読解力2

ようやく見えた「型」のゴール

読解力を鍛えるには「書く」しかない!(12)

今回は三女の「お父さん問題」の添削のハイライトです。
連載初回で紹介した「これで行けるな」と親子そろって手ごたえをつかんだ回を中心にご紹介します。
まずは、総集編と前回11回のリンクを。

以下の7問目を出題したのは12月中旬。志望の中高一貫校の受験日が2月初めでしたので、追い込みに入ろうという時期でした。
問題文は以下の通りです。

問1 人工知能とは何ですか。簡単に5行程度にまとめなさい。
問2 最近、人工知能が注目を集めています。10行程度で理由をまとめなさい。
問3 人工知能が発達すると社会はどう変化すると思いますか。良い変化と悪い影響を織り交ぜて、自分の考えを15~20行程度で書きなさい。

例によって3問形式で、キモは3問目の論述です。
この回の三女の初稿は、私の期待をはるかに上回る出来でした。

人工知能とは、文章や音声、画像、状況など、与えられたデータを認識する能力と、その認識結果に対して、一番良いと思われる答えを出す最適化の能力が組み合わさったものである。また、人間が学ぶと何十年もかかる膨大な知識や技術を一瞬でコピーできるため、様々な分野で人間の力を超え始めている。

最近、人工知能が注目を集めているのは、ディープラーニングという、自分で学習する機能が付いた、今までとは違うシステムの人工知能が開発されたからだ。
例えば、そのタイプの人工知能に大量の画像を読み込ませたところ、自分でネコをネコと認識できるようになった。最初から、ネコはこれだ、という情報をインプットせずとも、大量のデータを分析して、ネコはこれだ、という答えを見つけた、ということだ。
そして、その学習能力によって、今までの人工知能に欠如していた常識を、長い時間をかけてデータ化せずとも、自動でそのことをできるのではないか、という道が開かれた。この技術が発達し、人工知能が自分で自分を改良できるようになれば、急速に成長していくと考えられている。

私は、このまま人工知能が発達すると、過労で死ぬ人が減少すると思う。パソコンにデータを打ち込んだり、そのデータを処理したり、などの作業は、もうすでに人工知能が人間よりも数段早く行えるのだから、このまま進歩すれば、他の作業もできるようになるはずだ。
だが、その一方で、失業者が増えてしまうかもしれない、という不安があると考える。人工知能は人間よりも仕事が早い分野もあるうえに、機械なため、疲れることなく、24時間給料なしで働いてくれるからだ。そんな、雇用側からしてはいいことづくめの人工知能の普及が進めば、人間の仕事場はたちまち人工知能たちに奪われてしまうだろう。
しかし、芸術や人を思いやる心などの、感情を表現するものでの力は、人工知能よりも人間が上回っている。人工知能がいくら過去のデータを読み取ろうとも、これだけは、永遠に人間を超えることはできないと、私は思う。
時に人の言葉が心に響くのは、共感する力が言葉をかける人にあるからだ。例えば、一度も痛い、と思ったことがない人に「大丈夫?」と聞かれても、慰めにはならない。
それと同じことで、人工知能は恐怖や痛み、喜びがないため、かける言葉が心に響くわけがない。このようなことから、私は、このまま人工知能が発達すると、社会に良い影響も、悪い影響も、両方ともあたえるが、心がない人工知能ではできない分野の成長につながると思う。

これには舌を巻きました。1、2問目のポイントのおさらいも、3問目の論考も、ほとんどこのままで満点をあげたいぐらいです。
親の欲目は承知ですが、小学校6年生という年齢を考えれば、これ以上を求める必要はないだろうと今、客観的にみても思います。
私は素直に「すごい!」と手放しで褒めました。三女も鼻高々の様子で、大いに自信がついたようです。

ついに身についた「型」

パラグラフ単位で、駆け足で見ていきます。そこには「お父さん問題」の狙いとする、「大人のような『型」をもった文章を論理的に構成する」という成果がしっかり見て取れます。

私は、このまま人工知能が発達すると、過労で死ぬ人が減少すると思う。パソコンにデータを打ち込んだり、そのデータを処理したり、などの作業は、もうすでに人工知能が人間よりも数段早く行えるのだから、このまま進歩すれば、他の作業もできるようになるはずだ。

わずかに「過労で死ぬ人」が話言葉に近く、大人なら「過労死」と書き換えるところでしょうが、他はほぼ完全に大人の文章です。

だが、その一方で、失業者が増えてしまうかもしれない、という不安があると考える。人工知能は人間よりも仕事が早い分野もあるうえに、機械なため、疲れることなく、24時間給料なしで働いてくれるからだ。そんな、雇用側からしてはいいことづくめの人工知能の普及が進めば、人間の仕事場はたちまち人工知能たちに奪われてしまうだろう。

