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幸せはジャムの瓶の中にある

フランスでは朝食にジャムやハチミツは欠かせません。
義理母は毎年ジャム作りが習慣で、お手製のジャムを沢山作っては私達に分けてくれます。
我が家もかつてはマルシェでイチゴやアプリコット、リュバーブなどを大量に買ってきて、一年分のジャムを作ったことがありました。でも今は義理母からのお裾分けや、お店で扱っているローランのジャムを朝食のお供にして1日が始まります。


千と一つのジャム

一昨日、Chinon(シノン)にあるジャム生産者Mille et une Confitures(ミル・エ・ユヌ・コンフィチュール)に伺いました。
沢山の種類の中から、今回は9種類のジャムとジュレを仕入れてきました。
(ジュレはゼリーよりも柔らかく、流動性があります)

代表のローランは、フットワークが軽く、見るからに人の良さそうな方。
彼は季節の果物や野菜、花、植物を使ってオリジナルレシピでジャムを作っています。彼の遊び場は、個人の庭やシャトーの庭園。おそらく果物や野菜や植物に触れることで、レシピのイマジネーションが広がるのでしょう。

Mille et une Confituresという名前を見た時に、「千夜一夜物語」がすぐに頭に浮かびました。「千夜一夜物語」はフランス語だと「Les Mille et Une Nuits」になるからです。

彼のジャムには色んな物語が詰まっているように思います。今回はそんな「千と一つのジャム物語」を彼の話やホテルの資料を元に書いてみます。

ジャム、偶然と家族の物語

サントル・ヴァル・ド・ロワール地方とロンドンのホテル業界で長年働いた後、ローランは幼少期を過ごしたChinon(シノン)に戻ってきました。
彼は地元のHôtel Diderot(オテル・ディドロ)の受付係として働き始めます。

ローランが働いていたHôtel Diderot、15世紀に建てられた建物です
写真はホテルのサイトからお借りしました

以前この建物はシノン市の登記所として使われていて、ライネル夫妻が1960年代にこの建物を購入し、ホテルに改装しました。ライネル夫人は庭で採れた果物を使って伝統的なジャムをホテルの朝食用に作り始めました。

その後、1980年にこのホテルはカザミア夫妻に売却されました。
カザミア夫人はホテルを引き継ぐと、ジャム工房を発展させ、香りのよいペラルゴニウムなど独自の工夫を加えていきました。
以前アフリカに住んでいた彼女は、バナナをレパートリーに加えていきます。初代の伝統的なジャムだけではなく、エキゾチックなジャムが加わっていったんですね。

ローランはカザミア夫妻がオーナーの時に受付係をしていました。
ある時、オーナーが突然に病気になり、ローランがジャム作りを受け継ぎます。彼にとっては新しい挑戦でした。
そして2003年、ローランは妹のマルティーヌ、フランソワーズと共にホテルの経営を引き継ぐことになりました。

彼はオリジナルのジャムレシピを考案し始め、レパートリーに多くの新しい果物や野菜、花、植物、シノンのワインなどを導入し、50種類以上のジャムやジュレを作っていきました。

ホテルのサイトのストーリーのページに「どうしてジャムなのか?」が記載されていることから、このホテルを語る上でジャム作りの歴史が欠かせない存在なのでしょう。ジャムのバリエーションを50種類も広げていったのは間違いなくローランです。

ホテルの朝食風景。奥の棚には沢山のコンフィチュールが並んでいます。
写真はホテルのサイトからお借りしました


時は経ち2015年、ホテルはダニョー夫妻に引き継がれました。

ローランはホテルを手放した後もジャムの生産に情熱を注ぎ、顧客はそれを買い求め、「mille et une confitures」の物語は2016年1月に始まりました。

自家製のオリジナルジャム

ローランと彼の姉妹が作るジャムにはすべてストーリーがあり、ジャムの名前にも意味を持たせています。
例えば "Pêches et prunes de chez Mado"  マドさんの家の桃とプラム
"Rhubarbe et rose du château du Rivau" リヴォー城のリュバーブとローズ
など、果物の収穫のために時々庭や果樹園を彼らの為に開放するシノンの人々の物語です。

また、エルダーフラワーやサクランボを収穫した場所の名前にちなんだり、オノレ・ド・バルザックがコーヒーをこよなく愛したことにちなんでブラックベリーとコーヒーを組み合わせた "L'instant Balzac"のように作家の名前にちなんだものもあります。

そしてジャム一つ一つにローランなりの説明が加わります。
例えば、“Framboise et Rose confiture pour Liz Bannister ”リズ・バニスターの為のラズベリーとローズのジャム

真ん中の瓶が“Framboise et Rose confiture pour Liz Bannister ”

このジャムの説明はこうです


このレシピに値する人がいるとしたら、それは庭とバラを愛するリズだろう。何年もの間、彼女は私たちのホテルの庭を美しくしてくれる貴重な助っ人だったのだから、この繊細なレシピで彼女に敬意を表すること以上にふさわしいことがあるだろうか?

Mille et une Confituresのサイトから引用


果実から砂糖、摘み取りから調理、瓶詰めやラベル貼りに至るまで、すべて手作業で行われています。

Le bonheur est dans le pot de confiture」
シノンでジャムを作る彼にとって、幸せはジャムの瓶の中にある
そのジャムは私たちを幸せな気分にしてくれます。Mille et une Confituresはそんな幸せの循環で成り立っているように思います。

私達のお店でもMille et une Confituresのジャムは人気です


YouTubeではローランがジャムを作る過程が紹介されているので、興味があればご覧ください。









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