見出し画像

ラノベ ある勇者の悩み事(4)

 目覚めは最悪だった。俺はまだ眠たい目を擦って、寝台から起き上がった。そうだ、俺はあのパーティーからびびって逃げ出したんだったな…と思い出したのだった。夢の中ではあのパーティーでの冒険が続いていた。
 もし、逃げ出していなければ…と思ったけれども深く考えるのをやめた。他の皆は今頃、俺を探し回っている。それで俺の事をいつか見放すはずだ。
 寝台から降りて、部屋の窓から外の風景を眺めた。のどかな田園と長い河が、広がっているのが見える。俺はその風景にどこか懐かしさを感じた。故郷の河でよく、ソルトマロンと遊んでいた事を思い出した。あんな川に行って、魚を素手で捕まえてリリースするだけの遊び。
 あの頃は純粋だったと振り返って思った。何も考えなくて良い子供時代こそ、俺の人生の黄金期だったのかもしれない。
 ユヌマルがのそのそと起きてきた。
「おめぇ、起きるの早いな」
「目覚めは最悪だよ…」
「そうか?俺はぐっすり寝れたぜ」
 そんな会話をしながら、俺は外の風景を眺めていた。

 野営地を出発し、私達は村へ歩き続けていました。サロン村と書かれた看板をいくつも見たので、あともう少しで着くはず。
 背後から声をかけられた。それはリレンさんだった。国王に、ガロシュカが居なくなった事を伝えて来たという。さすがだなと、私は思った。王都までは普通に歩いて三週間程かかるけれど、彼女はたった三日間でここまで戻って来たのだから。ハリオルさんは隠し切れない程の笑みをこぼしていた。
 そうして彼女と合流し、村へ向かった。
 やがてサロン村に着いた。周囲にはのどかな田園や山があって、故郷の村に似ていたので私は懐かしく思った。
「この村に居るといいが…」
「ムドルテ、アイツのことだ。今頃この村を発ってるんじゃねぇか?」
「しかし、まだ居るかもしれません。探しましょう」
「そうね、ソルト」
リレンさんも首を振って頷いてくれた。私達は手分けして、彼の行方を探す事にした。
 私は料理屋が立ち並ぶ、メインストリートを探す事になった。まだ朝だというのに良い匂いが漂っている。料理の下拵えでもしているのかもしれない。
 いくつかの店に立ち寄って店主、店員に話を聞いていくが誰一人として彼を知る人は居なかった。やはり彼はこの村を訪れていないのか。他の女の人に盗られるかもしれない不安で一杯になりながら、私は隣の料理屋に話を聞きに行った。
 扉の上には「ねこねこ亭」と書かれていた。私はその扉を軽くノックした。
「ごめん下さい」
中から、小太りの獣人の男性が出て来た。
「あ、すみません。まだ営業していなくて…」
「いえ、少しお話があって。あの、赤い髪をしてこれくらいのナイフを持った冒険者が来ませんでしたか?」
「うーん。…確か、昨日モンスターと女性?を連れたそのような男性が来店されましたが…」
「えっ…」
モンスター?女の人?彼が?いつ?何処で?それはあり得ないことだった。いや、そうあってはならない事だった。私は混乱してどうにかなってしまいそうだった。
 私は続けてその男性に尋ねた。
「…彼らが何処に居るか、分かりますか?」
「…さぁ、そこまでは。すみません」
 私はその店を出た。この時から、私の心は歪み始めていたのかもしれない。…彼は何処へ行ってしまったのか?それを突き止めなくてはならなかった。あの時の約束を果たして貰う為に。

 デメレスが起きるのを待ってから俺達は、宿屋を出た。起きるのを待ったと言っても、一応起こしたのだけれど。デメレスは目を擦っていた。まだ眠たいらしい。
 広場へ向かって歩き進んでいると、目の前に見覚えのある人物が現れた。ソルトマロンだ。もう此処を突き止めたのかと焦った。一番見つかりたくない相手だ。そして気のせいか、目の光が無くなっている気がした。
 俺は咄嗟に近くの建物の影に隠れた。
「おい、どうしたんだよ!」
「アイツは、俺のパーティーメンバーなんだ」
「マジかよ。結構可愛いな」
ユヌマル…お前、マセてんな。
 俺が見つかったらどうなるのか?「腰抜け」「出来損ない」「ビビり」「弱虫」なんて言われるかもしれない。どうしても見つかりたくはない。
 アイツはこっちに向かって来ていた。不意に幼少期の思い出が蘇ってきた。笑顔でアイツに花を渡す俺だった。
『…おれがつよくなったら、けっこんしてほしい』
アイツは満面の笑みで大きく頷いた。もしかしたら、今もこの事を覚えてるのかもしれない。
 俺は情けなく思った。下らない事でパーティーを逃げ出して。俺は強くも何ともなっていない。もしそれを覚えているなら、俺の事など諦めてくれ。俺は約束を破った屑だ。
 俺はあのパーティーとは別れたくない。あのメンバーで、魔王を討伐してからも新しい場所へ冒険に行きたい。
 俺はそれを願っているのだ…。
                  (続)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?