レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」 開店したばかりのバー

「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。店の中の空気もまだ涼しくきれいで、すべてが輝いている。バーテンダーは鏡の前に立ち、最後の身繕いをしている。ネクタイが曲がっていないか、髪に乱れがないか。バーの背に並んでいる清潔酒瓶や、まぶしく光るグラスや、そこにある心づもりのようなものが僕は好きだ。バーテンダーがその日の最初のカクテルを作り、まっさらなコースターに載せる。隣に小さく折り畳んだナプキンを添える。その一杯をゆっくり味わうのが好きだ。しんとしたバーで、味わう最初の静かなカクテル・・・・・・何ものにも代えがたい」

レイモンド・チャンドラー 「ロング・グッドバイ」(村上春樹訳)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?