

実際、日本でもiOS14リリースに合わせて、ホーム画面のカスタマイズアプリの需要が急増加していることが、以下のカテゴリ内順位の推移から分かり、特に「Widgetsmith」は現在までアプリストア全体1位の座を誇っています。

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Source:Apple より稲田作成


上記は、ホーム画面のカスタマイズアプリの需要増加に関してですが、ホーム画面のデザインのインスピレーションを提供するアプリの需要も増加しています。
特筆すべきなのが「Pinterest」です。以下はアプリストアカテゴリ全体のPinterestの順位推移ですが、前述のホーム画面カスタマイズアプリと同様に大きく順位が向上しているのが分かります。

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Source:Apple より稲田作成

実際Pinterest広報によると、iOS14リリース以降で過去最高の日次DL数を記録しており、アイデアを求めるユーザーも急増加しています。(このニーズにへのデベロッパーの対応策は後ほど詳述します。)


■ なぜここまでカスタマイズ需要があるのか?

このように、今回のホーム画面のカスタマイズを可能にするウィジェット機能は多くのユーザーが実際に利用しており、待望の機能であるのが分かります。

しかし、何故ここまでウィジェット機能は歓迎されているのでしょうか?そこには、iOSユーザーの旧来のカスタマイズ需要と年齢分布が関係しています。

元々、若年層のスマホのホーム画面をカスタマイズする需要は顕在化していました。多くの中高生が自分なりにアプリを配置しカスタマイズしており、以下のような分類・整理方法があるそうです。

■ 中高生のスマホ画面カスタマイズ方法
①:アプリ機能別にフォルダ分け
②:アイコンの色別にフォルダ分け
③:初期設定の消せないアプリはフォルダにまとめて画面の見えない場所に
④:壁紙が見えるようにアプリを並べる

Source:iPhone & Androidアプリ、どう整理してる?高校生がやってるホーム画面整理術を一挙紹介!

このうち、①と③は正にAppライブラリが実現したニーズになります。以下はiOS13以前のホーム画面の整理一例ですが、Appライブラリで自動的に行われる整理方法であることが一目で分かるかと思います。

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Source:iPhone & Androidアプリ、どう整理してる?高校生がやってるホーム画面整理術を一挙紹介!

また、②・④は強化されたウィジェット機能が実現するニーズです。自分の好きな色でアプリアイコンをまとめたり、お気に入りの写真を壁紙に固定して見たいなどのニーズはウィジェット機能で実現されているのが分かるでしょう。

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Source:iPhone & Androidアプリ、どう整理してる?高校生がやってるホーム画面整理術を一挙紹介!

上記はあくまでも日本でのカスタマイズ事例ですが、この若年層の間でのカスタマイズ需要の大きさは海外でも共通です。Pinterestでホーム画面デザインのアイデアを探しているユーザーが急増加しているというのは前述の通りですが、特にZ世代の若年層からの検索数が増加していることが分かっています。

「iOS 14用の壁紙とホーム画面のデザインの検索数が、今週、Z世代のユーザーの間で増加していました。2020年6月の時点で、前年比50%の伸び(Pinterestブログ記事)を示している年齢層です」とPinterestの広報担当者はTechCrunchに話した。


さらに、このカスタマイズニーズに拍車をかけたのが日本のiOS利用ユーザーの年齢層分布です。

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Source:意外と知らない!iOSとAndroidOSの調査データあれこれ

元々、国全体としてのiOSのシェアは他国と比べても圧倒的に高い日本ですが、年齢層で分けてみると特に若年層でのシェアが高いことが分かります。

以上が、日本においても、ウィジェット機能・Appライブラリ機能が歓迎され活用されている理由です。

3. アプリマーケティングへの影響と対策

最後の本章では、ウィジェット機能・Appライブラリ機能が、各デベロッパーのアプリマーケティングにどのような影響を及ぼすか、そしてどのように対応できるかを考察します。

