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自動配送ロボット、いよいよ街へ!~LOMBY【サキガケ】

物流のラストワンマイル問題を解決すべく、自動配送ロボットの開発を進めている「LOMBY株式会社」。2021年の「ひろしまサンドボックス」D-EGGS PROJECT採択後もブラッシュアップを続け、いよいよロボットは公道を走る段階に突入した。先日はスズキとの共同開発も発表された注目のスタートアップ、その現状をレポートする。

配送ロボット・LOMBY
改良を経て「3号機」完成


近年ネット通販の浸透とともに著しい成長を遂げている宅配・配送事業だが、コロナ禍によって市場は爆発的に拡大、コロナが収まりつつある今も衰える気配はまるでない。一方で囁かれるのが深刻な人手不足。運送業のDX化は日本の未来を考える上で避けて通れない道である。

その解決に名乗りを上げたのが「LOMBY(ロンビー)株式会社」。社名と同じLOMBYという名の自動配送ロボットによって、物流のラストワンマイル=最終地点からエンドユーザーへの配送を担うべく開発を続けている。

LOMBYは2021年のD-EGGS PROJECTに採択され、北広島町で実証実験を行った。

北広島町での実証実験で使用された「1号機」

このときはBOX型の機体がガタゴトとキャタピラで動くスタイル。それからの進化について、LOMBY代表取締役社長・内山智晴(うちやま・ともはる)さんはこう語る。

北広島町で使っていた機体からはサイズも仕様も大きく変わりました。あのときから公道の走行に耐えられるよう、足回りやサイズ感、法規の部分も含めてアップデートしてきた形です。北広島のときが1号機で、検証用の2号機を挟んで今は3号機が完成したところです

LOMBY(株) 内山さん

北広島町での実験後、2022年は東京・高円寺の公道や都立大キャンパス、三菱地所が管理する敷地等で2号機を使った実証実験を行った。2号機は公道の走行を想定してタイヤに変わり、5Gを使った遠隔操作も実現。大阪からの操作で東京の機体を動かす実験も成功し、公道走行も成し遂げた。

高円寺の公道で走行実験を行う「2号機」

3号機は1号機、2号機で出てきた課題を改善したものになります。ソフトウェアは2号機から引き継いだものもありますけど、外観やタイヤの駆動部分、機器の選定も含めてすべて改良しました。3号機は実際に許可をもらって公道を走らせ、サービス検証ができる入口に立った機体だと思います

LOMBY(株) 内山さん
内山さんと完成したばかりの「3号機」。いよいよここから実装に入る

配送ロボットとしての機能を完成させた3号機。ここからはそれを使ってどうサービスを作っていくか、社会実装の段階に入っていく。ちなみに昨年6月にはNEDOの「革新的ロボット研究開発基盤構築事業」にも選定。

機体の実力も周囲の期待も高まる中、社会実装実験の舞台となったのは再び広島だった。LOMBYは「ひろしまサンドボックス」の「実装支援事業」「サキガケ」に選ばれたのだ。

広島工業大学のキャンパスで
実装実験スタート!

実験場所については公道であればどこでも同じというか、実績は日本全国で展開できるので、やっぱり地域から応援してもらえる場所でやった方がいいと思って。前回のD-EGGSで広島の方と一緒にやらせてもらいましたけど、「一度トライしてダメでも、また次のトライに向かう」という姿勢がわれわれのハード作りにも合ってると感じて。それで今回も広島で実装実験をさせてもらい、それを全国に展開していくことにしました

LOMBY(株) 内山さん

実装支援事業のパートナーは広島のソフトウェア開発会社「株式会社ドラッグアンドドロップ」。代表の松尾龍弥(まつお・たつや)さんは弱冠23歳。広島工業大学の現役大学院生でもある。

実装パートナーの松尾さん(左)は現役の広工大生

最初、実装実験を大学でやりたいという話になって。下見で広工大に来たとき、県の方に松尾くんを紹介してもらったんです。松尾くんには実装実験する環境を一緒に作ってもらったというか。大学の学生さんを巻き込んで機体のオペレーションをやってもらったりもしました。地元の企業であり、工業大学の学生でもある松尾くんと一緒にできたのは貴重な機会でしたね

LOMBY(株) 内山さん

われわれが取材に向かったとき、広工大ではまさにLOMBYの走行実験が行われていた。学生がまるでゲームでもするような感覚でLOMBYを遠隔操作している(実際にゲーム機のコントローラーを使用)。構内のすぐ外にあるコンビニエンスストアで荷物を積み込み、急な坂道を上る。構内に入ると自律走行に切り替え、エレベーターに自動で乗り込む。試験期間を終えたキャンパスは人も少なく、坂道やエレベーターといったギミックも豊富で、確かに実装実験に最適の環境だと思われる。

大学近くのコンビニから荷物を運ぶシミュレーションを実施

僕はLOMBYを広島に配備してどういうことができるのか一緒に考えようというところと、広工大での実装実験の準備を担った感じです。ある種、LOMBYと広工大との間を取り持つ役割というか

(株)ドラッグアンドドロップ 松尾さん

松尾くんにはナンバープレート取得用の書類を作ってもらったり申請の手続きもお願いしました。公道を走るには運輸省と警察、両方の審査を受けないといけなくて。おかげで今回はいい実験ができました。公道を走れたし、遠隔操作も安定してたし、上り坂もかなりのスピードが出せたし。街中で物を運ぶには今のLOMBYのスペックで十分という手応えを得ました

LOMBY(株) 内山さん
公道を走るためナンバープレートを取得。原付と同じ扱いになる

走行実験は順調のようだが、LOMBYが大学キャンパスで実験を行ったのは走行チェックのためだけではない。 

コンビニから大学に荷物を運ぶということもそうですけど、大学には学内便というものがあるんです。各学科の棟から事務員さんが定期的に書類を運んでて、それをロボットが担えれば手間が省ける。これはそういう社会実装のシミュレーションでもあるんです

