
大学キャンパスに配送ロボット走る~広島工業大学【実装支援事業】
昨年「ひろしまサンドボックス」RING HIROSHIMAでメタバース空間内に「VR広島クリエイターズ商店街」を立ち上げた現役広工大生。彼は昨夏から自動配送ロボット事業の実装支援者としても活動している。VRからロボットへ――ますます活動の幅を広げる彼の新たな挑戦を追った。
広工大のキャンパスを
LOMBYの実験フィールドに
第1回目のRING HIROSHIMAに採択された「株式会社ドラッグアンドドロップ」のプロジェクト。それはVR空間内に広島のクリエイターの商品が買えるバーチャル商店街を設立するというものだった。このプロジェクトはメタバースやVRという話題の最新テクノロジーを用いた点、起案者の2人が現役の広島工業大学の学生である点など、さまざまな点で注目された。

そのドラッグアンドドロップの代表・松尾龍弥(まつお・たつや)さんが再び「ひろしまサンドボックス」に参加した。しかも今度は「実装支援事業」の実装事業者として。関わる案件は、2021年のD-EGGS PROJECTに選ばれた「LOMBY株式会社」による「物流の人手不足を解消するラストワンマイルの半自律型自動配送ロボット」。
VRからロボットへ。起案者から実装者へ……なんだかものすごくジャンプしている気がするが、いったいこれはどういうことだろう?
最初、広島県の方から「配送ロボットの実験をやるんですけど興味ないですか?」って言われて。僕たちはソフトウェアの開発をやっててハードウェアの経験はなかったので「何ができるんだろう?」ってところからスタートしたんですけど、話を聞くうちに「このロボットをどう広島に配備するか考えることはできるかな」と思って。それで引き受けることにしました
話を聞くと、県のサンドボックス担当者が「LOMBYと松尾さんを会わせてみたら面白いのでは?」ということでマッチングされたというのが真相のよう。まさにサンドボックスがつなぐ縁だ。
ただ、ここで疑問に思うのは、なぜ担当者はLOMBYと松尾さんをつないだのかということ。VRとロボット。はたしてここにシナジーの可能性でも感じたのだろうか?

広工大って結構大きな敷地があるんです。坂もあるし、要所要所に走りづらいところもあるし、公道にも近くてちょうどいい場所にコンビニもある。私有地でもあり、LOMBYの実装実験を行うフィールドとしては最適なんです
LOMBYの代表・内山智晴(うちやま・ともはる)さんもこう語る。
松尾くんにはLOMBYの実装実験を行う環境を一緒に作ってもらった感じです。いま僕らは広工大のキャンパスを使ってさまざまな実験をしてますけど、その準備をしてもらったり、大学の学生さんにLOMBYのオペレーションを手伝ってもらったり。われわれはロボットの開発側なので、ずっとわれわれがオペレートするわけにはいかないんです。広島に来たLOMBYはいずれ広島の人に操作してもらい、広島の人に整備してもらわないといけない。そういう意味で今回、地元の企業であり、かつ工業大学の学生である松尾くんと一緒に実装実験できたのは貴重な機会でした

なるほど、大事なのはドラッグアンドドロップの松尾さんという部分と、現役の広工大大学院生(工学系研究科情報システム科学専攻)の松尾さんという部分。
だから正確にはLOMBYとドラッグアンドドロップと広工大、3者の協業という形なんです。僕はLOMBYさんと大学側の間を取り持った感じです
LOMBYを活かした事業を考える役割、そして広工大の敷地を使ったLOMBYの走行実験のサポート役、2つの方向で松尾さんは今回関わることになったのだ。
愛着の持てるロボットは
障がい者雇用にも役立つ
松尾さんを訪ねて広工大にうかがったときは、まさにLOMBYの走行実験の真っ最中だった。
LOMBYを最初に見たとき「かわいいな」って思ったんです。働くロボットって工場の中にあることが多くて普段は見えないけど、これは目に見えるし、ゆっくり走ってて威圧感もない。なんか「ロボット、頑張ってるじゃん!」って愛着が持てる気がしたんです

BOX型のロボットがリモート操作、または自律走行で時速6kmをMAXに道を走る。今回はプロトタイプから数えて3号機の機体になるが、広工大ではその走行実験が行われていた。坂道の走行、エレベーターの乗降……そして今回の一番のポイントは原付ナンバーを取得しての公道の走行テストである。
ナンバープレートを取得するには運輸省と警察の確認をとる必要があるんですが、そうした役所に出す書類の申請も松尾くんに行ってもらいました
あとキャンパス内の走行テストのルート設定とか。あちこちをメジャーを持って測ったり。実験フィールドの準備をやってましたね

LOMBYが目指すのは、たとえばコンビニからの宅配、広い大学キャンパス内の荷物輸送、高層マンションへの物資運搬……など。実は昨年7月、今回の実装実験の周知に向けて大学構内でデモンストレーションを行った。それはコーラを積んだLOMBYが学内を走行し、学生にアンケートを募るというものだったが、当時は通信環境が整っておらず、リモート操作に不安を残した。しかし今回はそうした部分も改善。満足のいく結果が得られたという。

