VUCA時代のための省察的実践のすすめ
投稿が久しぶりとなってしまいました。
先日、修士課程時代に指導教員としてお世話になった恩師の先生がオンライン研修会の講師をすると伺い参加しました。
今回はそれをもとに、表題の内容について研修会の内容も踏まえながらまとめてみました。
2019年度に自分が通った修士課程は1年コース、基本的にオンデマンド主体の授業構成に加えて週1回の対面ゼミ、半期に一度の集合型集中講義と研究発表会でした。
研究は課題研究という位置づけでしたが、しっかり論文作成まで実施してあっという間の1年間でした。
当時はオンライン・オンデマンド授業で単位を取ることには後ろめたい気持ちも有りましたが、自分のスケジュールで学びを進めていく自己決定性や計画性の大切さに気づく機会となりました。
また、学位を取り修了したとともにコロナ禍での緊急事態宣言発令、数年間の外出制限を伴う日常生活となりましたので、この機会がなければ当時の急なオンライン形態の授業移行に対応はできなかったであろうし、今ほど教育・管理について考えることもなかったはずです。
そして何より恩師の先生の人柄、その奥にあるリハビリテーション専門職への教育観の奥深さにも触れることは出来なかったでしょう。
そんな恩師の研修会テーマは
「これからの不確実性の高い時代に求められる人財とは」
VUCA時代とは?
まずはじめに、
コロナ禍以降よく使われる様になってきた「VUCA時代」とは何か?
VUCA時代とは以下の用語の頭文字から成り立っています。
Volatility:変動性 予測が困難なほど変動が激しい状態
Uncertainty:不確実性 不確実な事柄が多く、環境がどう変化するかがわからない状態
Complexity:複雑性 複数の要素・要因が複雑に絡み合い、解決策を導き出すのが困難な状態
Ambiguity:曖昧性 絶対的な解決策が見つからない、曖昧な状態
現代社会はこのような先の読めない時代と言われるようになっており、この状況に必要な「力」はただ重要・膨大な知識を持っているだけでは不十分となります。
VUCA時代に求められる能力
求められる能力は知識を持っているだけでなく、正しく見極め・状況に応じて活用できる能力、つまり以下の能力となります。
状況を偏りなく見極め、分析できる力
冷静に自分を振り返る力
1.状況を偏りなく見極め、分析できる力
状況を偏りなく見極め、分析するためにはそれに必要な情報を拾い集めることが大事になります。
そして情報の多くは自分自身の経験に基づき、その人の価値観で変化する。つまり多様な経験を積んでいる人ほど自分が無意識に作り上げた価値観に囚われすぎる傾向に陥りやすく、より客観的・批判的に物事を見ることが大切になります。先生曰く「思いは重い」ということです。
そのためには自分一人で考えすぎず、集団・組織に関わる様々な人と対話をする、そして様々な価値観に触れる。
そして個人では自分自身に対して客観的・批判的に振り返りを行う。
つまり、省察(リフレクション)能力の涵養が必要ということです。
省察的実践家と熟達的実践者
ここで2つの実践者について整理してきましょう。
技術的熟達者:専門的知識・科学的技術を合理的に適応する人
省察的実践者:自らの実践が抱える問題の本質や、それを捉える信念を省察しながら、実践の改善を図ろうとする人
つまり、現場で理論を最適化して実行する実践者と、研究などで理論を構築する実践者、どちらが上とか下とかは有りません。そして、理論構築とその理論が実践場面で活用されるまでには時差が生じてしまいます。
信奉理論(これで上手くいくという信念・理論)
実践理論(対象者に合わせた実践)
この両者のすりあわせには時間が必要であり、それぞれの実践者はずれを確認する必要性があります。そしてそれにはお互いの学びを深める事が重要となります。
2.冷静に自分を振り返る力(リフレクション能力の涵養)
そして、次に出てくる能力が、冷静に自分を振り返る力です。
そこで省察(リフレクション)の3つの側面について整理しておきます。
省察的実践者の側面:自らの実践を省察
成人学習者の側面:自己決定性や経験の尊重を省察
学習支援者の側面:対象者の学習支援を省察
省察的実践者の側面:省察(リフレクション)の理論体系
代表的なリフレクションの理論として、以下のものが挙げられます。
ドナルド・ショーン:省察的実践家 行為についてのリフレクション ⇒ 行為の中のリフレクション
