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マッチングアプリ"with"から学ぶビジネスモデル・カテゴリを横断したユーザー体験設計・グロース施策まとめ

■ はじめに
こんにちは!Repro Growth Marketerの稲田宙人(@HirotoInada)です!

今回は、僕も大変お世話になっていたマッチングアプリ"with"を取り上げ、ユーザーの登録から退会するまでのステップにおいて、どのようなグロース施策が散りばめられているかをまとめます!

また、最後に、ゲーム開発を出自とするイグニスさんならではの、マッチングアプリへの別ビジネスモデル・カテゴリの施策転用を取り上げて、他のアプリではどのような取り組みができるかを考察します!

尚、本noteの元ネタは僕と伊藤直樹さん(@n_11o)でやっているポッドキャスト番組「Mobile Update // モバイルアップデート」で収録した第31回「マッチングアプリ"with"から学ぶビジネスモデル・カテゴリを横断したユーザー体験設計」なので、そちらも併せてお聴き頂くと理解が深まると思いますので是非!

1. KPIツリー構造・ファネル構造の整理

withの各グロース施策を取り上げる前に、マッチングアプリのKPIツリー構造とユーザーファネルを整理しておきましょう。

まずは、KPIツリー構造に関してです。
withも他の多くのマッチングアプリと同じく、サブスクリプション型の月額課金と、都度課金型のアプリ内通貨の2つの柱によって収益が成り立っています。(より厳密に言えば、通常の男性向けの月額有料会員課金とは別に、女性も対象にしたVIPオプション課金なども存在しますが、本noteでは便宜上割愛します。)

この収益構造を、男性ユーザーのサブスクリプション型の月額課金を中心に置いたKPIツリーとして整理すると以下のようになります。

with_グロース施策まとめ01

ご覧頂くと分かる通り、収益を上げるには男性ユーザーを活性化させるだけでなく、女性ユーザーの数と質の向上、すなわちコミュニケーションを双方向で男女で行わせる必要性があります。

次に、ユーザーファネルです。
一般的なマッチングアプリと同じく、withにおいてもユーザーはおおまかに以下の順番で体験をし最終的には退会をしていくことになります。

①検索:自分の好みの条件でユーザーを絞り込む
②閲覧・被閲覧:気になる相手のプロフィールを閲覧する・される
③いいね送信・受信:相手にいいねを送る・送られる
④マッチング:相手とマッチングをする
⑤メッセージ送受信:どちらかから最初のメッセージを送る
⑥メッセージ往復:メッセージの双方向やりとりが発生する
⑦デート:オンラインまたはオフラインでデートを行う
⑧退会:マッチングアプリを退会する

ここまでのKPIツリー構造をユーザーファネルと組み合わせて整理したのが以下の図です。

with_グロース施策まとめ02

マッチングアプリwithでは、上の流れに沿って各種施策を実施しKPIを改善していくことが求められます。

本noteでは上記ユーザーファネルステップの ①検索〜④マッチングをマッチング前⑤メッセージ送受信〜⑧退会までをマッチング後 と2つに大別し、それぞれの段階でどのような施策を行っているかを見ていきます。
また、ステップ横断のリテンション促進施策に関しても3章にてまとめます。

では、次章から各ステップ・KPIに対してどのような施策をwithが実施しているかを見ていきましょう。

2-1. マッチング前:オンボーディングとマッチ率向上

まずは、マッチング前のグロース施策です。
このマッチングをするまでのステップでは、ユーザーが魅力的なユーザーを発見して相手を知りいいねを送ろうと思わせる仕組みづくりが重要になります。
それぞれの施策を見ていきましょう。

①:徹底的な赤ポチ誘導・ポップアップによるオンボーディング促進
withでは、アプリ利用開始直後から、UI上での赤ポチやポップアップによる、徹底的なオンボーディング促進を行っています。
具体的には、アプリの使い方を説明するポップアップの他に、プロフィール設定を重点的に促進しています。

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マッチングアプリは慣れてしまえばアプリ関係なく使えるようになりますが、本当にマッチングアプリ初心者の場合は情報量が多くどの機能から使えばいいかが分からなくなるケースが多いです。
特に女性ユーザーの場合は、登録直後から「いいね」が大量に届く傾向がある為、情報量の洪水から混乱する可能性があります。

こうした状況に対して、被いいね数やマッチング率に直結するプロフィールを設定・充実させることを最優先として促進することで、Time to Valueを早めることを図っています。

こういったオンボーディングプロセスでの過度なUI上での誘導は、ユーザービリティを棄損する恐れがありますが、そもそものwithの新規利用ユーザーの属性がマッチングアプリ初心者であることを理解して、あえて徹底的な機能利用誘導施策を行っていると考えられます。

尚、オンボーディングプロセスの種類やその特徴・活用するべきシーンなどは以下のFritzさんの記事が鬼分かりやすいので是非ご覧くださいー!

