続・テーブルゲームは教育インフラだ
「家族で楽しみながらテーブルゲームを教育に活用してしまえ」という投稿が大変好評でしたので、続編をさっそく。
未読の方&能書き部分のおさらいは、こちらから。
まだあと数回書けるネタがあります。
私、お調子者なので、みなさん「スキ」とか拡散で高井さんを調子に乗せてください(笑)
メチャクチャ駆け足でまとめると、対人ボードゲームの効用は、
1 対人の駆け引き
2 トレードオフへの対処
3 「良き敗者」になること
という、人生を渡っていくのに大事なのに学校の授業ではほとんど教えてくれないことを学べる点にある。
しかも、ご紹介するゲームはどれも面白いので、楽しんでいるうちに身についてしまう。我が家がマンガと並ぶ教育インフラとみなす所以である。
教育なんて、楽しくないと、食いつかないし、身につかない。
前回の入門編は、手軽さとハードルの低さを重視してチョイスした。
なかでは『ごきぶりポーカー』は、対人駆け引きを濃縮したようなゲームだった。
今回は「どっちがお得か選ぶ」という人生で出会いまくる問題、いわゆるトレードオフへの対処を学べるゲームを2つ、対人駆け引きと共感力が鍛えられる超定番を1つ、ご紹介する。
どれも難しいゲームではないのでご安心を。
前回からナンバリングを引き継いで「4」から始めます。
4 笑って悩んで学ぶ期待値 『ヘックメック』
『ヘックメック』は、一言でまとめると、「サイコロを使った点数プレート争奪戦」である。
手のひら大の箱にこんな道具が入っている。「コンポーネント」なんて書くとゲーム通っぽいけど、気にすんな。
各プレイヤーはなぜか「鳥で虫が好物」という設定なので、奪い合うのは「虫」である。
21から36まで16枚並んでいる長方形のタイルが点数プレート。数字の方ではなく、「虫」の数が点数になる。21から24までは1点、33以上なら4点といった具合である。ちなみに4点は滅多に取れない。
余談だが、私は虫が苦手だ。そうじゃなくたって、虫を奪い合いたい人は世間で少数派だと思う。
こういう謎設定により「人生には己が欲しないものを全力で求めねばならない時もある」という学びが得られるのもゲームの良いところだ、と言ってみたかっただけです。
ルール説明をば。推奨プレイヤー数は3~5人である。
プレイヤーは順番にサイコロを振る。出た目で決まる持ち点がプレートの数字と一致すれば、そのプレートをゲットできる。
これを繰り返して、「場」からプレートが無くなったらゲーム終了。
もちろん、一番たくさん「虫」を集めた人が勝ちだ。
このゲームの面白さのカギは、独特のサイコロにある。
ご覧のように、「6」がなくて、代わりに「虫」がいる。コイツがゲームに絶妙な深みをもたらす。いや、虫、苦手なんですけどね、私。
振るサイコロは8つ。「虫」は「6」ではなく「5」としてカウントする。最高はオール「虫」&「5」で持ち点40である。
けっこうやりこんでいるが持ち点40は見たことがない。そもそも、出してもプレートがないからポイントを取れないわけだが。36すら1度見たかどうか、という感じで、だいたいが20点台、たまに30点台が出るとどよめきが起きる。
持ち点を決める手順は以下の通り。
まず、サイコロ 8つをいっぺんに振る。
大人でも、これだけで楽しい。
サイコロ8つも振るなんて、なかなか非日常的で、ちょっとバカっぽいからだ。振る人は、たいていニヤニヤしている。バカっぽいから横目で見ておこう。
振ったら、出た目のうち1種類だけをキープして持ち点カウント用に固定する。ちょょっと分かりにくいだろうから画像で。
たとえば、こんな出目。「虫」も5もない。軽く死にたくなるほどツイていない。実際のプレーだと「ふご!?」と声が出て、他のプレイヤーから笑いが漏れるところだ。
