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キュレーターであれ

今日のおすすめの一冊は、フィリップ・コトラー氏の『コトラーのリテール4.0』(朝日新聞出版)です。その中から「中抜き現象」という題でブログを書きました。

本書の中に「キュレーターであれ」という興味深い記述があったのでシェアします。

リアル店舗にとっては、広いスペースの維持にかかるコスト負担が日増しに厳しくなり、次第にスペースを小さくしていかざるを得ないだろう。だとすれば、リアル店舗は、ショールーム同然のフォーマットへと進化していくことになり、コミットメント型の経験を通じてブランドを称える場所、一部の製品を展示する場所となるだろう。
あるいは、一種の“サービス・センター”となるケースもあるだろう。人々はそこで、企業が提案するさまざまな活動に参加する、技術的な問題を解決してもらう、オンライン購入した製品を受け取ったり返品したりする、製品のエキスパートである店員と交流する、等々が考えられる。納品時間の短縮のため、オンライン購入された製品を店舗から配送する物流拠点になるかもしれない。
小売業者はキュレーターとして、消費者と真に心情的なつながりを創り出せるよう、一貫性があり、消費者が関与しやすく、しかも視覚的に好まれる環境に、製品が提示されるよう配慮する必要がある。キュレーターになることで、物理的スペースの縮小・効率の悪さ・競合との差別化に関わる問題を一掃し、自社の優位を実現できる可能性がある。
現状の市場構造から課せられているリスク要因を、機会に変えられるのである。多くの都市部で、こうした現象が起きている。何かに特化したリアル店舗が輝くようになった。品ぞろえは相対的に少ないが、製品におけるパーソナライゼーションに応じたり、店舗に在庫していない製品を短時間で納品したりするなど、最先端のサービスと組み合わせている。
「キュレーターであれ」の法則に則ったこのようなスタイルの店舗は、増え続けていくだろう。それに伴い、今後数年間に、世界中の大都市で多くの商業地域の様相が変わることも予想できる。
今一度、強調しておくべきことがある。われわれは、キュレーターの提案に従って、一定数の製品を選別することだけを述べているのではない。製品とサービスが相互に強化し合うような組み合わせについて述べているのだ。ユニークなカクテルを創り出す組み合わせが、事業活動またはブランドにとっての価値提案へと結び付くのである。
このデジタル時代に、ニッチなオファリング・システムのキュレーターがいれば、つながっている消費者の欲求を効果的に解釈し、格別に興味深い事業機会を得られるようになる。ニッチに方向転換するからと言って、必ずしもユーザー群の縮小に甘んじるわけではない点にも着目してほしい。限定された範囲を対象にいていても、今の時代は大きな負担なく世界各地で同じことを行えるからだ。

「キュレーター」については、勝見明氏のこんな文章があります。

キュレーションは美術館や博物館で企画や展示を担当する専門職のキュレーターに由来します。例えば美術館のキュレーターは、既存の作品、資料の意味や価値を問い直し、コンテンツを選択して絞り込み、それらを結びつけて新しい意味や価値を生み出す。そんなキュレーターの仕事と同じ発想が、あらゆるビジネスにおいて求められているのです。
フリーの「無料」、シェアの「共有」にならって、キュレーションをひと言で表現するなら「編集」ないしは「新しい編集」とでもなるでしょう。例えば、アップルのタブレット・コンピュータ「iPad」は、アメリカでは「キュレーテッド・コンピューティング」と呼ばれます。多機能化や高機能化を積み重ねてきたパソコンと異なり、つくり手によってコンテンツや機能が選択され絞り込まれ、編集されたことで、逆に使いやすさという新しい体験の価値が提供されるコンピュータといった意味合いです。
ネット上でも氾濫(はんらん)する情報の中から一定のコンセプトにより選択し、編集して新しい価値を持った情報を発信する「情報のキュレーション」が盛んに行われています。キュレーションの成功例は街の中にもあります。百貨店は、「百貨」の名の通り、多彩な商品がそろっている業態で、主に高級品を扱います。その百貨店は業績が低迷し、業界の売り上げは今世紀に入り、この10年で約10兆円から約7兆円(2018年は約6兆円)にまで縮小しました。
一方、替わって人気上昇中なのが、ユナイテッドアローズ、ビームス、シップス、ベイクルーズといった、センスのよい洗練された商品を選び、絞り込んで提供するセレクトショップです。人気セレクトショップがテナントとして入る駅ビルのルミネは、この10年あまりで売上高が百貨店とは逆に約70パーセントも増えています。セレクトショップもキュレーションの典型で、欧米ではオーナーやスタッフは、キュレーターに例えられたりもします。この場合、キュレーションは「目利(めき)き」といった意味にもなるでしょう。
やはりテレビ番組で、テレビ朝日系列の『アメトーク!』というトーク番組があります。お笑芸人の雨が上がり決死隊がMCを務め、毎回、7~8人のお笑芸人ゲストが出演します。短命のお笑番組が多い中で、2003年4月にレギュラー化されてから、午後11時15分~午前0時15分という深夜枠ながら、平均10パーセント前後の視聴率を保ち、ときには15パーセント前後の高視聴率をたたきだす人気番組です。
漫才ブームが始まり、この10年間の間に覚えきれないほど多くの芸人が登場しました。それは芸人過剰時代を思わせるほどです。『アメトーク!』の持ち味は、その中から人気の高さや知名度といった既存の尺度ではなく、有名無名を問わず、毎回、ある共通性を持った芸人たちを集める“くくりトーク”のくくり方にあります。家電好きの「家電芸人」、住居が近い「五反田芸人」、通う店が同じだった「餃子の王将芸人」など、いわゆる楽屋ネタをテーマに設定することで、芸人の日常の中にお笑の価値を発掘するのです。これも、一種の芸人のキュレーションです。(石ころをダイヤに変える「キュレーション」の力/潮出版社)より

キュレーターという仕事は、美術館や博物館の専門家だけでなく、今では多くの職業に存在します。たとえば、店主がセレクトした厳選した本だけを陳列する本屋さんや、オーナーやカリスマ店員の選んだ洋服や、雑貨などのショップ。あるいは、本を自らの好みで選びそれをSNS等で紹介するブックキュレーター。

キュレーションはあらゆるところで行われ、エバンジェリスト的なキュレーターがいます。エバンジェリストとは、伝道師のことですが、IT業界で主に使われ、最新のテクノロジーを一般の人にわかりやすく伝えたり、解説したり、啓蒙したりする役割の人です。現代はあふれかえる情報の洪水のまっただ中にあり、その中から自分にとって有益な情報を選び取るのが難しい時代です。キュレーションの力は今後ますます必要とされると思います。

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