②:Pairsとのプロフアイコン比較にみる設計思想
次に、プロフィールアイコンの形のPairsとの比較から、それぞれの設計思想を考察します。

プロフィールアイコンがマッチング前の段階で影響を及ぼすのは、検索結果一覧画面とプロフィール詳細画面の2つです。
Pairsとwithでは、それぞれの画面でのプロフアイコンの形が以下のように対照的になっています。

■ 検索結果一覧画面→プロフィール詳細画面
Pairs:ラウンドアイコン→スクエアアイコン
With:スクエアアイコン→ラウンドアイコン

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ラウンドアイコンの方が視線が中心に集まる傾向がある為、見た目重視・SNSライクなPairsでは、検索結果一覧においてラウンドアイコンを採用しているのではないかと思います。
これは言い換えると、検索結果一覧からプロフィール詳細画面へのCTRを向上させる点を重視しているとも考えられます。

一方の、withでは対照的に検索結果一覧画面ではスクエアアイコンを採用しています。スクエアアイコンの場合はラウンドアイコンと違い視線が周囲にも散逸する為、顔写真だけでなく写真背景にも視線が留まると考えれます。また、描画エリアがラウンドアイコンと比較して大きい為、「共通点の数」や「相性が良い」「今週入会」のラベルをつけても顔写真がはっきりと見えるのが特徴です。

これは、性格診断を全面に押し出すwithの設計思想が表面に出てきていると言え、背景も含めたその人の雰囲気を伝える為に、スクエアアイコンを採用しているのではないでしょうか?
言い換えれば、検索結果一覧からプロフィール詳細画面へのCTRではなく、プロフィール詳細画面からマッチングまでの突破率向上に重きを置いているのではないかと考えられます。

どちらの戦略の方が正解などはありませんが、こういったプロフアイコンの形の細部にも設計思想が根付いているのが非常に特徴的です。

尚、Pairs以外のアプリも含めたマッチングアプリの歴史と今後を考察したポッドキャストも以下で収録しているので、理解を深める上でどうぞー!

③:被いいね数の可視化を非表示に
マッチングアプリでは異性の受け取ったいいね数、すなわち被いいね数が表示されるUIが一般的で、Pairsとwithも多分に漏れず表示されるようになっています。

いいね数が表示される画面としては、基本的に検索結果一覧画面・プロフィール詳細画面の2つが挙げられますが、withはPairsに先んじて検索結果一覧画面でのいいね数表示を廃止しました。(その後Pairsも検索結果一覧画面での表示を廃止)

この変更は、お相手のいいね数によってバイアスがかかり、人気の人はさらにいいねを受け取り、ユーザーごとのいいね数やプロフィール詳細画面へのCTRの偏りが発生することを危惧したからではないかと考えています。

こういった、人気度の可視化はマッチングアプリに限らず他のサービスでも非常に慎重になるべき点です。
特に絶対的な機能的価値ではなく、各個人の嗜好にその判断が大きく左右される相対的価値の商材ではこの設計が非常に重要になります。

例えば、Instagramでは各投稿に対する「いいね!」の数を非表示にする仕様変更を行いました。この変更の意図としては、「Instagramはそのアプリを、「いいね!」の数を気にすることなく、人々が心地よく自己表現でき、シェアした写真や動画に集中できる場所」にする為と語っています。

また、フードデリバリーChompyでも、料理は「多様性や主観性」に富んだ商材という観点から、敢えて各店舗の平均評価をアプリ上で表示をしないUIになっています。

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Source:Chompyが語る「フードデリバリー事業」の立ち上げ戦略。エリア限定のネットワーク効果がUXに影響する話、リピート率と注文回数が1.5倍の配達方法「らくとく便」の裏側。

見た目・趣味・考え方など複合的要因が複雑に絡まり主観的に判断がされるマッチングアプリにおいても、この「多様性や主観性」の観点は非常に重要であり、「いいね数」= 評価・人気度 を可視化するかは慎重な選択が必要であると言えるでしょう。

個人的感覚で言えば、検索結果一覧画面だけでなくプロフィール詳細画面でもいいね数を表示する必要性があるのか非常に疑問を覚えます。
この辺詳しい方や考えがある方是非聞かせてくださいー!