プレイヤーはこの1~4までの出目のうち、1つだけキープできる。「3」を選ぶと、2つのサイコロが「3」で固定される。次は、この2つの「3」をよけて6つのサイコロを振る。
これを何度か繰り返し、その回の出目を決める。
出目の決定には、以下のような縛りがある。
①1度とった「目」は取れない。例なら「3」は2回目以降はダメ
②最低1個の「虫」をキープしないとバースト(無得点)
③サイコロを残して好きなタイミングで持ち点を確定できる
④振ってしまって「取れる目」がなかったらバースト
⑤出目の合計が「場」のプレートの最低点以下ならバースト
バーストすると、自分の手元の点数プレート1枚を「場」に返上するというペナルティのほか、「場」の最高得点のプレートがゲームから除外する(裏返す)という処置をする。
エサが減って他の鳥どもからブーイングを浴びます。甘んじて受けましょう。
ゲーム中盤からはバーストが連発するので、30点台のプレートは誰にもゲットされることなくゲームを終えることも多い。
⑤のルールにある「場の最低点」というハードルを超えれば、ゲットできるプレートがなくても、バースト無しでターンを終えられる。「パス」に近い感じだ。
もう1つ、このゲームで愉快なのは「横取り」である。
写真のように、各プレイヤーはゲットした点数プレートを最後にゲットしたものが一番上に来るように重ねて持つ。
他のプレイヤーは、「場」だけじゃなく、他のプレイヤーの一番上のプレートもゲットできるのだ。
この「横取り」がゲームに起伏とドラマをもたらす。
お父さん(私です)はこの種のゲームはどれも強いので、女性陣は「お父さんのプレートを奪うことは絶対的な正義」と共同戦線を張ってくる。
3枚ぐらい集めてホクホクしていても、集中砲火でスッカラカンになったりします。男はつらいよ。
ルール説明に手間取ってしまったが、このゲームのキモは「期待値の読み」と「ここぞというタイミングで賭けに出る勝負勘」にある。
言うまでもなく、どちらも人生において極めて重要なスキルだ。
みんな、こういう訓練、もっとしたら良いのにと思う。最高の教材は麻雀なのだが……。
まず期待値。「虫」が「5」なので、通常の3.5と違って、サイコロの期待値は3.3ぐらいだ。つまり3以下のサイコロは極力、取りたくない。
最低21点、できれば20点台後半を出したいので、「虫」と「5」で最低3つ、できれば4つ以上キープしたい。
でも、そうそう、都合の良い目は出ない。
馬鹿ヅキ状態でもないかぎり、「虫」と「5」のキープ数を高めつつ、「虫」無し=バーストを回避する戦略が必要だ。
例えば最初に
「4」3つ、「虫」「5」「3」「2」「1」が1つずつ
という目が出たとする。
「4」は期待値(約3.3)を超える「良い目」だから、キープしたくなる。12点確定だ。だが、サイコロの数が減ると、次回に「虫」と「5」を出せるチャンスが減ってしまう。
「虫」を取るのもためらうところだ。次に7つ振って「虫」が3つ出ても、もうゲットできない。「5」を取る選択肢はない。なぜかは良い子の皆さんへの宿題です。
そうすると、この出目だと「3」を1つだけとって「サイコロを温存する」というのも有力な選択肢になる。特にゲーム後半「場が高くなっている=残存プレートの点数が高い」場合には有効性が高まる。
上記のような各回の期待値の読みに、点数プレートの残存数や1位のプレイヤーの得点などの状況が絡むので、テンポ良く遊びつつ最善手を選び続けるのは、けっこう頭を使う。
そして、確率的に最善手を選んでも、勝てるとは限らない。
たいてい、どこかで「確率は6分の1だけど、この目が出れば勝てる!」みたいな局面が来て、そこで踏み込まないと勝てない。
あるいは、サイコロの気まぐれでありえないようなバーストを喰らったり、逆に初手で「虫」が5個なんてトンデモない手が出たりと、とにかく翻弄されまくる。
