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あなただけの町 上/ナチョスの短編

私は小さい頃とても大きな町で暮らしていた。

そう言うと、まるでその後引っ越したみたいに思われるかもしれないけど、それは間違いだ。

私は生まれてから現在に至るまで、この町から一歩も出たことがない。

私が変わったのではない。

この町が変わったのだ。

ある転機が訪れるまで、この町に無いものは無かった。

私は母とのお出かけが大好きだった。

母と出かける度に、新しいものに出会えたからだ。

おとぎ話のようか遊園地。

あらゆるスポーツを観戦できるスタジアム。

ハンドメイドのお洋服屋さん。

どんなことも学べる学校。

優しい先生とナースさんばっかりのお城のような病院。

私が知らない場所に出掛けた時は、母と毎回決まったやり取りをするのだった。

「ここもまだ私たちの町なの?」

「そうよ。ここも私たちの町の中。もっともっと向こうまで私たちの町。」

「どのくらい大きいの?」

「宇宙くらい大きいのよ。」

そんな町に転機が訪れたのは私が5歳くらいの時。

なぜか町が縮小された。

町の人口の増加がどうとか言っていたが、その頃の私には理解できなかった。

夢のような遊園地は、私の住む町のものではなくなった。

その代わりに、とても大きな映画館が出来た。

世界一の大きさらしく、町民は平日でも休日でも映画館に入り浸った。

私が8歳の時、またまた町が縮小された。

家族で観戦しに行ったスタジアムは、私の住む町のものではなくなった。

その代わりに、木々が沢山植えられ、人口的な森ができた。

そこに小鳥たちが住み着き、そのさえずりに町の人々は癒された。

その1年後、またまたまた町が縮小された。

母に買ってもらったお気に入りの服のお洋服屋さんは、私の住む町のものではなくなった。

その代わりに、欲しい、と思う前に何でもすぐ届けてくれるスーパーができた。

欲しい、と思っていなかったものが届けられたとしても、人々は、そうそうこれ欲しい思ってたんだ!と思っていた。

体の悪い町の人たちは、買い物に出掛けなくてもいいことを喜んだ。

そのまた1年後、またまたまたまた町が縮小された。

私が通った学校は、私の住む町のものではなくなった。

その代わりに、観たいものが何でも観れる美術館ができた。

町の人たちは、時と国を超えたあらゆる芸術作品を見せてくれる美術館に通い詰めた。

そして私が17歳になった時、またまたまたまたまた町が縮小された。

病気がない時でも行きたくなる病院は、私の住む町のものではなくなった。

その代わりに、食べたいものが何でも3秒以内に出てくるレストランができた。

実は私が12歳くらいの頃、ある事に気が付いていた。

人口増加という縮小理由が嘘だということを。






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