以下の図は、スマホ端末に入っているアプリ数と実際に利用しているアプリの割合の推移を表したものです。スマホに入れているアプリ数は増加しているものの、実際に利用しているアプリの割合の伸びは保持アプリ数のそれに及びません。

この流れは、今回のウィジェット機能・Appライブラリ機能の登場により更に加速するものと考えられます。
つまり、スマホの真の意味での”ホーム画面”にアプリを残してもらえるような対策が今後はより必要になる点を念頭に置くのが重要です。

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Source:AppApeモバイル白書 2018・2019より図表稲田作成

以下、想定される影響を細かく分割して見ていきましょう。

①:アクティブユーザーの減少
前述の通り、iOS14ではアプリを削除することなくホーム画面からAppライブラリにアプリを移動させることができるようになっています。これはつまり、ホーム画面に残ることができなければアクティブユーザー数が減少する恐れがあるということを意味しています。

特に以下3つの種類のアプリではAppライブラリに移動させられる可能性が高い為注意が必要です。

1. 人にはあまり見られたくないアプリ
例:マッチングアプリ・賭博アプリなど

2. プロダクトとして利用頻度が低くなるアプリ
例:旅行予約アプリ・ファッションECアプリ

(3. iPhone純正アプリ)

また、休眠だけでなくアンインストールされる可能性も高まる点に注意が必要です。iOSでは設定画面で「非使用のアプリを取り除く」設定ができる為、Appライブラリに移動させられたが最後、ユーザーも気づかぬ内にアプリが削除される可能性もあります。

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尚、サブスクリプションサービスにおいては事業観点では、契約中の休眠ユーザーは謂わば”起こしたくない休眠ユーザー”にあたりますが、起こすべきか寝かせておくかの判断は慎重に行われることをお勧めします。サブスクリプションサービスのユーザーレビューにおいて特に炎上しがちなのが解約に関するトピックなので、目先の収益を取るか、長期的なアプリ価値のどちらを取るかは倫理観が試されるかと思います。(Netflixの休眠アカウントへの契約確認メールの事例を置いておきます)


②:Appleのフィーチャー傾向
AppleにとってAppeStoreは自社の新機能のビルボードにあたり、その点で各デベロッパーのアプリはAppleにとっても一つの商品にあたります。故に、最新機能を搭載したアプリは優遇され、フィーチャーなどで大々的に取り上げられることが多いです。

実際、iOS14リリース翌日の9月18日のFeaturedCardは以下のように、iOS14の新機能を搭載したアプリが大々的に取り上げられているのが分かります。

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ユーザー目線でも最新の機能に対応しているか否かはDLするか決める際の一つの判断基準になり得る為、最新機能への対応有無をストアの説明文やスクリーンショットで訴求をするのは重要になります。

③:プッシュ通知の効力の低下
①:アクティブユーザーの減少 に関連してプッシュ通知にも影響が及ぶと考えられます。以下の画面は設定アプリの「ホーム画面」ですが、着目すべき点は2つです。

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①:デフォルトでAppライブラリに追加することが可能に
→インストールはしたものの起動されない可能性

②:ホーム画面では通知バッジを非表示にできるように
→プッシュ通知を送っても気づかれない可能性

この中でも本項では②を重要な変更点として取り上げます。旧来は、プッシュ通知を送った場合、ホーム画面のアプリアイコンに赤丸の通知バッジを表示することで、ユーザーがアプリを起動する可能性を高めることができました。しかし、iOS14では上図の「Appライブラリ」をオンにすると、ホーム画面上ではアプリアイコンに通知バッジを付けずに、Appライブラリ内でのみ表示することができるようになってしまうのです。

どのくらいのユーザーがこの設定項目をオンにするかは正確には分かりませんが、思い思いのホーム画面のカスタマイズを楽しむユーザーが通知バッジを煩わしく思う可能性はおおいにあると考えています。