この、「一天地六の賽の目次第」という浮世の厳しさを学べるのもテーブルゲームの良さである。
『ヘックメック』の悲哀を知り抜いた我が家の皆さんは、最初の出目で「虫」が2つ出ると「安定の2虫!」と称賛の声をあげる。「にむし」と読みます、どうでもいいけど。
これは、「虫無しバースト」を回避しつつ、残りのサイコロの期待値が3.3×6個だから、10+約19とそこそこのプレートに手が届く、順調な滑り出しという意味合いがある。
みなさん、ちゃんと「人生、まずは足場固めから」という教訓を学んでいるようで、何よりだ。
5 欲望と打算のせめぎ合い 『VEGAS』
次の『VEGAS』もサイコロを使ったゲームの秀作だ。
こちらは「銭を賭けたサイコロ陣取り合戦」である。面白そうなフレーズだ。うまいな、高井さん。
こんなイカすイラストの箱には、こんなセットが入っている。
1から6までの目に対応したカジノのプレート。『Vegas』だからね。
その横に並ぶお札は1万ドルから9万ドルまで9種類、数十枚入っている。
そして、大量のサイコロ。
サイコロにつぐサイコロ。
5色各8個で40個。
もう、これだけで楽しいな!
ゲームは各カジノへのお札(得点カード)の配置から始まる。
・各カジノに最大3枚
・合計10万ドル以上になったら2枚でストップ
というルールで置いていく。先ほどの画像をアップで。
ざっと貨幣価値を言語化すると、1~3万ドルは「無いよりマシ」、4~5万ドルは「できるだけ取りたい」、7万ドルは「ウマいことカッさらいたい」、8~9万ドルは「よろしい、殺し合いだ」となる。
この例だと、3枚目で9万ドルが出てしまった「2」のカジノと、8万ドルと5万ドルという高額コンビの「6」が主戦場になり、7万ドルが美味しそうな「5」も狙い目だ。
ゲームに慣れてくると、配布作業で9万ドルがでてくるだけで「ウヒョー!」とか歓声が上がるようになる。世の中、しょせん金である。
お札のセットが終わったら、適当に親を決めて順にサイコロを振っていく。
このゲームは4人プレイを強く推奨する。3人や5人でも楽しいが、4人が至高。サイコロの配布がこうなるからだ。
自分の色8個+「中立」の白サイコロ2個で、1人10個。
『ヘックメック』の項で「8個もサイコロを振るのは非日常で楽しい」と書いたが、その2割増しで楽しい。振る人の顔を見落としてはいけない。ジャラジャラしながら、みんなウッハウハな笑顔で目がギラギラしている。
ゲームは基本、「サイコロ振ってカジノに置いたら次の人」とグルグル回していく感じで進む。普通に時計回りでOK。
①順番が来たプレイヤーがサイコロを振ってカジノを選んで配分
②1ターンにつき配分は1回だけで次のプレイヤーに順が回る
③全員のサイコロが無くなるまでターンを続ける
サイコロの配分が終わったら勝敗を判定してお札を取る。
①各カジノでサイコロ数が多い順に高額のお札を取る
②ただし「サイコロ数が同じ」は相打ちで報酬ゼロ
この②が曲者だ。たとえば2人のプレイヤーが4つ、つまり全戦力の5割を投入しても、同数なら「ゼロ」と同じ扱いで、1個しか置いていないプレイヤーに賞金をかっさらわれる。
お金の配分が終わったら親(=最初のプレイヤー)を交代してお札を各カジノに配置して次のセットに移る。
親を各2回、4人なら8セットでゲーム終了。お金をたくさん稼いだ人が勝ちである。
『VEGAS』の妙味はサイコロの配分を巡る駆け引きにある。
サイコロのピックアップは、『ヘックメック』同様、「出た目のうち1種類を選ぶ」という手法である。
例を示そう。
プレイヤー黒の初回の出目には選択肢が4つある。
「1」なら3個、全戦力の4割弱というかなり強力な布陣だ。ただし、1のカジノの賞金は1、2位でも4万ドルと、ちょっと物足りない。
ここは7万ドルを狙って「5」に2個送り込んでみよう。悪くても3万ドルもらえそうだ。
