映画館がない場所で生まれた彼女
大学一年生の時、私には彼女ができた。
彼女とは東京の大学で知り合った。
彼女と初めてデートに行った場所は映画館だった。(厳密にいうとその時はまだ付き合っていなかったけど。)
ある夜、彼女と電話をしていた時、彼女も私と同じく映画好きであることを知った。
私も映画好きだからとても嬉しかったし、子供の頃どんな映画が好きだったとか、どんなジャンルが好きだとか、作品を通して彼女の性格を知っていく過程が楽しかった。
部屋が人となりを表すように、好きな映画もその人を表すもの。
そういう人を全く悪くは思わないけど、周りの女子が観る映画は、大概少女漫画のようなラブストーリー映画が多かった。
そんな中で彼女は、SFやファンタジーやアクション映画ばっかり観ていた。
彼女ならこんな映画が好きなんじゃないかなぁって想像して、観てくれるか分からないけど(きっと彼女なら観てくれると信じていたけど)彼女が観たことのない、好きそうな作品をオススメするのも好きだった。
自分がいたから出会えた作品。
そう言ってもらえたら、映画好きとしても、彼女のことが好きな1人の男としても嬉しかった。
そんな映画好きの彼女は、映画館に行ったことがなかった。
「私映画館に行ったことがないの」
そう聞いた時、驚きを隠せなかった。
実は彼女は沖縄県石垣島出身で、島に映画館はなかった。
映画を観ること=GEOでレンタルすることだった。
その事を知った時、純粋に、映画好きとして映画館に連れて行きたい!と思った。
「じゃあ今度映画館行こ!」
「え、いきたーい!ポップコーンとか食べてみたい!」
いや、さすがに可愛すぎる。
この年齢で映画館で食べるポップコーンの味を知らないなんて。
デートで映画館に行けることと同じくらい、初めて映画館に行く人と隣で映画を観られることもとても幸せなことだった。
そうなれば、何を観るか、ということが大事だった。
「閉所が少し苦手で、大きい音も少し怖いかも…でも、アクションとかはやっぱり映画館で観てみたい!」
しかし当時はブロックバスター系の作品が上映されておらず、どうしたものかと考えた。
もう2週間後くらいには大作映画が公開されるけど、それまで待てない…
そして話し合った結果、彼女が絶対に怖がることのない作品を観に行くことになった。
『プーと大人になった僕』
彼女が映画館に早く行きたいと言わなければ、おそらく私はこの作品を映画館で観ることがなかっただろう。
鑑賞日当日。
「うわぁ、すごいポップコーンの匂いするね!」
「これって、映画が始まる前にポップコーン全部食べるの?」
「映画館で観る映画って、本当にすごいね」
「これってどこから音でてるの!?」
彼女の映画館デビューが初々しすぎて、スクリーンを見つめる横顔が映画そのもののような輝きを放っていて、正直映画の内容はあんまり覚えていない。
そしてその夜。
私は彼女に告白し、付き合うことになった。
それから映画館はデートの定番の場所になって、多い時は毎週2人で通った。
その彼女とは今もお付き合いが続いている。
私たちの間には2人で観た映画が溢れていて、日に日にその数は増えていっている。
それは本当に幸せなことだと思う。
これは後になってわかったことだけど、私たちが付き合った日はプーさんの原作が出版された日で、プーさんの誕生日だった。
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