散文詩『洞窟で星をみた』2019.10.04



その場所が余りにも暗いから砕いた石鹸に火を点し、僕ら(あなた達)はいつまでも周りで座り込んでいた。手を繋いでいる。
お互いに目を逸らしあい、感謝を飲み込んでいる。喉の辺りが(風船のよう)膨れて苦しい。亀のように引っこめる。吐き出せない。
目を逸らしたまま、長い時間、お互いの手を触り合って確かめる。触れられるのは、此処でだけ。橙に点る火の側で(噂の滝)。縮こまる幼児のように丸まる僕らの、切子模様の脈拍が同じ速さで、なりつづける。(会いたかった ! ) 零れ落ちる脆い打鍵音。記憶を揺さぶる高い(音=言葉)。
とろけるような甘いチョコレートに、結び目をつけた細い手首の、女性的なメッセージカード。冷たい指先で開く(洞窟の音響) 微笑んで欲しいと願うお互いが。どうか、笑って。 (あなたへ) 花束が見たい、出来れば赤と紫がいい。深海の底に落とすくらい大袈裟に破って。
幸せになってくれたらそれでいいから。(あなたへ) 握り合う間に滲む汗が混ざり合いますように。お互いに見つめられない宝石みたいな瞳を (世界で一番の) 、どうか誰かが見てしまわないように。石になって。
届きませんように (燃やしてしまえ)。余りにも暗いから、赤と紫の花弁と、砕いた石鹸 (薪) に火を点す。気付かれませんように。どうか目を逸らし続け、お互いの手に触れ合っていられますように。(汗が滲む ( 会いたくない ( 本当は。「届きますように。」お互いの心臓に触れ合いたい僕らの、「合わせたくない目」。その日空が落ちて、僕らは星をみた。



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