④:モテ度診断・モテ写診断
プロフィールの充実度合いやプロフィール写真の質は、被いいね数やマッチング率に直接影響する重要な要素です。

若い方からすると意外に思われるかもしれませんが、マッチングアプリのプロフィール写真が「それ選ぶ!?」みたいな写真を選んだり、プロフィール設定がテキトーな方はかなりいます。
これは、SNSなどオンライン上に自分の写真を載せることに慣れている若年層と違い、そういった文化に慣れていない方が多いことに起因しているかとは思いますが、テキトーなプロフィール設定はKPI改善において大きな障壁となり得ます。

こういった状況を改善する為に多くのマッチングアプリと同じく、withにおいてもプロフィールの診断機能、その名も「モテ度診断・モテ写診断」を備えています。

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モテ度診断機能では、プロフィールの設定状況に合わせてモテ度を100点満点でスコア付を行い、どの要素を改善するべきを明示してくれます。

モテ写診断機能では、写真の光度や顔のサイズなどを基準として自動で写真が魅力的かを診断してくれます。Dineでも同様の写真診断機能がありますが、Dineの場合は顔写真のみしか登録できない一方で、withでは趣味の写真などを登録できる点からもその設計思想が伺えます。

2-2. マッチング後:コミュニケーションの促進

次に、マッチング後のグロース施策です。
これはマッチングアプリあるあるかとは思いますが、マッチだけしてコミュニケーションが発生しないケースは往々にして存在します。

実際、海外のマッチングアプリHingeが公表した「DatingApocalypse」という調査レポートでは以下のような結果が出ています。

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「スワイプ型マッチングアプリを利用する男性はマッチした後7%しかメッセージを送らない」

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「スワイプ型マッチングアプリを利用する男性の65%が返信が返ってこないと予想してメッセージを送る」

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「スワイプ型マッチングアプリを利用するユーザーが、初回メッセージの半分以上を無視したことがある」

Source:DatingApocalypse

こういったマッチだけしてコミュニケーションが発生しない状況は、運営側からすれば男性ユーザーの課金が発生しない為収益に繋がらないだけでなく、ユーザー本人からすればマッチしただけで肩透かしを食らっている状態といえ体験が棄損されていると言えるでしょう。

つまり、マッチング後に、マッチした相手と双方向コミュニケーションを継続的に行ってもらう為の施策をしていくことが必要になります。

①:マッチングからのカウントダウン機能
マッチしたものの初回メッセージをお互いに送らない状況が往々にしてあるのは前述の通りです。

このカウントダウン機能では、マッチングしてから24時間からカウントダウンを行い、返信率が下がる点を訴求し、早い段階でのコミュニケーション発生を促進しています。

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単純な設計ではありますが、「鉄は熱いうちに打て」的観点で、初回コミュニケーション促進には一定の効果があるのではないかと思います。

②:トーク促進機能
①のカウントダウン機能に加えて、早い段階でのメッセージ発生を促進する機能として「トーク促進機能」も存在します。

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この機能では、一定時間初回メッセージを送信しなかった場合に上のようなポップアップが出現し、お相手と話したいトピックを6つの選択肢から最大3つ選択させるようになっています。

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トピックを選択すると上のようにお互いの話したいトピックがトーク画面に表示され、最大6つの会話トピックが誕生するようになっています。

マッチングアプリでは、相手の何に興味を持っていいねをしたのかが可視化されず相手にも伝わりづらいです。
故に、無難な旅行や趣味の話を相手にするものの、なかなか話が盛り上がらないという事態が発生し得ます。

こうした課題を解決する為に、事前にお互いの気になっている点・話したい点を明確にし、トピックの期待値調整を行うことで、その後の活発なコミュニケーション発生を促進しようとしていると考えられます。

ちなみに、Pairsでも同様の課題を感じている為か、withとは別のアプローチで課題解決を図っています。

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上の画像のように、相手の登録しているコミュニティに対して個別にいいねを送信することができるようになっている為、相手にいいねをする段階で、相手の何に興味を持っているかを明示することができるようになっています。

③:トークアドバイス機能
①・②の機能によりメッセージのやりとりが発生したものの、円滑なコミュニケーションが続かないというケースも利用者にとっては大きな課題です。

withではお相手との会話状況に合わせてwithからアドバイスが届く「トークアドバイス機能」を提供しています。

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例えば、返信のペースが相手の返信ペースと比較して遅い場合には、上のような返信ペースを早めることをアドバイスされるなど、実際の利用状況に合わせたアドバイスが届く為、コミュニケーションが苦手なユーザーや、マッチングアプリ初心者には非常に有用な機能となっています。

ただ、マッチングアプリ特有の課題と改善余地もあると考えます。
例えば、以下はかなりメッセージを重ねた際に届いたアドバイスですが、曰く「20往復したら会ってみよう」という内容になっています。

