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かつて、日本が嫌いだったわたし

20代前半の頃、とにかく日本がきらいで、日本から脱出したいと思っていた。とくに、窮屈な人間関係が嫌だった。
 たとえば、日本では少し年上の相手にも敬語で話さなければならない。アメリカなどの英語圏では、お互いにファーストネームで呼び合って気軽に話しているように見えるのに、日本人のコミュニケーションはまるでかたっ苦しく、息が詰まるようなものに思えたのだ。

自衛隊を除隊したあと、ほかの公務員を目指していたこともあったが、2012年のある日、わたしは単身渡仏して“フランス外人部隊(La legion etrangere)”に志願した。ちょうど今ごろの季節のことだった。
 べつにフランスが好きだったわけじゃない、しかし大学時代に第二外国語としてフランス語を履修しており、文法や単語の基礎は理解してるつもりだった。また、外人部隊で兵役をまっとうすれば、フランス市民権かあるいはフランスでの長期滞在資格が得られることは知っていた。
 しかし、部隊の選抜期間の間に風邪を引いてしまったこともあり、入隊するのはやめて日本に帰国することにした。自分自身、いろいろな苦悩や不安を抱えながらそれを押し切ってフランスに渡ったというのもあるし、親にもだいぶ心配をかけてしまったと思う。

とはいえ、外人部隊の募集選抜の事務所では、全世界からいろいろな国籍の男たちが集い、わたしも拙い英語で何人かと会話したことで、帰国してからも「海外に出たい」という思いをいっそう強く持つようになった。
 そこで、次に目指したのは“オーストラリアへの永住”だった。というのも、オーストラリアには独立技術移民とかいう制度があり、国内で不足する職種や資格の保有者には優先的に永住権を与える制度があったからである。その中に、看護師があることにわたしは目をつけた。
 帰国後、日本で看護学校に入学することになったわたしは、まず日本で正看護師の資格をとり、病院で経験を積み、それをたたき台にしてオーストラリアに移住しようと考えたのであった。
 そうして日本で看護師になったものの、結局オーストラリアに移住することはなかった。高い語学力が求められることもあるにはあったが、それ以上に、移民からお金をむしり取るようなオーストラリア政府のやり方に疑問を感じたからだ。

いま、わたしは30代後半のアラフォーだが、海外に移住しようとは考えていない。日本という国にはいろいろな問題があるし、日本の政治にはほとんどなにも期待できないが、この先も日本で暮らし続けたいと思っている。
 よくもわるくも日本が自分にとっての祖国だと思っているし、人口減少と社会保障の問題などもあるけれども、世界を見渡せばもっとひどい国々が確かに存在している。
 たとえば、戦争で明らかになったロシアという国のおぞましさと暴力性。タリバンに取って代わられたアフガニスタンの惨状。経済破綻して通貨が暴落したスリランカやベネズエラ。いつまでも貧困や武力紛争、汚職から抜け出せないアフリカ諸国、等々。
 世界にはそういった国々があるのにくらべたら、日本という国はそこまでダメなのかという疑問がわいてくるし、べつに見捨てなきゃならないような国であるとは思わないのだ。


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