通知バッジは、短期的にも長期的にもアプリ起動に寄与する重要な要素である為、本設定項目を把握しておく必要性はあるでしょう。

④:アプリアイコンの役割の再定義
iOS14では、"Widgetsmith"のようなホーム画面カスタマイズアプリを使用することで、アイコンをユーザー独自のものに変えることもできます。これによりアプリアイコンの役割の再定義がされると考えています。

具体的には以下のような状況の整理ができます。

旧来:
・アイコンは企業が自身のブランディング・コンセプトを打ち出す面
・概してシーズンに応じたアイコン変更施策は新規ユーザー獲得よりも変更による既存休眠ユーザーの復帰が目的

今後:
・アイコンはユーザー自身が独自に変更が可能
・シーズンに応じた変更をしてもそのユーザーがデフォルトのアイコンを見ているとは限らない

上記の状況変化故にアプリアイコンの目的は、従来の既存ユーザー復帰促進から、アプリストアでの獲得効率向上(=DL率向上)にシフトすると考えます。

つまり、今後はより競合アプリよりもストア上で目立ち、ダウンロードしたくなるようなアプリアイコンの設計が重要になるということになります。(魅力的なアプリアイコンの作成方法に関しては別途まとめます)

⑤:カスタマイズを許容する必要性
多くのアプリデベロッパーの方がホーム画面のカスタマイズをネガティブに捉え抗おうとしていますが、逆に捉えて利用するのは一つの手だと僕は考えています。つまり、カスタマイズを許容するという発想です。

具体的には以下2つの方法が存在すると考えます。

①:カスタマイズ可能なアイコンを提供する
②:デザインアイデアを提供する

①に関しては、Widgetsmithのようなホーム画面カスタマイズアプリを使用してのカスタマイズではなく、アプリ自身がデフォルトでカスタマイズアイコンを提供するという考え方です。ユーザーとしてもカスタマイズ後の元アプリをAppライブラリに格納する手間が省ける為、印象は良いと思います。

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上の画像は、ブラウザアプリの”Smooz”のアプリアイコンのカスタマイズ機能ですが、iOS14以前からデフォルトで一定のカスタマイズ機能を提供している為参考になるかと思います!

②に関しては、自社のデフォルトのアプリアイコン・ウィジェットを活用したホーム画面のデザインアイデアを提供するという手法です。iOS14リリース以降、ユーザーはホーム画面のデザインアイデアを求めており、故にPinterestのDL数が急増加したのは前述の通りです。既にニーズが存在するのであれば、自社のアイコンやウィジェットを組み込んだデザインアイデアをSNSなどで発信するのは利用促進において一つの手だと考えます。

⑥:アプリビジネスモデルへの影響
iOS14ではAppleの広告モデルに対する嫌悪が、IDFA廃止宣言やAppClipsへの広告挿入禁止などから垣間みえています。ウィジェット機能も、アプリを開かなくても機能をユーザーが利用できる点で、その嫌悪の現れの一部だと個人的には考えています。

今回のウィジェット機能・Appライブラリの登場は、インプレッションベースでの広告モデルのニュースアプリや無料ユーティリティアプリの収益に大きくネガティブ働く可能性があり、今後はますますサブスクリプションモデルへの傾倒が加速することが見込まれるでしょう。

アプリ起動が前提になる広告モデルのアプリにとっては、収益性とユーザーの利便性(=ウィジェット機能の搭載)の天秤に悩むことになりそうな所感です。

■ 最後に
以上が、iOS14のウィジェット機能・Appライブラリ機能がアプリマーケティングに及ぼす影響の考察でした。

今回のiOS14は今までのOSの中でも特にAppleの思想が色濃く反映されたアップデート内容になっていると考えています。AppClipsもウィジェット機能も必要な機能をユーザーが楽に使えるという点で根幹の設計思想は一緒です。

AppleiOSの経済圏でアプリ事業をせざるを得ない状況であるからこそ、プラットフォーマーの意向を汲み取り、それに対応・時に穴を突くような対策が必要になります。

本noteがその対応の一助になれば幸いです。

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