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ICTを活用して業務のやり方を変えよう(2021年2月10日兵庫県電子自治体推進協議会-自治体ICT活用「見本市」 講演資料)

このnoteの位置付け

2021年2月10日にオンラインで開催された自治体ICT活用「見本市」 のイントロダクションの書き起こしです。「見本市」自体は、兵庫県庁と兵庫県下の自治体職員が、それぞれExcel Power Query/QGIS/Tableau/kintoneの事例を紹介しあうイベントで、合計約130名が参加登録をされました。

サマリー

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・正解"らしい"解を素早く試してみよう
・仕事の目的を明確にして、業務を俯瞰的に考えよう
・一人で悩まず、コミュニティに飛び込もう
・やりたいことや、やったことはオープンに発信しよう

はじめに

まずはじめに、今回のセミナーのタイトルにもあるICTについて一つ問いかけさせていただこうと思います。
なぜ私たちはICTを活用した方がよいのでしょうか?

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それを考えるために、現在自治体を取り巻く環境についておさらいしていこうと思います。言わずもがなではありますが、兵庫県下のほとんどの自治体の人口が減っていく傾向にあります。また、それに伴い公務員、特に正規職員の数は減少傾向です。

一方で、市民のニーズは多様化しています。地域コミュニティや家族のあり方も多様化しており、異文化共生、共働き、一人親などがごくごく当たり前となっており、従来は例外的に考えられていたケースがごくごく一般的なものになっています。また、10-15年前にはなかったようなSNS対応という市民への発信やコミュニケーションチャネルも今や当たり前です。かといって紙での広報や通知が減っているかと言えば、必ずしもそうではありません。つまり、ニーズが多様化すれば基本的には仕事は増えます。

また市民のニーズが多様化するということは、同時に職員のニーズや生き方も多様化するということで、昭和から続く働き方や文化という常識・価値観が揺らいできているわけです。新型コロナがその揺らぎを加速させたように感じますね。

また、自然災害、特に風水害も統計的に有意に増加しており、これもまた災害対応や防災指令に基づく待機などを増やす要因と言えます。

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つまり、今自治体が置かれている状況を考えると、どう考えてもこれからもっと少ない資源、つまり人とお金で多くの仕事を回して行かなければなりません。
これはすなわち、業務改善をする必要があるという意味です。

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ここで業務改善のためのECRS、通称イクルスの原則をご紹介します。
ECRSは業務改善のために順番に検討すべき内容の頭文字を取っております。
まず真っ先に考えるべきは、Eliminate、つまりその仕事をやめることができないかということ。住民理解が得られる範囲で業務を完全にやめられるなら、それにこしたことはありません。逆に、やめてもいい業務を続けているのは、ある意味で税金を浪費している行為と言えます。

次に考えるのはCombine、つまり事務を集約したり、五月雨式の対応を一緒にできないか考えることです。その次Rearrange、つまり仕事を再配置できないかということ。例えば、アウトソーシングなどがそれに当たります。そして最後にSimplify、単純化できないかと考えます。例えばICTを使った自動化や効率化などがそれに当たります。ICTやデータの活用についてはCombineやRearrangeを行った後にも検討すべきですね。

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そして業務改善以外にも、ICTを活用すべき理由があります。それは厄介な問題と呼ばれる現象に対応するためです。

近年、空き家、引きこもり、地域コミュニティ運営、疫病対策など、行政単独で解決できず、そもそも構造的に解決が難しい問題も増えています。これらの厄介な問題には多くの利害関係者と一緒に問題に向き合い、これまでの慣習的な考えから創造的な考えを持って解決を目指す・または問題と付き合っていくという態度が必要となってきます。

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行政職員だけでなく、様々な利害関係者と一緒に問題に向き合うためには、意見や事実などの情報を効率よく扱うことが求められます。役所の同じ島で職員2人で仕事をするのと、職員以外に市民や事業者50人が関わるプロジェクトを動かすのでは目的や情報、事実関係を共有することの難しさが全く異なることがご想像いただけると思います。

こういった状況でFaxやメールでやりとりをしていると、やはり抜け漏れや伝達ミスが発生してしまいます。ICT、つまり情報通信技術、例えばZoom, Slack, Google Drive, AsanaなどのICTツールを効果的に活用することでプロジェクトを素早く円滑に進められる可能性が高まるのではないかと考えられます。

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先ほどお伝えした通り、行政リソースが限られている中で厄介な問題が増えてきた昨今、これまでのように市民が行政に要望・苦情を伝え、それを公共サービスの形で対応するという主客分離の形には限界が見えてきているように感じます。

その状況を打破するかもしれない一つのアプローチが、シビックテックと呼ばれる、スキルを持った市民自身が公共の問題を解決するという姿勢や取り組みです。これは公共モデルを行政への依存から共創に変革するというもので、市民、国、自治体、企業、大学NPOなどが協力し、テクノロジーやデータを活用して問題や課題に向き合うというものです。弊団体Code for Japanのスローガンである「ともに考え、ともにつくる」は、このような想いが込められています。

このセミナー自体が、様々な自治体の知見を持ち寄ることで開催される場ということで、セミナーのタイトルとさせていただきました。

ICTを活用して業務を変えていくために

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私自身が半導体の業界にいたということもあり、それに絡めてお話しさせていただくと、インターネットで人々が繋がり、その情報を処理する半導体、つまりCPUやGPUなどの処理速度が進化するにつれて、世の中の変化のスピードがどんどん増しているように感じられます。
半導体のことはよく分からなくても、変化のスピードが増しているように感じられるのは皆さんも同意いただけるのではないでしょうか?

