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ラノベ ある勇者の悩み事(2)

 森の中を歩いて数十分、ユヌマルは呑気に鼻歌を歌っていた。俺の気も知らずに。
「ちょっと、鼻歌やめてくんね?」
「何でだよ?」
「俺はそういう気分じゃねぇの。今もとてつもなく不安なんだよ!」
何だか分からない。でも不安だ。未来が恐ろしくて仕方がなかった。
 その時、背後から何か声がした。
「助けて下さい〜!」
「何だ?誰か襲われてるのか!?」
「とにかく急ごう!」
 その声をした方向に向かって、木や草むらを横切って進んだ。
 開けた場所に出て、中央を見た。尻もちをついた若い男と、数体のゴブリンが居た。
「下がっててくれ」
「はい!…」
俺は持っていた剣で切り裂いて、全員倒した。ゴブリンは下級モンスターで、何処にでもいるから大概の冒険者は倒せる筈なのだが…。
 俺はその男に尋ねた。
「あんた、名前は?」
「…駆け出し冒険者のデメレス・ロンケストって言います。助けて下さり、ありがとうございました!」
「そうか。俺はガロシュカ・クラッド。よろしく頼む。で、コイツはユヌマル」
「よろしくな」
「よろしく…」
 モンスターが話しているので、男は若干引き攣った顔をしていた。
 そして腹が鳴った。
「…あ、何か食べませんか?」
「そうするとしようか。こっから一番近い村って何処だ、ユヌマル」
「そうだな、南にあるサロン村じゃねぇか?サロンはうめぇ料理屋があるらしいぜ。冒険者の話を盗み聞きしてて、そう話してた」
 俺達は新たなる仲間と共に村を目指して、歩き出した。

 私達は森を出て、付近にある村を目指していました。何か手掛かりがあるかもしれないと思ったのです。
 ハリオルさんが眠たそうに、大きく口を開けてあくびを何度もしています。
「ったく。…何があったら、魔王討伐の途中に自分探しの旅なんぞに行こうと思うんだ?」
私は直感的に、紙に書かれた『自分探しの旅』というのは嘘ではないのかと思いました。昔からわんぱく、それでいて目に無数の輝きを持っていたあの人がそのような事をする筈がない、と勝手に解釈していたのです。
 ムドルテさんが立ち止まって言いました。
「サロン村へはあと少しで着くだろう。だが、気を抜くな」
リレンさんは王に連絡する為に、一時王都に帰還しているので、此処には三人しかいない。彼は本当に何処へ、何故行ってしまったのか誰も分かりません。
 私はひどく心配していました。もし、途中で上級モンスターに殺されてたりしたら…?嫌です!何としてでも、この想いを伝えたい。
 その思いを胸に抱き、私はただ歩き続けていました。

 俺達がサロン村に着く頃には、日は既に沈みきっていた。
「ユヌマル、お前。嘘ついたろ?めちゃくちゃ遠いじゃねぇか」
「悪かったな。近くにあるのは、この村しか知らねぇんだよ」
絶妙なキレ具合のユヌマル。話しさえしなければ、女子に好かれまくる白いモコモコなのにと憐れんだ。
 デメレスが口を開いた。
「えーっと、料理屋は何処か分かりますか?」
「知らね」
ユヌマルは冷たく返した。何だよ。村を知ってるなら料理屋の場所くらい覚えとけよ。デメレス、泣きそうじゃねぇか。
「…適当にその辺の人に聞くか」
「そうだな」
 俺達は近くにいた農夫らしき人に、尋ねてみることにした。

 ハリオルさんとムドルテさんと共に私は湖の周辺で、野営していました。既に夕食は済ませたので、私は湖の水平線を眺めて黄昏ていた。
 ハリオルさんがやって来た。
「嬢ちゃん、こんな所にいたのか」
「はい」
「ガロシュカ、幼馴染だったんだっけな」
「そうです」
ハリオルさんは私の隣に座って、同じく水平線の向こうを眺めた。
「…私、あの人と故郷の河でよく遊んでいたんです。魚を手で捕まえて、すぽんと手から抜けていくのがとても面白くて。よく二人で笑ってました」
「…そうか。気に病む事はない。時期に見つかるだろうよ」
「リレンさん、居ないですけど寂しくないんですか?」
「俺はリレンが好きだ。アイツは自分は女らしくないからとか言って消極的だが、自分の価値を全く分かってねぇなってつくづく思うぜ」
ハリオルさんはよくリレンさんに告白じみた事を何度もしているが、リレンさんは自分に自信がないのか、「すぐ飽きる」とか言って謙遜し続けていた。
 かつて、私も自信が無かった。自分の価値をよく分かっていなかった。でも、あの人に可愛いねって言われてとても嬉しく思った。でも、今のあの人は自分を見失っている気がする。だから、私が教えてあげなくちゃいけない。何があったのかは分からないけれど、それだけははっきりとしていた。
 私はただ水面に反射する月を眺めていた。

                  (続)

 


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