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#10 タレントがビールを飲んで「オイシー」っていうCMのこと

ちょっと気になって、ビール系各社のホームページ(2021年5月時点)で、CM紹介からそれぞれのブランドの出演タレントの人数を数えてみました。ざっとなので数え間違いがあるかも知れませんけど、結果を発表するとキリン=29人、アサヒ=10人、サントリー=3人、サッポロ=2人でした。すごいですよね。これだけの人々が、ビール、発泡酒、第3のビールをウマそうに飲んで、「オイシー」って演技合戦しています(その演技は全員じゃないけど)。多いと思って調べたんですが、さすがにこの数にはビックリだ。いったい俺は何を見せられてるんだろう、というところからいろいろ考え始めました。

まず、このカテゴリーでは、ライバルに決定的な差をつける商品を出すのが恐ろしく難しいことは想像できます。基本的に、いわゆるコモディティ化しているわけです。コモディティ化とは、Wikipediaから一部抜粋して引用すると「消費者にとってはどこのメーカーの品を購入しても大差のない状態」ですね。通常はコモディティ化が進むと価格競争になって企業の利益率を下げることになりますが、ビール関係では価格競争が出来ない状態です。でも、確実に売れるのでやめられない。

その状況で自分のところの商品を選んで買ってもらうには、少しでも魅力的と思ってもらえる新商品を出して、他社の定番を食ってもらいたい。いやそれはどこだって同じように考えるので、結局は勝ち負けトントンか。でも他社がこの戦略で攻めてくる以上、やらなければウチがやられる。消費者は新しもの好きだし、やっぱりやるしかない。さて、どうやる? ここはやはり見た人が「いい感じだなー」「飲みたいなー」て具合に、感覚を刺激するのが良いんじゃないか? みたいなことですかね。違うかな? たぶん、かくして50人近くのタレント(ざっくりね)が「オイシー」ってやって、普通に売れて、効率が悪かろうが生産システムを稼働できて、利益率はともかく儲けられる仕組みが続いているんだろうと思いました。

じゃあ、各社はコモディティ化から抜け出すために、価格以外の方策としての差別化を諦めているのか? と思って今年の動きを見ていると、「家庭用生ビールサーバーのサブスクリプション」が、キリンとアサヒから出ています。完全に新しいわけではなく、かなり前にもやって上手くはいかなかったんだけと、また挑戦していますね。なんとか苦しいループから抜け出そうという意志の現れかとも思います。クラフトビールへのアプローチは、大手の4社とも続けています。大手が取り組んだ時点でもはや、という見方もありますが、まだコモディティ化していないのかもしれません。で、つまり彼らはカンタンに諦めたりしない。以前もキリンビールは、ダイエット系のビールが売れなかった20年を乗り越えていますからね。売れるまで試行錯誤を繰り返してモノにする辛抱強さがあるんだと思います。その諦めなさには感心しますが、どうもそれは、ものづくりの現場だけかも。でも、こういった商品による差別化は、芽があると思われればすぐに他社の追随を受けて、またコモディティ化に至るわけです。たぶん技術力に、少なくとも消費者にもハッキリわかるほどの差はないですからね。

では、商品以外の要素での差別化の可能性はどうでしょう。「#8 人はどこで、ブランドにビビッと来るのか?」でご紹介したお客様との7つの接点を商品以外について洗い直してみると、価格、流通は、もはや努力がし尽くされているので無理ですかね。購入やアフターサービスのプロセス、人材については、もしかしたら可能性があるかもしれません。サブスクリプションなど、もう取り組んでいる面もありますしね。それで、現状で差別化の方向には行っていないように見えるのがプロモーションです。えーと、さっきから差別化差別化と繰り返していますが、表層的な意味ではないので、そう思って読んでくださいね。

その差別化の観点から見て、プロモーションはやり尽くしたことになってるんでしょうか? デジタル系は頑張っているかもしれませんが、ここではテレビをつけていれば流れてくるCMの話に絞ります。で、なんか、諦めが早くないですか? もっと頑張っても良いんじゃないですかね。だってほとんどのCMは、タレントが「オイシー」なんだもん。飽きましたよ。ビジネスなのに、ライバルから一歩抜きん出ようという意思が感じられず、そのCM単発での好感度競争になっている。例えば、コモディティ化手前にいるはずのキリンのクラフトビールのCMでさえ、一生懸命語っているけど伝わらない前提のナレーションになってるし、そもそもタレントに言わせた上に最後は「オイシー」ですからね。開発者はこれで良かったんかな。違うものを作ろうと頑張って、プロモーションで同質化していくというね。お客様を広げるにはコレって感じでね。そこが諦めが早いと感じるところです。で、この「タレントのオイシー」合戦は、手堅く結果が望める手法でということなのかな。

それでどうなるかというと、見ている方は別にブランドのファンにはならないから、ブランドスイッチはカンタンに起こるでしょうね。それを防ぐために企業側は毎年忘れられないように同じことを繰り返し、すごい金額を注ぐことになります。いちばんの頼りはタレントパワーですよね、ブランドパワーじゃなくて。

と、勝手にいろいろ書いてきましたが、僕としてはブランディングとしてあらゆる接点での差別化を諦めてはいけないってことと、特に気になるプロモーションでの差別化にさらに取り組んで欲しいわけです。ひとつの方向としては、差別化につながる広告での訴求ポイントの洗い出しを、もっと突き詰めたほうが良い気がします。あと、売れるにはタレント、飲む気にさせるには「オイシー」、っていう呪縛に向き合って、ターゲット設定や表現もブランドパワーを上げるように頑張って欲しい。前者の、訴求ポイントの洗い出しの具体的な方法については、次回、書くことにします。

ちなみに、僕のお気に入りの「オイシー」は、高橋一生さんのヤツ。あれ?ビールじゃなくて「氷結」だっけ。

ブランディングについて、インナーからアウターまでの流れを説明する本を出しました。
ぜひお読みください。

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