見出し画像

#5 『勇者たちの中学受験』 おおたとしまさ

正直、この著者のどの本を読んでも、著者自身の考えにはあまり賛同できない。中学受験に対するスタンスにしても、教育に対するスタンスにしても。

それでも、今までなかったような企画で取材して本にしてくれているので、毎回興味を引かれる。そして、取材対象の人たちの話には有意義な内容が少なくない。

主観は少なめでいいので、そういう情報を発信してほしいと思う。

この本は、実際に中学受験を終えた親を取材し、実話をもとに脚色を加えたもの。物語仕立てで読みやすさもあるが、脚色が独特で読みにくい面もあった。

エピソード1 アユタ

自信過剰なお父さんの話。結果が出なくて子どもを怒って、でも結果は出ない。エクセルとか使って、子どもの学習を管理する「コンサル父さん」っぽい感じ。そして、それがうまくいかないという事例。

『二月の勝者』の順のお父さんタイプ。
中学受験する子の父親像として、典型的な「痛い」イメージの父親。そんな人ばかりじゃないといつも思う。エクセル使ってうまくやってる人もいるはず。まあ、うまくやってしまっていると、ドラマがなくて、読み物としておもしろくないのだろうけど。

うまくいかない原因はそこじゃない。つまり、父親がエクセルを使ったり、前面に出て情報を収集したり、戦略を考えたりすることではない。この物語の父親の最後の一言に尽きると思う。兄の受験が終わり、妹もするか迷う場面。

あれ以上どこを改善したらいいのかわからない。

「自分は全力を尽くした」と言ってしまうところに課題を感じる。コーチ側に内省する姿勢がないと教育はできない。

エピソード2 ハヤト

天才児を失敗させてしまうお母さんの話。「悟妃」で「さとき」さんというお母さん。なんでこんな読みにくい名前にしたのか理由が知りたい。

この母親が他の人にマウントできる理由がよくわからない。失敗して反省して、自分に矢を向けるかと思いきや、最後にまたマウントする。

受験が終わって一言。

「私、見えるようになった」と思えている。親として子どもを「見る」この意味がようやくわかった気がする。

「わかった気」になるのは怖い。

地域密着型のコミュニティー誌の編集部に勤めて、受験期のママたちのやりとりを見て一言。

いま自分が何を言ってもLINEグループのママたちには響かないのだろう。

自分に矢が向いているわけではなかったらしい。そもそも、親が意図的に子育てをして、子どものハヤトくんが育ったわけではない事例。まさに天才肌の子。とてもいい能力の持ち主を壊してしまったことで、何を学んだのだろう。
この人にアドバイスもらうのがいいのか悪いのかはわからない。

最後に著者が、

ハヤトを馬鹿にする奴は許さない

と書いているが、ハヤトくんを馬鹿にする人はいないんじゃないかな。

早稲アカに通おうと思っている人は、いちお目を通しておいた方がいいと思う。

エピソード3 コズエ

一番フツーの話。

中学受験が子どもにとって、家族にとってよい経験になったというエピソード。
実は、そういう家庭が多いのではないかと思う。

ステレオタイプな展開すぎる

この本だけでなく、中学受験に関わる物語はどれも同じようなホラーストーリーが多い。『二月の勝者』も『きみの鐘が鳴る』も、基本設計はそうかわらない。

「コンサル父さん」と「マウント母さん」もフォーマット。

実際は、冷静に我が子と向き合って、荒波のようなドラマもなく難関校に受かっていく人たちもいる。エピソード2「仁藤くん」みたいな。
個人的にはそういう家庭の幼児教育にものすごく興味がある。どうやって、口を出さなくても学習の効果が出る子に育ったのか。ドラマ性はないし、時間的に幼児に戻ってやり直すことはできないから、これからも注目されないのだろうとは思うが。

結局、下剋上受験が圧倒的に異端で、物語としてはおもしろい。

成績は上がらない?

エピソード3の塾を著者は高く評価していることは書き方からも伺える。それは個人の意見だし、いいと思う。でも、志望校に落ちている。

中学受験の体験をその後の人生にどう生かすかが大事だとも思う。でも、結果がどうでもいいなんてことは絶対にない。そこがメインなわけで。「とてもいい」と言われる塾でも、望む結果を出してくれるわけではない。

漫画も小説もノンフィクションも、どの子もほとんど成績が上がっていない。中学受験のカリスマ教師の本を読んでも、成績が上がっている感じがない。

最初からトップクラスの子は、既定路線でトップ校に受かっていく。偏差値が40くらいの子が、60まで上がる事例なんてほとんど出てこない。
進学塾の価値とはなんぞや?って思わされる。

いや、実際は上がっていないのではなく、上がってはいるのだろう。だけど、周りの子たちも上がっているから、偏差値的には横ばいになる。平均以上の伸び方をすることは簡単じゃない。

進学塾に通えば、学力を伸ばせるというのは幻想なんだと思う。伸びるかどうかは、その子、その家庭次第。

やっぱり幼児期、進学塾に入る前に、どんな力をつけていたかで決まっている部分が多いと思わされる。

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,092件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?