コルブ:経験学習理論 経験 ⇒ 省察 ⇒ 教訓の一般的抽象化 ⇒ 新たなアクションプラン
コルト・ハーヘン:ALACTモデル(教師における省察的実践)
熊平美香:著書「リフレクション」
この著書では以下のことが述べられています。
認知の4点セット:判断や意見を「意見」「経験」「感情」「価値観」へ分ける、そして価値判断を保留する
クリティカルテンション(内発的動機・大切な価値観)に基づくリフレクション
リフレクションのレベル(段階づけ)
*レベルが高いほど、経験からの学びに繋がりますが、いかの4つに大別できます。
① 出来事・結果
② 他者・環境
③ 自分の行動
④ 自分の内面(意見・経験・感情・価値観)
成人学習者の側面:成人学習者への道筋(学習のとらえ方)
子どもの学び ⇒ 形成(forming)
おとなの学び ⇒ 変容(transforming)
意識変容の学習について、
パトリシア・A・クラントン(1999)は以下のプロセスがあると言っています。
自己を批判的に振り返ろうとするプロセス
世界観の基礎をなす前提や価値観を問い直すプロセス
つまり、大人の学びには、これまでの経験や価値観が邪魔をする可能性も否めない(思いは重い)ことになります。
学習支援者の側面①:認知的徒弟制の6ステップ
教育学を巡る議論は科学性の担保が難しいと言われており、それを解決するためには技術的熟達者・省察的実践者の両面から関わるべきと先生は仰っていました。
そして、教師の役割が
教える ⇒ 引き出す・学習支援 ⇒ 学習内容を問い直す・繋げる
と少しずつ変遷してきているようです。
その中で教師の役割の中でも以下の認知的徒弟制の6ステップが見直されてきています。
モデリング:熟達者が模範を示し、学習者がそれを観察・模倣する
コーチング:指導者にヒント・フィードバックを受けながら課題を遂行する
足場づくり:レベルに応じた手がかりや支援を受けながら課題遂行する(指導者は上達に合わせて手がかりなどを減らしていく)
明確化:学習者自身で計画・予測・思考過程などを言語化・文章化して実行する
リフレクション:学習者自身で自らの課題遂行について省察し、改善策を図る
探求:学習者自身が独り立ちして課題遂行能力や応用力が育成される
学習支援者の側面②:自己調整学習の観点から
学習支援の2つ目の視点として、学習者の状態に合わせて「どのように」関わるのか、つまり自己調整の発達の水準・学習のレディネスにあわせた関わりが重要になります。
Schunk & Zimmerman (2019)は自己調整の発達を以下の4段階に分けています。
観察:外的(社会的)資源 対象者の観察と基本的な認知的理解
模倣:外的(社会的)資源 直接指導、フィードバックや励ましによるスキルの洗練
自己コントロール:内的(自己的)資源 対象者自身による実践とスキルの内在化
自己調整状態:内的(自己的)資源 変容する自己の動機づけに応じたスキルや方略の調整
最後に(まとめ)
最後に、まとめとして先生は以下のように述べていました。
VUCA時代に求められる人財とは、戦局を見極め、成果を上げることができる人
そして、牽引する人財に必要な力として以下の要素を列挙していました。
ビジョン・方向性を示す
コミュニケーション
業務遂行
動機づけ・モチベーション管理
部下の指導・育成
変化に対応する柔軟性
責任感
心理的安全性:リーダーが弱みをさらしても非難や低評価をされない
頼れる参謀の存在
一方で、仕事や職場で大きく成長するためには、大きな仕事や修羅場の経験から何とかやりきることが一番効果的だとも述べられていました。
そして最後に、これからの担い手に伝えることが次の通り
時代の舵を次へつないでいく(バトンを次の時代へ)
センスメイキング理論(要は腹落ち、それは自分も、そして部下・学生も)
最後の話を聞きながら、恩師の先生が大学院時代に指導教員として当たっていた先生は、自分の学部生時代に学科長として大変お世話になった先生だ…。
どちらの先生も偉ぶらず、朗らかで、いつも笑顔で接してくれた。
そんな思いを次の世代へ伝えていく、自分もそんな存在として育成・指導に当たっていくように…。そんな思いを抱かされました。
ここまでご一読いただき誠にありがとうございました。
今後も時間のあるときに少しずつまとめていきますので、よろしくお願いします!
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