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#9 『奇跡のリンゴ』(石川拓治)

他ジャンルの本を読んでいると、教育本以上に、教育に役立つ本があります。

今回はツッコミどころはなく、賞賛しかないです。


「育てるのではなく、手助けするだけ」

『奇跡のリンゴ』で有名な、木村秋則さんの言葉です。
なんて謙虚でいい言葉でしょう。

無謀とも言われた無農薬・無肥料でのリンゴ栽培に挑戦し続けて、ついにそれを実現した方です。

農薬を使わずに、害虫や雑草と戦いますが、リンゴの無農薬栽培が失敗し続け、絶望し追い詰められてしまいます。ついに自殺をするために山に入ったとき、木村さんは山の元気な木に出会います。

木村さんは、雑草を刈り取ることがリンゴの木によいと考えていました。しかし、それこそがリンゴの木を強くすることを阻んでいると気づきます。

害虫や木の病気と闘い続けた結果、無農薬・無肥料でリンゴを育てるには、土が大切だと思い至ります。最初は、見える部分である木や葉のことばかりを考えていたため、見えていない地中のことは考えもしませんでした。

木村さんの無農薬栽培に対する試行錯誤や得られた真理は、子育てに役立ちます。
「子どもを育ててやろう」なんて奢ってはいけない、「子どもが育つ」のを手助けするだけ。

子どもの枝葉ばかりを見ていないか

子育てでも、見えている現象や結果から相手を判断しがちです。
片付けができない、モノをなくす、脱ぎっぱなし、点が取れない・・・
だから、相手に強制したり、禁止したりして変化させようとします。そうすればするほど、結果は出にくくなります。

知らないことを教えてあげる、できないことをできるようにするのは悪いことではありません。でも、主役は子ども自身です。その子がわかろう、できるようになろうとする姿勢を喚起し応援しないと、健全に伸び続けてはいかないでしょう。

その子の根っこや幹は、どんな子か、何を考え、どうなりたいと思っているのか。そこをとらえず、対症療法である害虫駆除ばかりしていても、強く育つリンゴの木にはなりません。

子育てにおける土とは何か

木村さんは、雑草をそのままにしておくことで、土や生態系が豊かになり、それがリンゴの木を強くすると考えました。

子どもたちが伸びるためにも、障害を取り除いてあげるのではなく、必要な障害はそのままにすることで強くなっていくことがあります。「手を出さない」ことも教育です。この発想の転換は、ものすごく難しいことです。
だからこそ、それができると子どもは驚くほど伸びます。

雑草をそのままにしておくことは、必要なんです。

枝葉に現れた結果、つまりテストの点数だけで測るのではなく、土台となっている気持ちや態度に目を向けることが大切です。木村さんが考えた、土をよい土にするには、どうしたらよいかを考えるところが教育とそっくりです。

木村さんは、リンゴ栽培という一つのことを追求し続けていますが、感覚だけでやってきたわけではありません。実地で学んだ結果、植物学者が舌を巻くほどの知識を身につけていたそうです。すごい。

リンゴの木における「土」とは、子どもをとりまく環境、中でも家庭環境でしょう。

子育てをするのに、愛情は絶対不可欠です。理由がないのに抱きしめたり、笑ったり、たまに怒ったりすることも子どもたちの成長には欠かせないものだと思います。

愛情に加えて、エビデンスのある教育法を用いると、より高い効果が期待できます。「どうやるか」というハウツーも大切ですが、親という「土」を進化させるようなこういう本もはたまにはよいのでは。

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