なお、「中立=白」のサイコロは、セット終了時に他のプレイヤーと同じ土俵でお札を奪い合う存在となる。だから、ここで「3」を選ぶと、自分のサイコロと「白」が2個ずつで相殺状態になる。最低1個は追加投入しないと獲得賞金ゼロになる。
この「中立=白」の存在は、このゲームの素晴らしいスパイスだ。
他のプレイヤーが狙っているカジノに送り込んで「相打ち」に持ち込んだり、計算外で自分のカジノに飛び込んできて自爆したりする。
これがあるとないとで、ゲームの起伏が全然違う。5人集まっていても、4人プレイとした方が良い。3人だと「中立=白」が6個と弱く、スパイスの効き具合が今一つである。
本線に戻ろう。
さて、次のプレイヤー青の出目はこんな感じだった。
この青は攻撃的で、すでに黒が2ついる「5」に乗り込んだ。
次のプレイヤー赤はこんな目が出た。
ここは「主戦場」の「2」にブッこんで、9万ドルを狙いたいところだ。黒と青はサイコロを2~3個消化している。かなり勝算がありそうだ。
プレイヤー緑は、出目の画像は省略するが、「4」に2個送り込んだ。
ここで状況を確認してみよう。
「5」が熱い。「殺し合い」になりそうだ。特に青は引くに引けない。
「2」は赤が安泰に見えるが、各プレイヤーは「白=中立」を送り込んで、相打ちを狙ってくるから気が抜けない。
「4」のカジノは「緑にくれてやろう」という流れになりそうだ。
なぜなら「6」というもう1つの戦場が手つかずで、各プレイヤーが兵力を投入してくるのが必至だからだ。
といった調子で、変化するパワーバランスと自分のサイコロの残弾数、獲得できそうな札束の額を見極め、その都度、戦略を調整する。
しかも、最後は「気まぐれなサイコロ=運」に勝敗は左右される。
なかなかの人生の縮図感である。
『ヘックメック』と『VEGAS』を比較すると、前者の方がお手軽でワイワイ盛り上がり、後者の方がガチの勝負の色彩が濃くなる。ともにプレイ時間は30分程度だ。
「運とテクのブレンド」では、前者は運が6割ぐらい、後者はテクが6割ぐらいというバランスだろうか。『ヘックメック』は、小学校中学年ぐらいなら大人と良い勝負になると思う。
なお、我が家の三女は、英才教育(?)の効果で「ボードゲーム脳」が異常発達したうえに天性の強運の持ち主で、年長さんや低学年のうちから本気でやってもたまに負けるほどこの手のゲームは強かった。
いますよね、異常にサイコロ運が良い人って。そういうヤツです。
いずれにせよ、サイコロを使ったゲームは確率や期待値を肌感覚で学ぶ格好の教材である。両方ともお勧めします。
6 話題の共感力「empathy」を鍛える 『DiXit』
バカ売れ中のベストセラー『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』、6万部の大増刷だそうである。ワンショットで『おカネの教室』の9刷累計分を軽く超えるとは恐れ入りました。
この「ぼくイエ」のキーワードの1つとしてempathy=共感という言葉が注目を浴びている。英語の慣用表現に由来する「誰かの靴を履いてみること」という素敵な言葉と一緒に、もっと広がってほしい精神である。
さて、このempathy=共感を鍛える絶好のゲームが『DiXit』である。
と、ナイスな書き出しから詳細をご紹介したいのは山々だが、実は本稿、すでに6000字を超えようとしている。
私はいくら書いても疲れない人間だけど、読む方が疲れるだろう。
画像だけ予告編的にチョロ出しして、いったん「お開き」とします。
なにこれ。
メッチャ面白そう!!
評判良ければ、続編で詳細を書きますので(笑)
では、また改めて。
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