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笑顔検知カメラで地域に幸福循環(北広島町)【スタートアップ共同調達事業】

広島県の事業「ひろしまサンドボックス」で嵐を巻き起こしている男がいる。「RING HIROSHIMA」第1期、第2期に連続して採択され、あまりに規格外の発想と行動力で広島はもとより、世界中を熱狂の渦に巻き込んでいる「Smileの伝道師」……このたび彼が北広島に上陸。「The Meet」でも実証のゴングが鳴り響いた!


DXで地域を1つにする
仕組みが作れないか?


今回の協業相手である「一般社団法人One Smile Foundation」はひろしまサンドボックス界隈では有名だが、ひとまずそれは横に置いて、北広島が解決しようとしている地域課題から話をはじめたい。

採択案は「笑顔検知AIカメラによる笑顔と連動した寄付システム『スマイラル!』による地域のWell Being向上と幸福の循環によるつながりの強化」。答えてくれるのは、北広島町役場総務課DX推進係主任の小川康貴(おがわ・やすたか)さんと係長の大本賢一郎(おおもと・けんいちろう)さんだ。 

北広島町は都市部と比べて地域コミュニティが強いエリアだと思うんです。行政区内での交流はあるし、神楽や田楽団といった伝統芸能もあるなど多世代参加型のコミュニティが残ってます。それでも就業形態や居住形態の変化で地域コミュニティの「顔の見える化」が希薄化しているのが現状です

小川さん

山間部にある北広島町は、まだ古くからの伝統的生活が残っている地域。とはいうものの専業農家の減少、核家族化の進展などで人々のつながりに変化は見られる。

伝統文化の残る北広島町だが、地域コミュニティの希薄化が懸念される

あと少子高齢化も深刻で、現在約17,500人の人口も25年後には約13,000人まで減少し、高齢化率は47%を超えると予想されます。このような状況では地域における町民1人1人の責務が増え、地域コミュニティ力の低下は免れません。地域コミュニティの低下は、これまで共助の仕組みとしてあった地域見守り活動や防犯活動、地域包括ケアなどの維持を困難にします

それを防ぐにはデジタルソリューションを活用して、各自が負担感をともなわずに地域に貢献できる仕組みを作らなければいけないと思うんです。私たちの町には地域のみんなが同じ目標に向かえる取り組みとして神楽などがありますが、そうしたイベントがもう1つ2つあると地域のつながりがもっと強固になると考えました

小川さん

 最新DX技術を活用して、住民の心の拠り所や地域のかすがいになるようなものが作れないか?――そこで白羽の矢が立ったのが、辻 早紀さん率いるOne Smile Foundationだった。

カメラで笑顔が検知されるたび
「1笑顔=1円」の寄付が発生


One Smile Foundationと辻さんに関しては以下のレポートに詳しい。どちらも私が書いているのでおもしろバイアスがかかっているが、辻さんは国連宇宙局で発表したり台湾や韓国でも高く評価されるなど今やウェルビーイング界の寵児として有名である。

One Smileさんの提案は町長以下町幹部へのプレゼンテーションで決定しました。評価項目の中で特に得点が高かったのは、顧客価値(町内のビジネス価値向上)と実現性(行政が行う社会的意義と実現のしやすさ)ですね

小川さん

One Smile Foundationが提案したのは「スマイラル!」事業だ。これはカメラの笑顔認証機能を活用し、日々笑顔が計測されるごとに「1笑顔=1円」の寄付が発生するという仕組み。地域の幸福度を上げる施策として、すでに静岡県浜松市や広島県廿日市市、兵庫県加古川市など数々の自治体で実証実験が行われている。 

「スマイラル!」のビジネスモデル。笑顔を媒介に寄付という形でお金が回る

One Smileさんの提案は、笑顔になること自体がポジティブな行動なのに、それに加えて笑顔が寄付に変わるところがすごくいいと思ったんです。これまで地域活動への参加って、お金を出すか労役を提供するかの2つしかなかったけど、そこに「笑顔になる」ことも加わる。ライトな形の参加方法によって関係人口の裾野が広がると思うんです

小川さん

 そして笑顔による地域コミュニティ強化の火ぶたが切って落とされた。

笑顔は連鎖するもの
郷土愛が育ってほしい


実証実験は2月28日、2方向でスタートした。

1つは町内の公立保育園2園での写真販売サービス。これは園児の笑顔の写真をAIが自動撮影、そのスマイルが寄付になると同時に、撮影した写真を両親に販売するというものだ。もう1つは町内の公共・商業施設にサイネージを設置し、笑顔の発生と共に企業広告が表示されるという仕組みである。

