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「風をつかまえた」少年

今日のおすすめの一冊は、池上彰氏の『なんのために学ぶのか』(SB新書)です。その中から、「学びとセレンディピティ」という題でブログを書きました。

本書の中に『「風をつかまえた」少年』という興味深い話がありました。

2010年、『風をつかまえた少年』(文藝春秋)という本に出合いました。これはアフリカ大陸南東部のマラウイという、アフリカの中でも最貧国に属する、 非常に貧しい国のある少年の物語です。 
マラウイは2001年に飢饉に見舞われ、14歳のウィリアム・カムクワンバ少年は、中等学校の学費を親が払えなくなって学校に行けなくなります。でも、勉強したいという気持ちは人一倍強く、近くの小学校の図書館に行って、そこにある本を読んで独学を始めました。 
もともと物が動くしくみに興味を持っていたウィリアム少年は、理科や物理の本を読みあさるようになり、ある日、「棚の奥に隠れて見えにくくなっていた......《エネルギーの利用》という題名のアメリカの教科書」を偶然目に留めます。この1冊の本との出合いが、少年の人生に決定的な影響を与えました。
彼はこの本や物理学の入門書で発電のしくみを学び、「こういうふうにすれば電気が起こせるんだ」と知るのです。少年の家には電気が来ておらず、周りには電気のない不便な暮らしをしている人が大勢いました。そこで風車で電気を起こそうと考えます。
ちゃんとした部品をそろえて風車を作ろうとしてもそんなお金はないので、彼は近くの廃品置場からガラクタを集めてきて、とうとう自力で風力発電装置を作ってしまいました。本のタイトルの「風をつかまえた」はここからきています。
この出来事が評判を呼んだのです。少年が作った風車を取材するため、マラウイの主立ったメディアの記者たちが大挙してやってきます。彼は「学校を中退した天才少年」として全国に紹介されました。さらに国の教育省からも認められて、彼は再び中等学校で学べるようになります。その後は南アフリカの高校を卒業してアメリカの名門校ダートマス大学に留学を果たしました。 
少年の「勉強したい」という思いが実ったのは、近くの小学校に図書館があったからです。 ここからわかるのは、きっかけさえあれば、たとえ貧しくても、お金がなくても、勉強することはできるということです。 
そういえば鈴木章先生も、最近は全国どこにでも図書館が作られていて、基礎的な勉強だったら図書館で本を借りて読めばいくらでもできる。しかもお金もかからないとおっしゃっていました。 
日本では、親の年収が子どもの学力に影響するとして教育格差が問題になっています。実際にそれを示すデータもあります。しかし貧しいから勉強ができないんだと言ってしまうと、これはちょっと違います。大事なのは、勉強したいという本人の気持ちと、貧しくても利用できるような教育環境やきっかけを大人がきちんと用意するこ とではないでしょうか。

経済的に学校へ通えないという子どもは、日本ではごく少数です。しかし、それがために(豊かになり過ぎてしまったため)、燃えるような意思を持って勉強したい、と望む子どもも少ないのも事実です。「勉強させられている」という主体性の欠如した考えになります。豊かになると、その豊かさに慣れてしまい、ありがたさを感じなくなってしまうからです。

これは、大人も同じで、「大人の学び直し」といわゆるリカレント教育でも、日本は世界各国に比べて著しく少ないのが現状です。25歳以上の「学士」過程への入学者の割合で、先進国の中で、日本は26位で、比率はなんと約3%しかいません。1位のスイスは29.7%、2位のイスラエルは28.7%、アイスランドは28.2%、デンマークは27.6%といった中での順位です。

大人も子どもも、ガツガツ勉強する人が驚くほど少ないのです。これでは世界の競争で負けてしまうのも無理ありません。特に「大人の学び直し」は現代のように変化の激しい時代には、アップデートしない人は必ず置いていかれます。

また、リカレント教育を受けられない人は、独学という方法があります。独学しているかどうかは大人の年間読書量でわかりますが、2019年10月の文化庁の調査では、月に一冊も本を読まないという人が47.3%だったことが分かりました。これまた、少ない数字です。

世界各国との遅れを取り戻すため、大人も子どもも、もっと危機感を持ってガツガツ勉強に取り組む姿勢が必要だと思うのです。

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