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ラノベ ある勇者の悩み事(1)

 ある日の夜、王都から離れた遠い森の中で一つのパーティーが野営していた。彼らは他でもない、魔王討伐の為に王の詔によって、結成された最強パーティーだ。メンバーは全員、ギルドのお墨付きの強者ばかり。
 ハリオル・ミンス。彼は十五年もの間、冒険者として活動している。魔法はあまり得意ではないが、武術や剣術なら誰にも劣る事は無かった。
 リレン・エストナー。彼女は元々王家の警備官で、送り込まれたスパイや暗殺者を捕まえて、拷問にかけるのが役割だったという。筋肉質な体つきをしており、ハリオルからよく言い寄られている。
 ムドルテ・タルガードナー。彼がこのパーティーのリーダーを務めている。ハリオルとは同じパーティーに所属していたので顔見知りである。こう見えて愛妻家だという。
 ソルトマロン・イスカルタ。彼女は俺の年下の幼馴染だ。魔術に長けており一通りの術は使える。そして凄い可愛い。これ内緒な。
 そして、この俺。ガロシュカ・クラッド。七年前から冒険者やってます。何故かは知らないが、魔王討伐パーティーのメンバーに選ばれた。この依頼は俺にとって、荷が重すぎるとずっと思ってる。
 そんなわけで魔王の巣窟を目指して出発し、森で野営していた訳だが、夕飯を全員で食べ、少し談笑した後にさて寝ようかというその時、俺はとてつもない不安に襲われた。他のメンバーとは仲が悪い訳ではないし、忘れ物をしてきたとかそういう下らない事ではない。
 あれ…、魔王討伐した後、俺は何して暮らしていくんだろう…?
 魔王を倒せば、この世界のモンスターは消え去る。つまり、冒険者という職業が無くなるという事だ。俺はついさっき談笑していた雰囲気を思い出して、唇を噛んだ。俺はこのパーティーが好きだ。それがもし用無しになって、解散したとしたら…。嫌だ、それだけは避けたい。
 俺は自分でもよく分からない不思議な感覚に襲われて、パーティーから逃亡する事を思い立った。メンバーが行方不明になれば、冒険は中断する。汚い方法だが、これしかなかった。鞄から紙を取り出して、魔法を使ってメモを残した。                   『自分探しの旅へ行きます。冒険は続行して下さい。お願いします。  ガロシュカ   』
 冒険はどっちにしろ、メンバーの行方が確認出来るまでは再開出来ない為、このように書いても問題はなかった。
 そして鞄を持って俺はその野営地を飛び出した。背後は振り返らなかった。

 私が目覚めて朝食の用意をし始めた時、妙な胸騒ぎがして、彼がいたテントを覗くと、案の定彼は既に居ませんでした。妙な置き書きを残して。私は心配で胸が押し潰されそうになりました。
 リレンさんにこの事を伝えました。
「ガロシュカ…どこ行ったんだろうな?」
「はい…」
その後、起きて来たハリオルさんとムドルテさんにも伝えました。
「くそ、何処行きやがったんだよ!昨晩まで楽しそうにしてたじゃねぇかよ!」
 ムドルテさんは冷静に応えた。
「…ともかく、魔王討伐は中断する他ない。王にはリレン。君から連絡してくれるか?」
「はい。分かりました」
 実を言うと私は彼が好きで、魔王討伐した後に告白しようと思っていました。幼い頃はよくガロちゃん、なんて言ってよく遊んでいたので。それが今や、同じパーティーに所属して共闘する事になるなんて…。とっても嬉しく思いました。それなのに、彼は何処へ行ってしまったのか。私は心配で仕方がなかった。
「…探しに行きましょう」
 ハリオルさんが言いました。
「嬢ちゃん、アイツがどっちの方角へ行ったか分かるのかい?」
「…いえ、分かりません。ですが、行かないよりかは遥かにマシだと思いまして」
ムドルテさんが頷きながら言いました。
「…そうだな、彼を探しに行こう。我らは即席とはいえ、れっきとしたパーティー、仲間だ。ソルトマロン、君の仲間を想う気持ちは確かに伝わった。直ちに全員準備をしてくれ」
 私は装備を整え、杖を持って、駆け出して行きました。
 
 どのくらい歩いただろう。既に日は昇っていた。もうそろそろ俺が居ない事に気付く頃合い だ。
 俺は側にあった倒れた木に腰掛けた。すると木から「キュッ!」と何かの声がした。
何だ、モンスターか、と思って武器を構えた。中からのそのそと白いふわふわの物体が出て来た。
「いてぇな。おい。気をつけやがれ」
 俺はその物体の生意気な態度に腹が立って、ナイフを突きつけた。
「何だよ!…お前を殺したりしねぇよ」
それは初めてみるモンスターだった。それにしても、言葉が話せる種族だとは…。噂で聞いた事はあったが、レアな為になかなか見つける事は出来なかった。
「お前は何て名前なんだ?」
「ユヌマル。種族名はグリフトラム。世にも珍しい喋るモンスターだ」
「ふーん。しょうもな」
「は!?そう言う事言って、良いんけ?」
何で喧嘩腰なんだ、こいつ…。
「…ところで、パーティーメンバーはどうしたんだ?一人でこの森を攻略しに来たのか?」
「いや、逃げて来た」
「はぁ!?何でだよ!?」
「実はな…」
 事のあらましを説明し、俺はユヌマルに尋ねられた。
「…ふーん、なるほどな。お前、今寂しいか?」
「…いや」
「寂しいなら、おれ様がついてってやるよ!」
ユヌマルはおれの頭に飛び乗った。グリフトラムは全体的に人懐っこい種族だから、殆ど攻撃はしてこないので、安心した。
「お前、行く宛はあるのか?」
「うーん。ない」
「ないのかよ…」
 俺はユヌマルを連れて、森の奥へ進んで行った。大きな不安を抱えて。
                 (続)

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