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自分の選択肢はどこにあるのか。オランダからの友人との談話。

みなさま、明けましておめでとうございます。
noteを始めました。

昨年は、いつもお世話になっている東京のReminders Photography Strongholdでグラントをいただいて個展をさせてもらったり、企画展"Civilization"でソウル国立現代美術館への巡回展に参加させてもらったり、太平洋を船で旅する撮影仕事に挑戦させてもらったり、昔から愛読していたBBCやFinancial Timesのような英系のメディアと初めてお仕事をさせてもらえたり、我が心の故郷である大分県の別府市や日出町からお仕事をいただいたり...etc 
と未経験の領域に挑戦させてもらえる機会と昔からお世話になっている人たちと仕事を一緒にできる機会に恵まれて、おかげさまで本当に充実した一年でした。
いつもお世話になってる周囲の人たちに本当に頭が上がらない限りです。。。

今年は、販売中の手製写真集、目下進行中の4つほどの自分のプロジェクトを進展させることをメインに色々新しいことに挑戦していきたいと思います。また昨年は一度も出国できなかったこともあり、中国、台湾をメインに今年は海外へも色々出かけていきたいなと思っています。

*写真は、昨年のReminders Photography Strongholdでの個展。

台湾人写真家 Shengとの再会
年末に一つ自分にとってすごく刺激的な出来事があったので、今回はそのことについて書きたいと思う。

昨年末に友人の台湾人写真家、Sheng Wen Loが日本に撮影に来ていて、2,3時間程度ではあるけれど1年ぶりくらいにゆっくりたっぷりと話す機会があった。Shengはオランダ南部の街、BredaにあるAcademy of Art and Design St. Joostの大学院を一昨年に卒業して、現在はアムステルダムをベースにヨーロッパで活躍する、温厚な雰囲気とは裏腹に作品はキレッキレの気鋭の若手写真家である(※彼は映像やオブジェクトを使った作品も多いし、色々やっているので「写真家」というのは厳密には正しくないかもしれない)。

*こちらは下のWired日本版でも紹介されているShengによる動物園のシロクマを題材に動物と人間との関係性とそこにある様々な矛盾を問いかけるプロジェクトからの映像作品で 昨年度のWorld Press Photoの Digital Storytelling Short Form部門で3位を受賞したもの。
World Press Photoより
https://www.worldpressphoto.org/collection/digital-storytelling/2018/short-form/march-great-white-bear

*Shengのプロジェクトはどれも発想と視点が独特ですごく面白いので、ぜひ作品も見て欲しい。
- ShengのWEB:
https://www.shengwenlo.com/
- 2017年のWired日本版でのShengの作品に関する記事:https://wired.jp/2017/04/22/white-bear/

元々は、2年くらい前に僕がアムステルダムにアーティストレジデンシーで滞在しているときにオランダのアート系大学院の様子が知りたくて、レジデンスの受け入れ先を通してSt. Joostの体験授業を受けさせてもらったときにたまたま参加したクラスでShengとは出会った。その後も中国の写真祭の展示で一緒になったりして仲良くなり、年齢が近いこともあってときどき連絡を取り合っていた。

▼「アーティストが君の仕事ではないの?」
再会して延々とお茶を飲みながらお互いの作品のこと、ヨーロッパの写真祭や美術館事情、彼のオランダでの仕事や向こうの環境などを色々聞かせてもらっていた。
その中ですごく印象的だった話がある。

ShengがBredaで隔年で開催されているオランダ有数の写真祭の一つ「Breda Photo」に展示作家として昨年参加した際、準備のために自分の展示のキュレーターと打ち合わせをしていたときに、当時まだ大学院生だった彼は向こうのキュレーターからこう質問されたらしい。