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さて、このアドバイスに従い僕は実際に会うことを提案してみましたが、結果は見事ブロックされました…w

どこに問題があったのでしょうか?
僕は以下の2つの理由からお相手との会うまでのリードタイムの期待値が一致していなかったからと考えています。

①:そもそもの「実際に会うまでの期間の希望」は主観的指標であり、20往復と定量的・画一的に定義するのに向いていない指標
②:「実際に会うまでの期間の希望」は定量ではなく定性選択肢から選択する仕様になっている
→人によって「メッセージを重ねてから」の期間の捉え方が異なる
→期間を短くしすぎると軽い人と思われるので、安牌の真ん中の選択肢を選択する

これは、「実際に会うまでの期間の希望」だけでなく、年収や身長などでも発生し得る課題です。

ダン・アリエリー著の「予想通りに不合理」によれば、マッチングサービスにおいて、女性は体重を過少申告・男性は年収・身長を過大申告する傾向があるとされます。
つまり、自分だけが正直に申告をすると、相手は過少申告・過大申告前提で判断をするため、自身の市場価値を下げることになり、結果として市場全体の信用が低下するという負のスパイラルが発生し得るのです。

少し話が飛躍しましたが、今後マッチングアプリにおいては、如何にお互いの期待値を正直に表明し透明化できるかが、サービスにおいて非常に重要になると考えています。

ちなみに、こういった広義のマッチング市場のデザイン理論に関しては、以下の本が非常に参考になるので是非読んでみてください!

3. リテンション促進施策

マッチングアプリはその収益構造上、ユーザーにできる限り長く使ってもらいたい一方で、ユーザーにとっての価値は「早く良い人と出会って退会できること」である為、相反するKPIのジレンマを抱えています。

上記故に、せめて契約期間中はしっかりとリテンションをして活発に使っていもらいたい一心で、各社様々な施策を実施しています。

withでは、約2週間に1回更新のペースで「期間限定心理テスト」を実施し、リテンションを図っています。
こういった「期間限定イベント」というゲームアプリでよくあるリテンション施策をマッチングアプリでも適用する取組みは、出自がゲーム会社であるイグニスさんらしいなーとも思います。

この「期間限定心理テスト」では、診断で相性が良いタイプに対しては、期間中1日10回無料でいいねを送ることができるようになっています。

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さらに、本来はいいねとは別にポイントを消費しなければ送れない「メッセージ付きいいね」も期間中は無料で送ることができるようになっています。

「メッセージ付きいいね」は通常のいいねと比較するとマッチング率が3倍になる効果もあるいうこともあり、リテンションに大きく貢献しているのではないでしょうか。

個人的には、この「メッセージ付きいいね」の期間中の無料開放はリテンション目的だけでなく、その後の課金にも貢献していると考えています。
すなわち、まずは無料で「メッセージ付きいいね」を送信させその効果・価値を体験させることで、イベント終了後や対象外の相手への「メッセージ付きいいね」の送信と有料でのポイント購入に繋がっているのではないかと考えています。


ただ、この「期間限定心理テスト」にもマッチングアプリ特有の課題が存在しています。
それは診断されたタイプによっては相性のよいタイプの数が少なくなり、市場の偏りによりユーザー体験にバラつきが生じ得る点です。

その課題が如実に顕在化したのが、先日の「5周年恋愛エニアグラム診断」であったと考えます。
この診断では、通常は5問程度の診断テストが、エニアグラムの名前の通り計45問の質問が存在し、診断結果も通常は5タイプほどであるものが、9種類と細分化されていました。

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実際の診断結果が上の画像です。
黒太枠で囲っている診断タイプの対象人数をご覧頂くと、その人数に14166人と678人と大きな差が存在することが分かります。

一度こうした市場の偏りを経験したユーザーは、より多くの人にリーチできるように、今後の診断テストで自らの嗜好とは異なる嘘の選択をする可能性もあるでしょう。
その結果として、相性が良いと診断されたのに実際には相性がよくなかったという体験も発生し得、プラットフォームに対するユーザーからの「相性の良い人と出会えるマッチングアプリ」という信用が低下する恐れも存在します。

上記可能性はあくまでも極端な例・憶測の域を出ませんが、withに限らず全てのマッチングアプリ市場に共通する大きな課題と言えるでしょう。

こういったマッチング市場特有の課題を解決する方法詳しい方ぜひご意見聞かせて下さいー!

