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半沢直樹がなぜ面白いのか。

やはり想っていたとおりだった。
香川照之の父との確執を超えて

7年前の前作から比べると役者の数も、演技の大仰さも半端なかった半沢直樹。

観はじめた当初は、市川猿之助のヤクザまがいのトークにあれはありえんだろと想うギリギリのところだった。

だが、観ているうちに、そのギリギリのトークが逆に、いやあり得るなと想えた。

……というのも振り返ってみれば、そのヤクザまがいのもの言い(貴様! なぐったろか!)はあったからだ(実際に殴られたことはない)。

だからそのギリギリのトーク、スレスレの演技は歌舞伎として観て、それを現代劇に移し替え、現実のできごととして観て行けば、十分にあり得るのだ。


相撲で言えば、土俵際ギリギリのところで、脚本の面白さと俳優たちの演技のたくみさに引き込まれたと言えよう。


なかでも歌舞伎役者のドラマでの演技はまたユニークな面白さがあった。そのなかにおいて、なぜ、半沢直樹が面白いのか、なぜ引き込まれていくのか、ずっと考えていた。

それは、そのセリフの中に、ひとつの真実が隠れているからだとわかった。


たとえば、三代目市川猿之助の子どもとして生まれた香川照之は、生後1年数か月で自分を捨てた父の元を訪ねた。幼い頃、母の浜木綿子を捨て、以前同居していた師匠の奥さん、16歳年上の藤間紫への想いを断ち切れず、離不倫。離婚した後結婚した父への元へと向かったのだ。(二代目市川猿之助

12歳のときに師匠の元に居て、その奥さんのことを好きになった二代目市川猿之助。大人になり、結婚。香川照之が生まれたわけだが、その妻子を捨て、駆け落ちをしたわけだ。

大人になりその父の元へ行くという心境はどういうものだったろう……。ところが完全に無視されてしまう……(香川照之)。

しかしその父に藤間紫の計らいで歌舞伎への道を認められ、また従妹の四代目猿之助と今回共演したのも父との確執を乗り越えたからこそ。


当時は遅いデビューで歌舞伎への経験不足が疑われたが、いまでは見事に歌舞伎をメジャーなものへとする架け橋の役目を担っている。


ドラマの最終回では上戸彩の夫、半沢直樹へのねぎらいのことばが響いた。帝国航空再建への道を絶たれ、退路を命ぜられた半沢に「生きていれば何とかなる」と言ったのだ。

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花が「何かあった? また出向的な?」と尋ねると、「出向どころじゃ済まないかもしれない。ごめん」と謝る。

すると花は「そっか。だったらいっそのこと辞めちゃえば?  銀行員だけが仕事じゃない。そりゃ再就職なんて簡単にはできないかもしれないけど、その間、私が稼ぐから。どう?」とまさかの提案。半沢は「え!?」と驚きつつ、「花ちゃん」と感動した表情を見せる。

さらに、花は「もう頑張らなくていいよ。直樹は今まで十分すぎるくらい頑張った」などと言葉をかけ、ハグをしながら「直樹、今までよく頑張ったね。ありがとう。お疲れ様」とねぎらう。

そして、「っていう気持ちでいれば、とりあえず少しは気が楽になるでしょ? 仕事なんかなくなったって生きていれば何とかなる」と伝えると、半沢は「ああ」としっかりとその言葉を受け止めた。(記事元:マイナビニュース

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このやりとりを昭和世代、あり得ない理想の奥さんの姿、と揶揄する向きもあるが、私はそう想わない。

なぜなら半沢は奥さんのことを花ちゃんと呼び、花は直樹と呼ぶし、花は専業主婦で旦那さんの言いなりではなく、好きな花屋で働き、仕事を持っているからだ。(上司の奥さんの集まりに出かけるのは昔の昭和っぽいが、自治会やPTAやママ友の集まりなどではいまでもそういうしきたりが残る。)


ここで花のことばに響くものがあるのは、いつもはケンカやバカ話をしていても、パートナーというのはいざというとき「最大の味方・応援者だ」ということだ。


病気をしたり、失業をしたり、経営する会社が倒産したとき、会社で追い込まれたとき、いつも身近にいる奥さんや、子ども、パートナーや家族の存在は最後のとりで、支えになるからだ。


花のことばを聴いていて、涙がこぼれ落ちた。


私も上司のパワハラにつぶされそうになったときのことを思い出したからだ。

もうダメだ、やっていけない。辞めることになるかもしれない」と嘆いたときに、3歳になる娘と妻がベッドにいてボソっと言った。


「パパ、だいじょうぶだよ。月1万円生活っていうのをテレビでやっているから。いざと言うときはアタシそれでやっていけるから」


続けて妻のれいこが言った。


「どうしてもムリならしかたないじゃない。大した稼ぎはないかもしれないけど私も働けば足しにはなるわよ。三人でがんばればいいよ」


そう言われ抑えていた気持ちのタガがはずれ、涙があふれ出したのだ。


あのとき、最大の味方がそばにいてくれたから、救われた。朝、地面を観ながら会社へと向かっていくのもなんとか踏ん張れた。


何クソ! 負けるものか! という想いと、もういいや、がんばらなくても、という想いのはざまで息をすることができた。


だからいまの仕事にも当時のことが生きているのです。


半沢直樹は原作者の池井戸潤が言うサラリーマンエンターメント小説です。ですがそこで作られた脚本にはいろいろな人の想いが乗っているのです。


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(追伸)当時の想いをベースに書き連ねて行ったのが小説「エレナ婦人の教え」です。

この小説は、もうダメだと諦めかけていたときに出逢ったおばあさんとのやりとりを元に書いています。


嫁姑問題で苦労したおばあさんは、私の気持ちを代弁してくれました。そのおかげで私は救われました。


実際に起きたことを思い出させてくれるドラマ半沢直樹。一見脚色が強過ぎているようでも真実よりも真実味のある語りがあるからこそこのドラマに魅入られてしまうのですね。


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