「君は、大学院を卒業したあと何をするの?」と。
当時、彼は卒業後のための就職活動をしていたので
「今、仕事を探しています」と答えたそうだ。

そうしたら向こうのキュレーターから
「アーティストが君の仕事ではないの?なんで仕事を探しているの?」
と言われたそうだ。

彼はこの言葉が最初、まったくピンと来なかったと。
既にアート市場やコマーシャルな仕事における十分なネットワークができている状況の人間ならまだしも、実績があるとは言え直接的な収入の目途が不安定な自分が卒業していきなり作品制作だけを行うアーティストして生計を立てるということが、ちょっと意味がわからない。。。という感じにである。
しかし、その後もBreda Photoを始めほかのヨーロッパの写真祭や仕事の中で、彼は特にオランダの関係者たちとの上記とまったく同じやりとりを幾度となく経験したそうだ。

その末、ついに彼も諦めて台湾人としての自分の中にある「アーティストは食えない」という一般常識を捨てないにしても、一旦脇に置いて考え、オランダでアーティストとして生計を立てる方法を調べ始めた。
結果として、彼はオランダ国内の財団や公的な各種助成金を得ながら、クライアントワークもこなしつつ、現在アムステルダムをベースに頑張っている。

例えば、彼が今年度選ばれていたものの一つで、The Rijksakademie Residencyというものがある。これはオランダ政府の教育、文化科学省やアムステルダムの行政から支援されている芸術系のファンドが毎年行っている年間50組程度の25~35歳程度のアーティストに対して、リサーチ、実験、制作のためのスペースを2年間提供してくれる国際的なアーティストレジデンシープログラムである。また受け入れ先がスタジオ、滞在費、制作費の一部を提供。滞在場所の紹介も行ってくれる。

これは公式WEBをざっくり見た程度の情報であるけれど、例えば昨年度では一組あたりに生活費補助12,200ユーロ(日本円で約150万円ほど)、制作費として1,500ユーロ(日本円で約15万円ほど)が支給とのこと。
ちなみにちょうど現在こちらは2020年度のレジデンシーを募集中の模様。
The Rijksakademie Residency:
https://www.rijksakademie.nl/ENG/residency/

*上のThe Rijksakademie Residencyを含め、Shengが教えてくれたオランダのアーティストたちの生活のあり方、具体的な公的支援の構造などは自分でも勉強したいのでまた別の機会にまとめて書きたいと思う。そしてこのへんの事情に詳しい方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えていただけたら嬉しいです!

*Rijksakademie van beeldende kunstenのWEBページ。
https://www.rijksakademie.nl/home より。
どうでもいいけど、これはなんと正しくは発音するのだろう。。。オランダ語難しい。

▼自分にとっての選択肢はどこにあるのか。
「アーティストということだけを仕事として生きていくことはオランダでも決して楽ではないし、競争も激しい。けれど、台湾にいたときにはアーティストとして生計を立てていくなんて選択肢があるとさえ絶対に思えなかった。選択肢の問題として、そもそも可能性が存在しているかいないかというのはまったく意味が異なると思うよ。」とShengは言っていた。

また彼は自分自身がいわゆるアート市場に直結しやすいタイプの作品を制作する作家(写真家の体で言えば、例えばコマーシャルギャラリーに所属し、定期的にプリントを販売するなどの形態)ではないため、より作品を作ることそのもので生計を立てるというのは自分に難しい話だと思っていたとも話してくれた。

同世代のShengと話していて強く感じたのは自分の知らない世界に、もっともっとたくさん今の自分にとっての選択肢になり得る環境があるかもしれないということ。そしてそれは自分で意識的に考えていかないと気付きさえせず、過ぎ去ってしまうということ。

目的に対しての選択肢は、本来その人自身や状況によって変容するもので、業界や職業、年齢のような条件だけで(無論それらが要因として大きく働く場合もあるけれど)明確に規定され得るものではないということを改めて気づかせてもらった気がする。そういう意味で昨年の自分はすごくそういう選択肢を丹念に探していく努力を怠っていたなとも。

今年は改めて自分のやりたいこと、そのことの実現のために必要な環境、そのための選択肢の可能性について振り出しに戻って0から検討し直していくところから始めたい。

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