LOMBY(株) 内山さん

今回の実験は、大学構内の小荷物配送をロボットが代用する未来を見越した実装化のトライアルでもあったのだ。

海外からの遠隔操作を
可能にするルールメイクを

 
実装という意味では大学以外のシチュエーションも想定されている。

広工大では公道の走行やエレベーターとの連携の実験も行いましたけど、これはタワーマンションでの活用を想定してるんです。たとえばLOMBYがコンビニからマンションまで荷物を運び、自動でエレベーターに乗って高層階まで届ける。もちろん理事会の承認やエレベーターの改修は必要ですが、それができればタワーマンション近くのコンビニや飲食店から各フロアまでの自動配送が可能になるんです

LOMBY(株) 内山さん
自律走行でエレベーターに乗って上階に移動する実験

タワーマンション導入の実験に関しては、さらなるフィールドが用意されている。広島を代表するタワーマンション「hitoto広島」。実はこの夏、hitotoを舞台にした実装実験が予定されており、そのデモンストレーションとして3月には近くの東千田公園でLOMBYお披露目イベントを行ったのだ。

まずは住人や近所の方にLOMBYを知ってもらう機会を作る

実は配送ロボットが公道で複数台実装されてる地域って全国的にもまだないんです。2~3台が実験的に走ってるところはあるけど、10台以上は世界的に見ても例がない。それを100万人都市の広島で実現するということは、世界に先駆けたプロジェクトになると思うんです

LOMBY(株) 内山さん

自動配送ロボットが複数台走る「サキガケシティー」を目指す広島。ただしそれを実現するには、まだルールメイクの必要があると内山さんは語る。

たとえば3号機はインドネシアからの遠隔操作の実験に成功しました。今後LOMBYを実装して配送費を下げることを考えた場合、インドネシアなど時給の安い国の人に操作を外注するという方法があるんですけど、今は道路交通法の問題で海外からの遠隔監視や遠隔操作はできないんです。なぜできないのかというと前例がないから。でも今はネットがつながれば、労働力を海外にトランスファーすることは可能ですよね? そうした部分は今回のプロジェクトを経た上でどんどん提案していこうと思います

LOMBY(株) 内山さん

遠隔操作による労働力の転換という意味では、外国人以外への発注も検討されている。

配送業って基本的に体力がある人じゃないと難しいところがあると思うんです。でもLOMBYの遠隔操作なら指や足など身体に動かせる部位があれば比較的簡単に操作できる。それによってこれまで配送業に参入するのが難しかった女性や障がい者、高齢者の雇用にもつながると思うんです

(株)ドラッグアンドドロップ 松尾さん


スズキとの共同開発も締結
広島から「サキガケ」を発信!

LOMBYで提供できるのは結局労働力だと思うんです。配送って根本は労働力じゃないですか? A地点からB地点までモノをどう運ぶか考えたとき、そこにはまだ人が必要で、人が何を提供しているかというと労働力なんです。それをロボットに置き換えることができれば、安価で配送することができる。広島から「ロボット複数台を使った配送が可能なんだ」「社会に配送ロボットを実装できるんだ」ということを世界に示せれば事業としても加速していくと思います。今はちょうどその入口に立っている状態ですね

LOMBY(株) 内山さん

LOMBYのような配送ロボットが街中を普通に走る時代――それは遠い未来のように思っていたが、案外近くまで来ているのかもしれない。すでに機体は完成。あとは受け入れる社会の認知と法規の整備が残されているくらいだ。

街中を普通にLOMBYが走る、そんな時代が近くまで来ている

――と、そんなことを考えていたらビッグニュースが飛び込んできた。

自動車大手の「株式会社スズキ」がLOMBYと共同開発契約を締結。公道走行向け自動配送ロボットの量産を共同で行うことを発表したのだ。実はLOMBYの3号機はスズキの電動車いすの駆動部分をベースに作られたもの。量産のメドが立ったことで、街中をLOMBYが走り回る社会の到来もいよいよ夢物語ではなくなってきた。

実は機体も広島で作れるようにしたいと思ってるんです。そうなると国産のロボットを広島から全世界に発信できることになる。まず目標としているのは、100万人都市・広島市に複数台のLOMBYを実装すること。それができれば世界で一番サキガケたプロジェクトになりますからね。これもすべて「ひろしまサンドボックス」に参画させていただいたことがはじまりだと思ってます

LOMBY(株) 内山さん 

D-EGGSをきっかけにスタートした広島との縁。メイド・イン・ヒロシマの自動配送ロボットが街中にあふれる頃、はたしてこの国と社会はどうなっているのか?――何度も書くが、それはもう遠い未来の話ではない。


●EDITOR’S VOICE


スタートアップの方を取材していて面白いのは、圧倒的な成長のスピードを体感できることです。私は前回の北広島町の実証実験の様子も取材しましたが、あれから1年半で機体はバージョンアップ、会社を巡る状況も大きく変化。なんとスズキと組んで量産準備、あのhitoto広島で実装実験ですからね。未来を変えていく人を間近で見られるのは気持ちいいものです。

あと、今回の実装実験で面白かったのは、内山さんと組んだのが弱冠23歳、広島生まれ広島育ちの松尾さんという点。同じ起業家として年齢が1まわり以上違う2人はどんな化学反応を起こしたのか。松尾さんの視点から見たレポートを一緒に読むとプロジェクトの全貌がさらにわかります。

松尾さん、内山さん、並んで取材を受けているところ

 (Text by 清水浩司)

 

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