4. "with"から学ぶビジネスモデル・カテゴリを横断したユーザー体験設計

ここまで、withのマッチング前後それぞれのステップのグロース施策をまとめてきましたが、最後の本章ではタイトルにもなっている「"with"から学ぶビジネスモデル・カテゴリを横断したユーザー体験設計」に関して論じます。

あまり一般ユーザーには知られていないかもですが、withを提供しているイグニスさんは元々の出自はゲーム開発会社です。
こういった出自背景もあり、withでは、前述の「期間限定心理テスト」のように、ビジネスモデルやカテゴリを横断した施策や設計が複数存在します。

①:退会導線と休憩モード
サブスクリプション型ビジネスにおいて解約率は非常に重要な指標であるのは自明です。
マッチングアプリでも例外ではなく、退会までの導線設計は、概してウザさと解約阻止率のトレードオフになりがちです。

例えば、Pairsの退会導線は以下のように、「退会」がメニューの第一階層には存在しません。(これは本当にバランスが難しいので決して非難ではない)

一方のwithの退会導線は以下のようになっています。

ご覧頂くと分かる通り、メニューの第一階層に「退会」が存在し、サクサクと3回のタップで退会が完了する導線設計になっていますね。

なぜそんな設計ができるのでしょうか?
それはwithが「休憩モード」機能を提供しているからです。

「休憩モード」は無料で利用することができる機能で、「休憩モード」を適用したユーザーのプロフィールは検索結果では表示されず、マッチングアプリに疲れたユーザーが退会ではなく休憩を選択することに貢献していると思われます。

これは、一種SaaSの解約阻止施策のアイデアを転用したとも考えられます。

②:リワード広告の転用
ゲームアプリによくあるリワード広告施策のアイデアを転用したのがこちらの施策です。

マッチングアプリあるあるなのですが、マッチしたお相手からメッセージが届き有料課金してみると、「よろしくお願いします」しか書いていないケースは往々にしてあります。(男性ユーザーは無料会員状態では相手からのメッセージの中身を見ることができない)

こういったリスクがある為、男性ユーザーの初回課金転換には大きなハードルが存在します。
そもそも、概してユーザーは「良い人と効率よく出会う方法」というジョブの為にマッチングアプリを雇用しており、アプリ自体が使いたいから使っているわけではありません。

上記観点で考えると、「良い人と効率よく出会う」という価値を感じていない段階での課金促進ではユーザーは動きにくいのは自明です。

こういった最初のハードルを越えさせる為に、withが取り入れたのが「ミッションクリアによるメッセージ機能開放」です。

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この施策は、特定のミッション(指定サービスの会員登録など)をクリアすることで、無料会員でも一定期間有料会員と同じようにメッセージの確認や送信が無制限でできるというものです。

本施策により、「良い人と効率よく出会う」の価値の第一歩である「気になるお相手との楽しいコミュニケーション」をノーリスクで体験できる為、その後の本課金転換にも繋がると考えられます。


■ 最後に
以上、マッチングアプリwithのグロース施策と、ビジネスモデル・カテゴリを横断したユーザー体験設計に関してまとめてきました。

最後の章で触れた通り、自サービスのベストプラクティスだけでなく、他ビジネスモデルやカテゴリで効果のでている施策を積極的に検証し取り入れていく姿勢は非常に重要と言えます。

例えば、マッチングアプリの概念を塗り替えたTinderUIを、自サービスに取り上げた事例としては、転職サービスの『GLIT(グリット)』が挙げられます。

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Source:"AIが自動でレコメンドする求人情報をスワイプするだけ”の求職アプリ『GLIT(グリット)』が"写真・動画に特化した採用広報機能"および企業向けβ版をリリース!

また、F2Pゲームアプリ特有のスタミナ回復の要素を、マンガアプリとして取り入れた事例としては、「待てば0円」モデル」で有名なピッコマが挙げられます。

自分のサービスカテゴリのベストプラクティスだけを追い求めるのはいずれコモディティ化し、且つどこまでいっても頭打ちになります。
また、そもそもベストプラクティスとされている常識が間違っている可能性・改善できる可能性は大いにあり、現状を疑う姿勢が必要でしょう。

大量のアプリがリリースされており可処分時間の奪い合いがますます熾烈になる今後は、自サービスのカテゴリ・ビジネスモデルの枠組みに囚われずに、超境的施策や思考が重要になります。

自サービスのカテゴリ・ビジネスモデル以外の成功事例を、如何に抽象化して自社のサービスに再度具体化して取り入れられるか。
その思考を醸成する上で本noteが一助になれば幸いです。

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また、今回のnoteの内容は、Repro伊藤直樹さん(@n_11o)と2人でやっているポッドキャスト「Mobile Update」でも解説しているのでそちらも併せてご視聴ください!
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