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教育は「ものを知ること」ではない

今日のおすすめの一冊は、柳平彬やなぎだいらさかん氏の『やる気を引き出す元氣の心理学』(ぱるす出版)です。その中から「店の店員の冷淡な客あしらい」という題でブログを書きました。

その中から『教育は「ものを知ること」ではない』という素晴らしい一節がありました。

「教育」ということばは、孟子が君子の3つの楽しみの中で語っておりますが、日本でよく使われ始めたのは、ほぼ120年前からで、明治政府になってからだと思います。当時、初代文部大臣になる森有礼もりありのりと福沢諭吉の間で、「教育と学問」を分離すべきかどうかが議論になりました。

森有礼は先進欧米諸国の技術に追い着くために、その前提として国民の教育、水準を上げるため、段階を追って知識を教え込んでいく画一的な方法論を取ったのです。 「ものを考えること」よりも、「ものを知ること」を優先したのです。「問いを学ぶ」学問は後でよいとする「教育と学問の分離論」を推し進めたのです(『近代日本教育制度史』中島太郎、岩 崎書店)。

この考えに真っ向から反対の立場を取った福沢諭吉は、子供の頃から問いを学ぶ「学問のすすめ」を啓蒙し、好奇心と探究心を持ってものごとを観察し、そうした心構えに裏付けられた合理的な批判精神を養うことを人づくりの目的として、日本の独立を考えたのです。 しかし、結果は森有礼の分離論が日本国の人づくりの基本方針となったのです。

この時に、Educationを教育と訳す間違いを犯してしまったのです。 Educationはラテン語の語源でEX(Out of)と Ducere(leadして引き出すの意味で、中世にDuctum になる)の合成された言葉で、人の持っている潜在的な力、Human Potentialを引き出すという意味なのです。

したがって、人づくりの基本的な概念にはこうした発想が原点にあるべきで、教育ありきではないのです。「教育」は Teaching、教え育むことで、Education ととらえては、その言葉の内包している範囲から逸脱してしまうのです。 教えるということは、他人(教える人)の頭を利用して考えさせることで、自分の頭で考える思考力の養成にならないのです。無論、教えなければならないことはたくさんありますが、それは人づくりの方法の1つに過ぎないのです。

「教育の構造改革」の第一の“理念、といわれている「『個性』」と「『能力』の尊重」の中でも、「自ら学び、自ら考え、行動し......」と書いてありますが、このことは教育を通しては困難になるばかりです。

川上正光教授(元東京工業大学学長)は、Educationを「啓育」と訳しています。そして、「Educationを『教育』を大誤訳し教育にすり替えてしまったのは致命的失敗である。教育はTeachingに該当し、教えることで、才能を引き出すEducateとは完全に逆の操作である。した がって、わが国では教えられるだけで、Educateは一切していないといっても過言ではなさそうである」(『独創の精神』 共立出版)と言い切っています。

Educationはむしろ「開智」とか「啓発」、「啓育」に近い概念で自らの力で自発的にものごとの道理を明らかにしていく好奇心と探求心に基づき、内発的意欲によって可能になるのです。

教育は人から教わるということで外からの力に依存する学習なので、内発的意欲が生まれにくくなるのです。こうした「教育」ということばの概念を正確に吟味しないで使い始めたためにEducationの言魂を吸収できず、人づくりにおけるボタンの掛け違いが起きたのです。本来日本人の持っている潜在力がゆがめられるキッカケを作ってしまったのです。

そして、そのことを正すことを戦後もしなかったのです。 高い志、ということばが「教育の構造改革」の中で使われていますが、内発的意欲の低下とともに本来の意味での志も風化し始めているのです。

われわれの祖先が漢字を仮借して表語文字の日本語を作った時は、こんな判断ミスはなかったのです。しっかりと漢字の言魂を吸収したのです。 このことがわかってから、私は「教育基本法」という言い方も中身と違っており、「啓育基本法」 と直して内容を吟味しないと実と名は一致せず、人づくりの改革など出来ないと思うようになり ました。また、志の言魂も「啓育基本法」の中であれば自然に生かされる概念になれると思います。

今、人づくりは、資格取りの点数などの設定というような枝葉末節な目標に時間を費やしている時期ではないのです、本気で人づくりに関して国家百年の計を考えるのであれば、急がば回れの近道で、名と実をまず一致させ、思考を正し、人々の持っている潜在力を引き出す啓育に取り 組んでいただきたいのです。そろそろ形の見えやすい制度や仕組みを変えるだけではなく、人づくりに関係する人々の意識や心構え・Attitudeを啓育へと変革するような基本的対策も工夫されることを期待します。

2020年に「新学習指導要領」が導入されました。これは10年に1度改訂されるもので、小学校では2020年度、中学校では2021年度、高校では2022年度から実施されます。今回の主な改訂点は、主体的で深い学びを実現する「アクティブ・ラーニング」の実施です。学校では「探求学習」「プロジェクト学習」「情報」「プログラミング教育」への対応が求められています。

中高生では特に、21世紀の最先端を学び、人生の選択肢を広げるための「探求学習プログラム」が重要視されます。つまり、ようやく明治以来の日本の「教育」の概念が変わることになります。真の教育とは教えることではなく、自ら学び、自ら考え、行動すること。

「探求学習」とは、生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見を交わし、協働しながら進めていく学習活動のことですが、まさに新しい教育の始まりです。

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