機体が大きめに作られているので、外装に広告を貼ったりすることもできると思うんです。個人的にはバスのような外装にして、バス停を作って定期便を走らせたり。あと大きな公園をぐるぐる走って、お金を入れたら水が買える仕組みを作ったり……いろんな展開が可能だと思うんです
構内を走るLOMBYを見て、松尾さんの頭にもいろんなビジネスのアイデアが浮かんでいるようだ。
僕としてはもう少しだけ改善すれば実装できるレベルに到達すると思ってます。LOMBYはゲーム感覚でリモート操作ができるので、配送業をしたいけど体力がない人、たとえば障がいがある人でも操作ができる。そこから障がい者雇用にもつながっていく事業になると思うんです
事業としての可能性はさまざな方向に広がっている。
VRなどの技術にこだわらず
とにかく広島を盛り上げたい
それにしても会社としてはVR事業を営みながら、今回の実装実験ではロボット事業に参加する。松尾さんの頭の中ではどんなバランスになっているのだろう?
僕は生まれも育ちも広島なんですけど、個人的にはこの広島という場所で何かをやることが大事だと思ってるんです。もちろん東京や首都圏でやるのもいいんですけど、広島っていまだに古い部分も多く、さらに最近は人口流出も増えてて。そんな中で面白いことをやると相当目立つし、対外的にも「広島で面白いことやってるな」って思ってもらえるかもしれない。僕らが事業をすることで広島の魅力が上がっていけばいいなと思うんです
VRやロボットといったテクノロジーより、まず広島ありき。地元の話になると松尾さんの口調が熱を帯びる。
僕は広島に住んでる人間として、広島にはいいところもあれば悪いところもあると感じてて。で、改善すべきところは改善した方がいいと思うんです! そのために街にどんどん刺激を与えていきたい。技術的なことでもイベントでもいいんですけど、僕らが旋風を起こすことで他の業者さんも巻き込んで、街全体を盛り上げていきたいんです。だって今も東京⇒名古屋⇒大阪⇒福岡って、広島が飛ばされちゃうところあるじゃないですか(笑)。「広島はもっといいところだぞ!」「広島は成長してるぞ!」ってことをアピールして、広島には他の県に負けない魅力があることを伝えたいんです

Z世代の口から放たれる熱い郷土愛。現在、松尾さんは23歳。同じ広島人として、こういう若い人が実力をのびのびと発揮できる街であってほしいと思わずにはいられない。
だから僕は技術とかそういう面でのプライドはあまりないんです。もちろんVRのノウハウなどは吸収してますけど、それよりも今ある材料や関係性を使って最大限何ができるかということの方が重要で。今あるチャンスを逃さずにやっていければと思いますね
「VRだから」とか「ロボットだから」といったこだわりをしなやかにすり抜けるフットワーク。今できること、今そこにある出会いにフォーカスした結果が今回のLOMBYの実装支援だったのだ。
2回目のサンドボックスでも
貴重な経験をもらいました
最後に改めて「ひろしまサンドボックス」という取り組みについて聞いてみた。
僕は前回のRING HIROSHIMA、今回の実装支援事業と2回も関わらせてもらって、貴重な経験ができたと思います。特に会社運営に対しては心配もあったのですが、書類の申請などでサポートいただいて。他の事業のレポートを見て「こんなことしてるんだ!」って刺激をもらったりもしましたね
直接話をすると納得できる。性格が素直で、地元に対する愛が深く、さらに物事への向き合い方がフレキシブル――きっと松尾さんのこういう人柄を見込んで、県の担当者は松尾さんをLOMBY内山さんに引き会わせたのだろう。

内山さんからは会社組織の作り方やチームプレイの大切さ、社内の人間関係の構築などを教わりました。東京に行ってオフィス見学もさせてもらいましたし、ひとつの機体に懸ける情熱には感銘を受けましたよ!
先を往く先輩アントレプレナーとの協業も彼を成長させるきっかけになる。さまざまな能力を吸収して、さらにスケールの大きな起業家へ。「ひろしまサンドボックス」は広島で生まれた若きクリエイターを育てていく役割も担っているのだ。
●EDITOR’S VOICE
VRをやっていた大学生チャレンジャーと、配送ロボットの開発を進めるスタートアップが協業――って初めて聞いたときは何が起こっているのかわかりませんでしたが、話を聞けば納得できました。広工大を使った実装実験の部分、世代の違う起業家同士をMIXする育成の部分、確かにこれは新しい「シナジー」が生まれる現場になっていたのですね。
ちなみにLOMBYは先日スズキと共同開発契約を締結。松尾さんが言っていたように、まさに実装が間近に迫っていることを感じさせます。そんなLOMBYの最新アクション、そしてルールメイクに関するレポートもぜひぜひチェックしてください。
(Text by 清水浩司)
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