橋本治 ところで、ここで一つの疑問です。
ところで、ここで一つの疑問です。「生産の拠点」をよその国に移されて、「働く」ということが成り立たなくなってしまった先進国の人間達は、一体「なに」で収入を得て、「消費生活を続ける」ということが可能になるのでしょう?こわいから、これは考えません。
もうひとつ、疑問があります。「人件費の安さ」を軸にして「生産の拠点」が地球をあちこちするのなら、それによって生まれる「豊かさ」だって世界を一周してもいいのですが、それは、起こるのでしょうか?早い話、「中国が豊かになれば日本は必ず豊かになる」というようなことは、起こるのでしょうか?「景気や雇用が拡大すれば、必ずみんなは救われる」であるのなら、そういうことになってもいいはずですが、でも、エコノミスト系の人は、あまりそんなことをいいません。果たして、「中国が豊かになれば、その必然として日本は必ず豊かになる」は起こるのでしょうか?
私は起こらないと思います。どうしてかと言うと、事は「人件費の切り下げによって景気を維持する」になっているからで、そこで維持された「景気の規模」は小さくて、「当事者の外」に回ってくる分が少なくなるからです。考えてみれば当然の話で、「機械化によって広く潤う」その、その潤った利益の分が、“どこかに消えてしまう”のです。これもまた当たり前の話で、機械に一杯働かせる分だけ、人間はそんなに働かなくなっているのです。よく働いている「機械」にだって、「取り分」を上げなければなりません。「機械」は人間ではないので、その「取り分」は「機械を設置した人」がもらいます。「機械を設置した人」とは、工場の経営者とか、そこに投資をしている人達です。そうやって「景気を成り立たせている人達」が、世界中のみんなのために金をばらまいてくれるのを、我々は「いつか来るぞ」と思って待っているわけです。「景気が成り立たせている人達」が、「世界中のみんなのことを考えてくれるいい人」だったらいいのですが、私は、そういう人たちの胸のうちまで知りません。
不思議です。「景気が成り立たせている人達」が、「世界中のみんなのことを考えてくれるいい人」ばかりだったら、「景気の進行とともに、地球はぶっ壊れる方向に進む」などということを考える必要はないのです。「世界中のみんなのことを考えてくれるいい人」は、どうして「自分のしていることは、〝地球がぶっ壊れる〟につながることかもしれない」という考え方をしてくれないのでしょうか?また、「きっと景気を成り立たせてくれる人が、その内こっちに金をばらまきに来てくれるぞ」と信じている、サンタクロースの存在を信じるような無垢な人たちは、どうして「そういう待ち方をしていると地球はぶっ壊れるかもしれない」という考え方をしないのでしょうか?私は楽天的なので、「そういう考え方をしない人達」のことを、「きっとまだそういう重大なことを知らないんだ」と思うだけです。
橋本治 「日本の行く道」
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