#13 いちばんのハードルは、インナーとアウターを結びつけるところにある。
ブランディングを進める時に、インナーとアウターに分けて考えるのは、まあフツウですよね。インナーは社内向けの作業で、理念体系の整理や浸透、業務への落とし込みなどがメインになり、アウターは社外向けの作業で、業務に落とし込まれた自分たちのあり方のアピールなどがメインになります。つまりやることがぜんぜん違うので、分けて考えるわけです。でも、だからといってインナーは経営企画室で、アウターは広報宣伝部みたいな縦割りで担当部署を変え、結論だけ共有するというのは分け過ぎです。さらには外注で、インナーはブランディング会社へ、アウターは広告代理店へと振り分けて、顔合わせもしないなんてことになると、もう何が何やらです。このインナーとアウターは最初は分けて考えたとしても、最終的にはひとつの流れにすべきで、常に連携させ続けるのが望ましいからです。
そもそもブランディングは、自分たちのことを「知ってもらい、ファンになってもらい、広げてもらう」ためにやることなので、インナーで理念体系を浸透させる際にもただ考え方を説明するのではなく、アウトプットを前提とした伝え方にする必要がありますし、それにはお客様との接点となるさまざまな現場のことを把握していることが不可欠です。一方でアウターを担当する方々がいくら現場に詳しくても、会社の理念体系と事業の関わり、今後の方向性などへの理解が薄ければ、何を伝えるべきかの把握がちゃんとは出来ずに、ただその場に合わせていろんな表現をすることになり、お客様のブランド全体に対する印象にバラツキが出てしまいます。
そしてまた起こりがちなのが、アウターの領域はロゴやデザインの管理とか、商品プロモーションとかでいつもやっていると思い込み、自分たちに必要なのはインナーだけと判断することです。そしてインナーにしても、とりあえず理念体系を整理して、ウェブページの該当箇所を改訂して、ブランドブックを作ってオシマイ、みたいなことも起こっています。そこでは社員への浸透、さまざまな業務への落とし込み、そしてお客様とのあらゆる接点で自分たちのことを知ってもらう作業(←ここがアウター)といった重要なことがなおざりになっていて、それで「ブランディングはやったけど効果は出ない。」みたいな評価になったりしています。もう少し、ブランディングの全体像を把握して、繋がりを持たせて進めないとダメなんですけどね。
それで、インナーとアウターのあるべき関係を図にすると、下のような感じです。「#1 ブランディング雑記帳、始めます。」でのブランディングの範囲を説明する図に、インナーとアウターの観点を入れ、「#11 商品やブランドをアピールする前に、やってほしいこと。」で紹介した訴求ポイントとの関係を加えたものですけどね。
そして、ブランディングはこれだけの広い範囲でインナーとアウターの境目のない流れをつくらないと、良い結果には結びつかないものだと思います。でも、それがけっこう難しいんですよね。
例えば社内の体制づくりから始めるとして、誰かが「ブランディングをやるぞ」と声をかけても、現状ではきっとみんなが違うイメージを持ちます。それらをすり合わせるには、社内で影響力と説得力を発揮できる人が、こういったブランディングの全体像を把握してリーダーシップを発揮することが重要になります。ときどき社長や周りの数人だけでブランディングをやろうとする会社がありますが、それもアウターのことを考えるとあまりおすすめできません。だって、ブランディングを日頃の業務にまできちんと落とし込むのは社員全員がやることですからね。そこはトップダウンとかちょっとした浸透施策だけではとても追いつかないので、最初からさまざまな部署から将来の要となるような人材を選び、全社的な取り組みと理解してもらいながら進めた方が良いと思います。
そして、「#2 はじめ方でつまづきがちな、ブランディング。」でも触れましたが、ほとんどの会社にはブランディングの全体像を俯瞰して考え、実際の活動まで考えられる人材はいないと思われます。そこで登場するのが、これらのブランディングをサポートしてくれる会社や人です。しかし候補となる会社は、インナー寄りだったりアウター寄りすぎているかもしれません。ですのでここでも全体を把握しておかないと、間違った相手を選ぶことになります。また、ブランディングは会社の根幹なので自社内で済まそうと考えるフシもありますが、それもおすすめできません。ブランディングは社内の上下関係に左右されないことと、お客様の視点をより客観的に見る視点が必要だからで、そのプロジェクトにはインナーとアウターの両方が理解できる外部のプロを加えるべきです。
と、いろいろやるべきことばかり並べてはいますが、今のところこのインナーとアウターを結びつけるブランディングを意識している会社は、ほとんど無いでしょう。ブランディングの考え方は歴史も浅く、根本が実践的というよりも理念的に見えるため、多くの人々にとってはビジネス上の効果が見えにくいのかもしれません。前例が無いことも、ネックになるようです(ライバルが成功してからでは遅い部分もあるんですけどね)。その上さらにインナーとアウターの連携となると、社内的なハードルがますます高くなる気もします。また「インナーとアウターの両方が理解できるプロ」も、少なすぎるのが現実です。
しかし、これからの社会はますます急激に変化し、そこで役に立つ会社になるには、これまで書いてきたようなブランディングへの思い切った取り組み&アップデートが欠かせないと、僕は考えています。例えば、ビジネスの現場では最近はDX(デジタル・トランスフォーメーション)が大きな話題となっていますが、そのくらい大きな取り組み&アップデートが、ブランディングにも必要な時代だと思います。
ブランディングについて、理念の整理の仕方や、インナーからアウターまでの流れを説明する本を出しました。
ぜひお読みください(写真をクリック!)。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?