ちなみにインスタグラムの日本語版が開始されてから、まだ6-7年しかたってないことを考えると、いかに変化が早いかお分かりいただけるのではないでしょうか?

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そのように変化のスピードが早い時代において、石橋を叩いて渡るように、正解を目指して間違いがないようにしっかり計画して実行までに何年もかけるよりも、正しいらしい解決策の方向性をさっさと試してみる方が結果的に効率がよいことが世の中では常識となっています。例えば、何年もかけて計画して、検証を始める前に、前提条件が変わってしまうといったことはしょっちゅう起こり得ますし、仮に試した内容がうまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく、大きな投資をする前に間違った可能性を消すことができたという学びの機会として捉えることができます。

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では自治体においてどうやって正しいらしい解をさっさと試すのかというと、本日紹介されるような比較的導入費用が少なく、必ずしも高度なスキルを必要とせずに使えるICTが選択肢として浮かんできます。本日紹介されるツールは、自分たちで状況の変化に応じて作り変えることを前提にしているものがほとんどで、それなりにわかっている職員がいれば変更のために時間とお金を使わなくて済むのが特徴です。いずれのツールもプログラミングスキルなどは必ずしも必要ではないので、マクロにアレルギーがある方もご安心を。もちろん、こういったツールだけを使いましょうと言っているわけではなく、その時々に応じて適切な選択肢を持つということが重要です。

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こういったツールのよい点としては、最初から完璧なものを導入できる必要がなく、自分たちで使いながら改善していくことができる点です。

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この図がそれを端的に表しています。
上の図も下の図も、人を運ぶための乗り物を作るためのプロセスを表していますが、上の図では実際に車が完成するまで、コンセプト自体に価値があるかどうかを試すことができません。単純に利用者に対して価値の提供が遅れるだけでなく、方針が変わってしまうと、今までにやったことがほぼ無駄になります。

一方、下の図は、人を運ぶという目的を達成するために、手早く最低限のモノをつくり、反復の中でそれを改善していくアプローチです。各フェーズにおいて利用者のフィードバックを聞きながら必要な機能を追加していくということで価値の提供を早められますし、仮に前提条件が変わったとしても既に実施した検証結果を次の取り組みに活かすことができます。

もちろん、基幹系システムなど、時間をかけて検討した方がよいものもありますが、今の時代は下のやり方の方がマッチするケースが多いように感じます。

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そして、実際に自分が今日紹介されるようなツールを触ってみた後、できたものを職場のメンバーに試してもらって、具体的に仕事のやり方が変わっていくイメージをみんなで共有することも重要です。

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というのも、業務のやり方を変える際に大きな障害となるのは、やはり上司や同僚への説得です。慣れ親しんだやり方を突然変えよう!と言ってすんなりついてきてくれる人ばかりではありません。

かつ、聞き慣れないカタカナ用語を連発されると、当然よくわからないから反対するといったことになりかねません。そんな時に、みなさんが試しに作ったものを一緒に体験する、できれば一緒に作ることができると、「お、ええやん」と思ってくださる可能性は高まります。

要は、百聞は一見、というか一体験に如かずということです。

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そして、こうやってある程度業務の課題や使えそうなツールのあたりをつけたら、それを実際に職場で使うために抜け漏れがないかをきちんと検討していきます。

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その際に、ICTの活用だけを考えていては案外うまくいかない場合があります。ICTツールを触っていると、ツールに恋をしてしまうことがあるんですね。

本日のイベントの幹事の方も、よくツールに恋をしてしまって深夜までパソコンに向かっているそうです。プライベートでツールに恋をすることは否定しませんが、職場ではそこは冷静に考えないといけません。

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そこで重要なのが、仕事の目的を明らかにして、全体を俯瞰的に考えるという態度です。詳細な定義は省きますが、世間一般ではサービスデザインなどと呼ばれることがあります。

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ここで一つの格言をご紹介します。有名な言葉なのでご存知の方も多いかもしれません。

レビット博士というマーケティングの巨匠が仰ったのは「人々が欲しいのは1/4インチのドリルではなく、それを使ってできる穴の方だ」ということです。これって現場を見渡すと同じようなことがありませんか?

穴が欲しい市民に対して、盲目的にドリルが買える場所を教えたりドリルを渡していることってありませんか?