このパラグラフは見事に「子どもの文章」が消えています。失業の増加懸念を説明するロジックも具体的で、「雇用側からしては」という客観視点の導入も大人の作法です。
子どもの作文は「私は~思う」式の単一視点や、「地球」「世界」といった大きな主語に流れがちなので、このサイズ感のあったチョイスは自然で良い選択でしょう。
あえて粗を探せば、冒頭の「だが、」は不要です。

しかし、芸術や人を思いやる心などの、感情を表現するものでの力は、人工知能よりも人間が上回っている。人工知能がいくら過去のデータを読み取ろうとも、これだけは、永遠に人間を超えることはできないと、私は思う。
時に人の言葉が心に響くのは、共感する力が言葉をかける人にあるからだ。例えば、一度も痛い、と思ったことがない人に「大丈夫?」と聞かれても、慰めにはならない。

私の目には、2文目の末尾「私は思う」が非常に好ましく映りました。その前の「永遠に人間を超えることはできない」という評価について「これは自分の主観である」という留保をにじませているからです。
このバランスの取り方も、過去の出題で「大人ならこう書く」と訓練してきた成果だったろうと思います。
後半の例示は良い出来です。「慰めにはならない」という一文が効果的。

それと同じことで、人工知能は恐怖や痛み、喜びがないため、かける言葉が心に響くわけがない。このようなことから、私は、このまま人工知能が発達すると、社会に良い影響も、悪い影響も、両方ともあたえるが、心がない人工知能ではできない分野の成長につながると思う。

「それと同じことで」という入りはややまだるっこしい表現ですが、前のパラグラフを受けている明確に示しており、これはこれで十分でしょう。
最後の「心がない人工知能ではできない分野の成長につながる」というポジティブな評価は、「過労死の抑制」という冒頭に戻って全体を回収する一文で、結論としては申し分ありません。

ここまで「大人の語彙と作法」を操り、パラグラフ単位の構成を有機的につなげられれば、もう中学受験の小論文対策としてはほぼ完璧、あえて言えば高校受験でも、もうひと磨きで通用するかな、という手ごたえがありました。
この文章には「型」と一緒に、まだ「型破り」という域まではいきませんが、三女の個性も少しにじんでいます。

この後、三女はあと2問、「お父さん問題」をこなしてから受験に臨みました。
結果は見事、志望校に合格。
高井三姉妹はそろって同じ中高一貫校に通うことになりました。長女はこの春、大学に進学し、次女は高校、三女は中学でまだお世話になっています。

最後の2問については問題文だけ共有することとします。

問1 東京オリンピックが2020年に開かれます。近代オリンピックの歴史を簡単に5行程度でまとめなさい。
問2 2020年のオリンピックには賛成の人と反対の人がいます。賛成派・反対派それぞれの主張を3点ずつ、箇条書きにまとめなさい。
問3 あなたは賛成派ですか。反対派ですか。意見と理由を述べなさい。
男尊女卑について、以下の問いに答えなさい。
問1 かつて日本は強い男尊女卑社会でした。なぜでしょうか。
問2 男尊女卑について、アメリカ、ヨーロッパ、イスラム諸国の現状を調べなさい。
問3 男女の平等について、自分の考えを10行で述べなさい。

正直、この2問に対する解答は、人工知能の回ほどの切れ味はありませんでした。まだテーマや気分で出来にムラがあるのは、年齢的にも仕方ないでしょう。
それでも「型」ははっきり感じられるものでしたので、「間に合った、間に合った」と受験に向けた不安はほとんど感じなかったと記憶しています。

「お父さん問題」のまとめ

今回でお父さん問題の添削例の紹介は最終回とします。
ここまでのポイントをまとめておきましょう。

・「お父さん問題」では正解のない問題に取り組ませる
・それは論理的思考力を身につけるため
・論理的思考力の土台は「母語操縦術」
・母語で「書く」表現力・論理展開力を磨くのが不可欠
・「書き手」としての力の底上げで「読む=読解力」が向上する
・書き手・読み手として一皮むけるため「大人の型」を優先する
・個性はその先に花開く

次回以降は、私が記者として文章力を身につけた道筋や気づきについて、数回にわたってふり返ります。
短い原稿から初めて、どうやって3000字や1万字といった中長編の記事を書いているか、ノウハウを公開します。

その後、この「読解力を鍛える」というテーマについて私の考えをまとめて、連載の結びとする見取り図を描いていますが、さて、思惑通りいきますかどうか(笑)

もうしばらくお付き合いください。

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