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ウィーンが君を待っている/Ep.6 命題

登場人物

正美…大樹の母。美容師。
やす兄…正美のパートナー。
大樹…ナチョスの大学からの友達。
ブライアン…ナチョスの大学の交換留学生。


あらすじ

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大学1年生の時に共に寮生活した交換留学生のブライアン。
半年間の共同生活の後帰国した彼が、
わたしの卒業式に合わせて約1ヶ月の日本旅行に来た。
関西旅行の間、私とブライアンは東大阪にある大樹の実家に泊まらせてもらった。
これは、ほとんどが事実の5人の旅行のお話。
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2023年3月31日  命題  
@MASAMI's HOUSE


ブライアンが朝の便で帰路に就いた。
彼と過ごした1ヶ月間はあっという間だった。

彼を空港で見届けた後、正美とやす兄は仕事へ向かった。

その夜。
お世話になった正美とやす兄の為に大樹と2人で何か作って帰りを待っていたかったのに、私たちは前日までの過密スケジュールもあって、遂に寝てしまった。
結局仕事終わりの彼らに弁当を買ってきてもらう始末。
情けなさと共に、ポテトサラダを噛み締めた。

夕食を済ませると、話は大樹の股関節の病の話に。

目の前で繰り広げられる親子の会話。

この時の大樹は、私が見てきた限りもっとも息子らしい表情を見せていた。
私は大稀と正美が話しているのを横で聞くことしかできなかった。

何かあったらいつでも言うてな。

その一言を、私は発することができなかった。
彼が気を遣われる事を嫌うのを知っているからだ。

それに何かあった時、絶対に私に話してほしいという訳でもなかった。

私はただ、家族以外の誰かに、自分を気にかけてくれる人がいる、と彼に感じて欲しかっただけ。

本当に頼れる人にだけ頼ったらいい。
しんどい時に誰かを頼れることは、強さだと思う。

そんなこと、言われなくても分かっているだろうけど。

話が落ち着いてから、正美は洗面所へ行った。
帰ってくると、彼女はまるで何か見えない力に突き動かされたように、ある話を語り始めた。

それは、死にまつわる話だった。

高校の同級生が事故で急逝した話。

知り合いが移住先のタイでアパートから転落死した話。

お客さんの娘さんが、ワーホリ先で行方不明になり、のちに死亡が確認された話。

数日前の夜、僕たちは国際寮の友人が持病の発作が原因で急逝した話をしていた。きっとその時、正美の頭には彼女たちの顔が頭に浮かんでいたのだろう。
その夜に伝えられなかったであろう思いが、正美から溢れ出ていた。

彼女の話に、私は死の恐怖を感じるようになった。
彼女自身が大病を患った経験があるからだろうか。
自分自身が抱えていた不安を言葉にされたからだろうか。

なぜだかとっても彼女の言葉に強烈な重みを感じてしまった。

彼女が私たちを怖がらせるつもりで話したわけじゃないことは理解している。
むしろその逆だということも。

「人生いつ死ぬかわからへん。毎日、亡くなった人らの分まで一生懸命頑張らなあかん。」

今自分ができることを全力でやらなければいけない。
人はいつ死ぬかわからないのだから。

頭では理解していても、彼女の言葉は私に死の恐怖を植え付けた。

彼女たちの次は私かもしれない、と。

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