広島県庁内でも設置。注目を集める

ひとまず2ヶ月間実証実験をやって、このシステムを実装するにはどれくらい企業広告を募ればいいのか、何枚くらい写真が販売できればいいのか確かめてみるつもりです。あとアンケートを通じて、このシステムがあることで企業とお客様の関係はどう変わったのか、保護者の方にどんな安心が与えられたのか調査する予定です

小川さん

面白いのが、システムの細部まで配慮が行き届いていることだ。

たとえば笑顔の寄付先に能登半島地震の義援金と、地元で絶滅危惧種の鳥・ブッポウソウの保全など生物多様性の取り組みを行っている「NPO法人・西中国山地自然史研究会」を選定。園児に「みんなの笑顔で鳥のおうちを作ってあげるんだよ」と伝えることで、この活動や生物多様性に興味を持ってもらう。

地元NPOが保護する絶滅危惧種のブッポウソウ

さらに笑顔がカウントされるたびにプラレールの電車が動く仕組みを作り、「いま誰かが笑顔になった=寄付が行われた!」ということを園児に分かりやすく見せていく。人の心の綾を理解したこうした仕掛けのいちいちが実に練られているなぁと感じさせる。

プラレールが走ることで笑顔検知がわかるという見える化を実施!

このプロジェクトって一歩間違えたら「だから何なの?」と言われかねないものだと思うんです。非常に抽象的な内容でもあるので、辻さんと入念に打ち合わせを行いました。おかげでこのシステムを導入することで何が得られるのか、どういう意義があるのか、そうしたストーリーがしっかりしたものになったと思います

大本さん

ではそのストーリーの結末には何があるのだろう? 

たとえば保育園で生まれた笑顔が高齢者施設に寄付されたりすると、世代を超えたつながりが実現できると思うんです。あと自分が関わったものが巣箱など具体的な形に変わる経験は、社会・地域貢献を通して園児の心に郷土愛やシビックプライドを醸成させると考えられます

なおかつ1つの笑顔って別の誰かを笑顔にするもので、笑顔は連鎖していきますよね? その笑顔が寄付となって「自分は社会に貢献している」という自信を得ることで最終的に住民のウェルビーイングは向上すると思うんです

小川さん
こども神楽の様子。故郷に対する郷土愛を育んでくれることを願う

故郷が「笑顔にあふれたまち」であることで郷土愛が生まれ、幸福がスパイラルのように循環する。「Smileの伝道師」辻さんの活動はこの北広島の地でも着実に浸透しつつあるようだ。

こっちから逆営業する
くらいじゃないと

 
最後に「The Meet」に対する感想を聞いてみた。

今回のプロジェクトを経験して私たちの中でも反省点が出たんです。こうした企画を見て募集してくださるスタートアップさんも大事ですけど、私たちの方が普段から「このスタートアップさんとお仕事したい」と意識して、「ちょうどいいプログラムがあるんで一緒にやりません?」って逆営業するくらいじゃないといけないと思って。実際そっちの方が採択後の進行もスムーズだし、より課題解決に近いものができますからね

小川さん
応募が来るのを待つのではなく、自発的な行動が町の未来を切り拓く

北広島町は以前から実証実験のフィールドとしては高い評価をいただいてきたんです。今後はもっとこっちから営業して、私たちの本当に解決したい課題につながるスタートアップさんを引っ張ってきたいと思います

大本さん

「The Meet」をきっかけに刺激を受け、課題解決への挑戦を活性化させていく各自治体。動きはじめたこの波を加速させるか止めるかは、県の采配に懸かっている。


●EDITOR’S VOICE 取材を終えて

文中にもあるようにOne Smile Foundationの取り組みは何度か取材させてもらったことがあるのですが、今回うならされたのは細かな工夫の部分。笑顔が検出されたことが園児にもわかるよう、プラレールで表現するというのは見事なアイデア。「技術=正義」のロジック一本鎗で苦戦している企業も多い中、こういう「伝わってナンボ」「喜んでもらって初めて広がる」というエモーショナルな視点があるかどうかは非常に大事だと思います。

さすがミュージシャンとしても活動する辻 早紀さん。進化の続くOne Smileの活動からは目が離せません!(文・清水浩司)

 

・共同事業者:一般社団法人One Smile Foundation
・活用ソリューション:笑顔検知AIカメラによる笑顔と連動した寄付システム「スマイラル!」
・概要:笑顔を媒介にすることで地域のコミュニティ強化とウェルビーイング向上を目指す
・必要経費:100万円(※機材レンタル費、アプリ改修費など)

 

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