今年上半期に読んだノンフィクション本、3選


「コンテナ物語 世界を変えたのは『箱』の発明だった」(マルク・レビンソン)

この本は、去年の暮れに雑誌「ウェッジ」で物流の2024年問題が特集されていて、その時に知って読んでみようと買ってみた本である。
くだけたタイトルに対して、わりとまじめな内容で、しかもけっこうなボリュームだった。物流、とくに海の物流というものに関して理解が深まる内容。
 人物伝のようなところがあり、とりわけ「マルコム・マクレーン」という元トラック運送業者にスポットを当てている。彼はそれまで見向きもされなかったコンテナに目を付け、これを海上輸送に活用することで成功した。
 コンテナリゼーションが進む前はどうしていたかというと、“沖仲士”という職業があり、荷物を仕分けしたり積み下ろしをしたり、といったことを毎回やっていたようである。

「技術革新はほぼ不可避的に一部の人の生活水準を押し上げ、他の人の生活水準を押し下げる」という経済史家ジョエル・モキルの指摘は、他の技術と同じくコンテナに関しても当たっている。ただし国際規模で考える限りにおいて、である。コンテナリゼーションが地理的な不利を作り出すわけではないが、地理的条件をかつてなく重大な問題にしたとは言えるだろう。
 前掲書

『なぜデジタル社会は「持続不可能」なのか』(ギヨーム・ピトロン)

われわれを取り巻く生活は、ますますテクノロジーに依存するようになっている。しかし、そんなテクノロジーが地球環境に与える影響の大きさについて考察したのが本書。
 著者は文字どおりに全世界を駆け回り、いろいろな取材を試みているのだが、正直テクノロジー批判本としては少々もの足りなさを覚えた。

“「社会がデジタル化されたこの数十年間は、環境負荷が最も増加した数十年間だ」と、「デジタル化と環境白書」の研究者たちが強調する事実だ。”

“インターネットを常時機能させるための電力の由来、それはセンシティブなテーマだ。世界の電力生産の主な資源は石炭だ。…
アマゾン・ウェブサービスは使用する電力の30%が石炭由来だ。オンライン動画配信サービスのネットフリックスも同様。”

“気候温暖化とたたかうためには、フロン類の使用を制限する必要がある。ところが、建物や自動車の冷房だけでなく、5Gやアルゴリズムやデータ保存のために使用は急増している。
 フロン類は合成物であるため自然界で分解されることはなく、長く大気中にとどまる。…環境負荷をなくすための切り札ともてはやされるデジタル社会様式は、地球を最も温暖化し、最も変質しない性質を持つ物質を大量に使うのだ。”

 前掲書


「半導体戦争 世界最重要テクノロジーをめぐる国家間の攻防」(クリス・ミラー)

著者によれば、半導体は現代において、石油をも上回るほどの最重要資源であるという。そんな半導体の発展の歴史、そのために寄与した人物、組織や企業、国家について、洋の東西をとわず取り上げ、深掘りしたのが本書である。
 技術的で詳細なところはちんぷんかんぷんで分からないわけだが、それでも十分内容は理解できます。印象としては、「テキサス・インストルメンツ」という会社とその関係者が与えた影響力が大きいようである。
 日本企業のことについても、かなりの紙数を費やして書かれており、日本人として興味深く読みすすめた。現代において、半導体の設計と製作は特定の地域の企業(台湾のTSMC)にますます依存する状況が続いており、台湾有事も懸念されるなか、このことが全世界にとって大きなリスクとなっている。

全編をとおして、技術者やテクノロジーを讃えるような著者の熱意を感じさせる。一方で、どこかテクノロジーに疑問を持っており、できれば距離をおきたいと願う私としては違和感もおぼえました。

“半導体の製造と微細化は、現代のモノづくりにおける最高の難題といっていい。現在、台湾積体電路製造(TSMC)を超える精度でチップを製造できる会社は、世界にひとつも存在しない。”

“グローブは、DRAMチップ販売というインテルのビジネスモデルはもう終わった、と悟った。DRAMの価格が値崩れ状態から持ち直したとしても、インテルが市場シェアを取り戻すことはないだろう。DRAM市場はすでに日本のメーカーによって「破壊」し尽くされていた。”

“日本の半導体メーカーが犯した最大のミスは、PCの隆盛を見逃したことだった。日本の大手半導体メーカーのなかで、インテルのマイクロプロセッサ事業への方向転換や、同社の支配するPCのエコシステムを再現できる企業はなかった。唯一、NECという日本企業だけがそれを試みたのだが、マイクロプロセッサ市場でわずかなシェアを獲得するにとどまった。”

 前掲書

この記事が参加している募集