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つまり、市民の方々の関心はICTの活用ではないんです。

市民はいかに上手に目的やニーズを達成してくれるか、ということに関心があることを忘れてはいけません。

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そう考えると、そもそもみなさんの仕事は誰のどんな問題を解決しているのか明らかにしないと、変な方向に進んでいってしまいかねないわけです。盲目的に走り出して、振り返ったら誰もいないという状況は避けなければいけません。

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加えて、俯瞰的に仕事の流れを見るということも非常に重要です。

よくありがちなのは、市民サービスの質をあげるためには職員が必死に働かないといけないという思い込みです。それを選択肢として排除しましょうと言っているわけではありませんが、長期的に市民サービスの質を高めていくためには、市民、そして職員や事業者さんなどの裏方、そしてうまく価値を届けるためのシステムやロボットなどを目的に沿って流れの中で上手にデザインすることがとても重要です。

極端に言えば、目的をきちんと定めている場合、行政職員ではなく、市民に問題を解決してもらう方が長い目で見れば多くの人が幸せになるといったことも考えられるわけです。

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とはいえ、全体の流れを俯瞰的に把握するためにはトレーニングが必要です。それは一般的にワークフローと呼ばれるものですが、なかなかとっつきにくいところもありますし、一人でやると視野が狭くなってしまうこともあります。

そういった状況を解消するためには、例えば兵庫県電子自治体推進協議会が開催した業務フロー改善ワークショップのような取り組みが考えられます。複数の自治体・県庁職員が同じ業務について考え、カードを使ってワイワイガヤガヤと俯瞰的に業務の見える化をしています。同じ業務のやり方を複数の立場で比べるということで、問題点と解決策の方向性を考える取り組みで、これは色々な人の視点で業務の流れを考えるという意味でとても効果的なものだと思いますし、これを同じ課の課長、係長、担当者でやっても面白いと思います。

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また、仕事のやり方を変えようとしたり、ICTを活用しようとすると、どうしても課内で理解を得られる場合ばかりではありません。こういった研修を受けて職場に帰って幻滅するという経験は一度や二度ではないと思います。

そんな時も、一人で悩んでいるのはよくありません。違う課の人、または違う自治体の人と繋がることで、一緒に悩み、学んでいくことで心の拠り所を作る。そのためには、自分がやろうとしていることや、やったことはなるべくオープンに発信していくのが大切です。

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学ぶ環境づくりという意味で事例を二つ紹介させていただきます。

一つ目は神戸市役所のKobe Tech Leadersという庁内コミュニティです。これは神戸市職員の有志が立ち上げた、ICTやデザインを学ぶための集まりで、庁内のグループチャットで意見交換したり、職員が講師となってkintoneやモダンExcel、Pythonと呼ばれるプログラミング言語などを学んでいます。内容によっては研修がオープンに公開されている場合もあるようです。ポイントは、業務時間内に堂々と活動できるという点です。

また、右の写真はACKプロジェクトという、芦屋市、神戸市、Code for Japanの連携協定に基づく定期的な意見交換会です。それぞれの原課の業務課題をみんなでブレストしたり、ICT人材育成について考えたり、もくもくとICTで業務改善をやってみる取り組みなどをしています。この写真は意見交換したのちに、みんなで河原でお弁当を食べているところですね。こんな感じでフラットにやっていて、たまに加古川市や兵庫県庁、豊岡市などからもゲストが入ってきます。

こういった場に飛び込んで、顔の見える関係を作っていくというのも大事な姿勢かと思います。

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また、オープンに発信するのはリスクだと考える方もおられるかもしれませんが、今やメリットの方が大きいように私は感じます。これは今回登壇される芦屋市の筒井さんが投稿したGovTechやDXに関するブログなのですが、それが人づてに東京都の宮坂副知事の目に留まって、拡散されたという事例です。単純に宮坂さんにコメントもらえたら嬉しいですよね。

オープンに発信するということは、受け手にとっては良いやり方を効率よく取り入れられたり、同じ失敗を繰り返さなくて済むという利点があります。また、発信する側も、お叱りよりはフィードバックが集まり、改善しやすくなります。また、同時によい情報や機会が集まることも多く、個人だけでなく組織としてもメリットが大きいです。そして、みんなに感謝されることもモチベーションになります。これはもう少し大きな文脈で言うと、社会的な知的資本の蓄積につながるとも言えます。

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最後にまとめとして今日ご紹介したキーワードをおさらいして私のセッションを終わりにさせていただこうと思います。

まず始めに、正解らしい解を素早く試していきましょうということ。これは世間では「アジャイル」といった言われ方をすることもあります。

そして2点目は、仕事の目的を明確にして、部分最適にならないように裏方も含めて全体を俯瞰して業務を設計するというサービスデザインの観点。

そして、何か変化を起こそうとするときには誰もが孤立しかねないこともありますので、一人で抱え込まずに相談できる相手を庁内外に作るというコミュニティ活動。

そして、自分が悩んでいることや、やったことはSNSなどでオープンに発信していくというオープンマインドです。

これらを大前提として、以後の事例紹介などをお聞きいただけると幸いです。以上で私のセッションを終わりにさせていただこうと思います。ありがとうございました。

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