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ラノベ ある勇者の悩み事(3)

 俺達は農夫にこの村で一番の料理屋を教えてもらった。名を「ねこねこ亭」と言って、獣人の男がオーナーを務めている店だと言う。
 俺達は農夫と別れて、店へ入った。中は思ったより綺麗で、木で出来たテーブルに温かみを感じた。
 やがて中から小太りの獣人の男が出て来た。
「いらっしゃいませ。ようこそ、ねこねこ亭へ。冒険者様であらせられますか?」
ユヌマルが俺を見て、フッと汚い笑みを浮かべた。やめてくれ、それを言うな。
「はい、一応…」
「そうでございますか。それでは、お好きな席に座ってお待ち下さい」
 俺達は窓側の席に腰を下ろした。遠くにある湖が見えた。
 デメレスが周囲を見回している。
「そんなにキョロキョロして、一体どうしたんだ?」
「いや、人気店という割には人が居ない気がして…」
確かに俺達以外には人が居ない。でも、たまたま居ないだけだろうと思って、デメレスを諭した。この店の料理はどんなものなのか、楽しみで仕方がない。
 やがて、若いウェイトレスが料理を持ち運んできた。焼いた何かの肉と酒。冒険者お決まりのメニューだ。
 俺達はそれにがっついた。あの日の夕食から食べていないから腹はとても空いていた。味は、普通に美味かった。脂の乗った分厚い肉は食感と風味が共に良く、人気一番だという理由も分かった気がした。
「うめぇな、この肉」
 ユヌマルの食べ方はとても汚い。肉の破片が至る所に飛び散っている。まぁ、モンスターだから仕方ないかと割り切ったのだが。
 たらふく食べた後、眠気が襲ってきた。夜も遅い。さっさと宿屋にでも行って、眠るとしよう。
 俺達はその料理屋を後にした。

 眠れない。彼の事が気掛かりでとても眠れない。私は床に入っても眠気すら起きないので、近くを散歩する事にした。風がとても心地良く吹いている。
 ふと、空を見上げて考えました。既に彼が知らない女の人と付き合っていたら…と。私は自身のどす黒い一面が分かったような気がしました。そんな事は考えられない。あの人の隣に居るのは私。ずっと昔から居たのも私。もし、そのような事があったなら私は気がおかしくなってしまうでしょう。
 そしてその後一体どうしてしまうのか、分からない。

 宿屋に着いて、部屋の寝台にダイブした。寝台で寝るのは王都に上京して来て、魔王討伐にスカウトされるまでだったから、久しぶりだった。と言っても三週間程だけれど。
「ヌァ〜、ふっわふっわだぜ〜」
ユヌマルは溶けきっている。この寝台は、俺の実家の寝台に似ていた。今夜はよく眠れるに違いない。
 デメレスに話しかけた。
「そういや、詳しい自己紹介まだだったな。あんたは何処出身なんだ?」
「…実は王都なんです」
「え!王都だって!」
王都出身の人間は大抵、王家に関わりのある一族の者だ。もしかしたらデメレスも、そうなのかもしれない。
「…実は家出して来たんです」
「え、何で?」
「…両親が王家護衛隊に所属していて、お前も後を継げと言ってうるさくて」
「なるほど…」
 王家に仕える人間はストレスや疲れが溜まるに違いない。まずは無愛想な国王。俺も余り好きではない。女王は常に上から目線だし、王女はわがまま。
 使用人は大体半年で辞めていく。そりゃそうだろうなと、心の中で納得した。王女の遊び相手なんか地獄だろうな。俺達にタメ口を使ってきた時は、怒りでいっぱいだった。しかも、俺によく絡んできたから、すっごい嫌だった。
「…よく分かるぞ」
「え、国王に会った事があるんですか?」
 やばい。俺が国王の詔で結成された魔王討伐パーティーのメンバーだとバレたら、何故此処にいるのかと聞かれて、逃げて来たと言えば「腰抜け」とか呼ばれるに違いない…。それだけは嫌だ…。
「ああ、都の人がよく言っていたから。国王はそんな人なのかと思って」
「なるほど…」
上手く誤魔化せたようで、良かった。
 ユヌマルは寝息をたてて眠っていた。
 それにしてもソルトマロンには、カッコ悪い所を見せちゃったな。今頃、失望してるだろうな。アイツはあんな腑抜けだったのかって。俺はこの日々が大好きだから、許して欲しい。魔王を倒せばこの日々は無くなるから…。
 心の中でその事を懺悔した。さて、そろそろ寝るとしよう。
 俺はランプの灯を消した。
                  (続)


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